本編の幕開け

 丁寧な口調と、まだ聞きなれていない日本語のアナウンスで目が覚めました。後から英語版でも流れましたが、気分が高揚しているのを感じます。


『皆様、○○空港に到着致しました。この飛行機は○○ゲートに…』


 日本人ではない方々が、半分以上を占めていますね。しかし、どうも向こうで生活してから、外国人という表現を使いにくくなりました。今の私にとっては日本人も外国人みたいなものですから。


『君が見ていたように、日本のほうが近代的に感じるね。四角い建物がいっぱいだ。よほど効率とかなんやらを重視しているのだろうね。』

『ここからでは見えにくいですが、都心部に比べればまだかわいいものですよ。それにしても、空気はあちらの方がいいはずなのに、故郷のような安心感がありますね。この鼻・目・耳も慣れますよ。』

『確かに、向うで起こっていた喧嘩とかよりも、いいのか悪いのか判断がつかないね…これでSDGsとかは大丈夫なんだろうか?』

『むしろ、二年でそこまで変わられていた時のほうが困りますが、あらかじめ調べた感じだとマイナンバーカードとかまだいいらしいですね。』

『便利よりも不便が勝つなんて、日本らしくないね?』

『偏見がすごいですよ…、予想外が重なったようですし、やりたくなければやらなくていいですから。そもそも外国人ができるのかさえも分かりませんよ?』

『僕にとってはまだイギリスのほうが故郷なんだ、悪いかな?』

『はあ、巻きこんでしまったことは謝ります。』

『冗談だって。ほら、そろそろ君の番だよ?』


 キャビインアテンダント(CA)さんに、荷物を下ろすのを手伝ってもらい、大きめの荷物を取りにコンベアのところへ向かいます。


『制服はこの期間に届くとして、こんな服も入れてたんですね、シア様…』

『トワがコスプレとかするなら、補修でもすればアニメのキャラにでもなりそうだね。あっ、ミシンとかないか…』

『針や糸は百均で買えますけどね、さすがに時間はなさそうなので、リメイクはミシンを用意してからになると思います。』

『ところで、住む場所はどんな場所なの?汚くない?寝床はあるよね?』

『まあまあいい場所らしいですよ?マンションで、前言ってた社長が手配してくれたらしいですね。』

『随分よくしてくれるんだね。その様子じゃ、ローンとかもないんだろ?よほどおっきな会社なのかね~?』

『そうですね、五日後くらいに娘さんに会うそうですよ?やっぱりメイド服で行くべきですかね…』

『流石にあれで移動したくないよ?僕も君が恥ずかしくなくても、執事なんだからご遠慮したいんだ。』

『執事が板についてきましたね。』


 ここからは、電車に乗ることにした。



『うわ、本当にここですか?住所間違ってたりしませんかね?ここまでセキュリティが固いマンション、日本でも見た事ありませんよ⁉︎』

『うわあ、大きさだけで言ったら、あのお屋敷よりもでっかいからね…、庭を含めたらどうかわからないけど、上は圧倒的にこちらが有利だからね。』

『これ、この広さで十階建てで、部屋は二十しかないらしいですよ?こんなの、強盗に狙われたっておかしくな…、こんな警備だったら大丈夫ですか。』

『そうだねえ、さすがに警察が常駐とかはないけど、受付の人も二人以上っぽいからね、そもそも、この自動ドアを認証キーなしで入るためには、それこそ爆弾とか真面目に必要になるんじゃないかな?』

