私にとっての…お兄ちゃん?
☆視点変更「舞」
私にとってお兄ちゃんとはどんな存在だっただろうか。少なくとも、周りでよく見ているような、喧嘩の絶えないおこちゃまのような関係ではなかったと思う。いや、喧嘩はしていたのかな?
お兄ちゃんとは年が離れていた。そして精神年齢も平均より高かったからか、もはやお兄ちゃんというより、お父さんだったのかもしれない。お父さんがかわいそうだけど。
お兄ちゃんには彼女が居なかった。友達すら居なかったのかもしれない。そんなお兄ちゃんのことを、いつも支えることが出来ているという、上から目線の安心感があった。
それに対して、私の友達は多い方だろうか?わからない。お兄ちゃんよりかは多かったろうが、そんな話ではないことくらい重々承知だ。
兄が外で話していることは見たことがなかった。いっつも、独りぼっち。私にも少