『とりあえず、受付の方に聞いてみましょう。』


 受付の中には、よく見ると三人の人が居ました。一人が細マッチョな男の人。もう一人が受付らしい服を着た女性。最後がいかにもできる秘書っぽい美人さんでした。


 ここは受付嬢っぽい服装の人に話しかけましょう。談笑中ですが、時間の無駄ですので。


「すいません、少しよろしいですか?」

「ん?すいません、関係者以外は立ち入り禁止でしてね…はあ、またストーカー?どんなこと話してたら住所バレるのよ(小声)」

「すいません、顔を見たらわかると言われたのですが大丈夫ですか?」

「へ?嘘でしょ、まさかトワさん⁉︎日本語うますぎない?日本人かと思ったわ…」

「はい、今日からここでお世話になる、トワと申します。これからはよろしくお願いします。」


 一通り挨拶を終えると、秘書っぽい人が話しかけてきました。


「へえ、あなたが社長が言ってたトワさんなのね、声もすごく綺麗だし、声だけ聞けば外国人だってわからないのかも。ちょっと英語で発音してみてくれる?」

〈これでいいですか?〉

「ああ、凄いわね。透き通っているから発音もわかりやすいわ。日本語はどこで学んだの?」

「実は、独学でして、間違いがあれば教えていただけると幸いです。」

「うわあ、丁寧な言葉遣いも完璧とか、これがいわゆる天才なのかもしれないわね…」

「あちらの男性はどんな方ですか?」

「あれは警備員兼受付の方よ。」

「…そんな所に私は住んでいいのでしょうか?」

「優良な物件に粉をかけてるんでしょう。あなた、ずいぶん社長に気にされてたし。」

「粉をかけるとは?」

「(え?知らないの…?)何でもないわ、あなたの家族があなたの事をとても褒めていたから、それでじゃない?」

「そうですか、本当にありがとうございます。そういえば、あなたはどんな仕事をしているのですか?」

「私は、マネージャーをしているわ。」

「マネージャー?芸能人さんがここに住んでいるのですか?」

「ああ…、そうとも言える  のかしら?」


 微妙そうな視線を向けられつつ、私は自分の部屋へと向かったのでした。しかし、やけに憐れむような顔をしていましたね?


 とにかく、私の住処となる部屋は、このマンションの六階です。エレベーターを使わせてもらいましょう。


 ボタンを押そうとすると、エレベーターが下がってくるのが、点滅で分かりました。もしかしたら、俳優とか芸能人の方かもしれません。礼儀を大切にしないと…


「ふわぁ⁉︎」

「こんにちは、今日から六階の一号室に住むことになった、トワと申します。よろしくお願いします。」


 エレベーターから出てきたのは、体が小さい美少女でした。少し茶色っぽい髪が、少しぼさっとしています。


「え?先輩じゃない…?もしかして、社長からスカウトされたっていう三期s「やっと来ましたか!早く車に乗ってください!遅れるかもしれないですよ〜」あ、分かりました。今行きます!わからないけど、これからよろしくお願いします。」

「こちらこそ、よろしくお願いします。」

 

 最後は何を言いかけていたのでしょうか?まあ、関係ないでしょう。最低限の家具は揃えてあるようなので、服を整理するところから始めましょうか。



『『うわぁ〜〜』』


 玄関を開けると、短い廊下の先にとても大きなリビングと、それを彩る様々な家具やインテリアが私を迎えました。


『思いの外、たくさん部屋があるね〜。三世帯家族でも部屋に困りませんね。というか、なんですか?この部屋は?』

『防音室?っぽいね。都会はうるさいから、この部屋が寝やすいってことなんじゃないかな?』

『そうですね、声も出してみましょうか?」

『自分相手に会話の練習かい?まあ、僕も慣れてはいないからいいけどさ?』


 私と斗和は、主導権を片方に譲らなくても、同時に話せますからね。腹話術の完全な上位互換と考えてもらって構わないです。


「あ、久しぶりにお米でも食べましょうか。」

「僕は食べたことないから、とても新鮮な気分だよ。」

「食べるのは私ですよ?」

「一口交代でいいからさ?ね?」


 真新しいキッチンで、米を研いで、野菜を切ります。料理の基本的な腕は、向こうでちゃんと磨きましたので。


 そうして、私(達?)は早めに夕食の準備を始めるのでした。


◇視点変更「◯◯◯のマネージャー」


 私はとても幸運ですね、あまり問題のない、穏やかな方のマネージャーになれましたから。少し自信がないのが欠点ですが、この数年で、配信にも随分慣れたようですね。


「ねえ、マネさん。あの子って、三期生の子なの?私の後輩なのかな?」

「いえ、あの人は社長の海外での友人の方の、娘さんらしいです。日本へ留学に来たそうで。」

「それじゃあ、Vtuberじゃないのにあのマンションに入ったの?よほど気に入ってるんだね。」

「そうですね、あの子はあそこがVtuberが住んでるマンションだってことは知らないでしょうね。むしろ、私たちの会社がVtuberのものだってことも、知らないんじゃないですか?」

「まあ、すぐにスカウトでも何でもされるでしょ。社長のことだから、オーディションに誘うくらいはするかもね。」

「…、ちなみにあの子、あれで十八歳らしいですよ?」

「う そ で しょ ?」


 車の後ろの席でショックを受けて固まっている◯◯◯を見ながら、私は会社へと足を急いだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 はい!本編が始まりました。一つのタグの影を何とか落とすことができて、安心しています。


 ちなみに、あまりマンションは埋まってはいません。社長の予想以上に、自分の家で配信をしている人も多いとのこと。


 だから、公式の大きめなコラボになると、会社でやることも少なくないらしいです。


 マンション内でオフコラボもあるそうですが、設備も整っている分、家賃も高くつきます。


 …トワの場合、エリオットさんが一部屋一括で買っただけです。

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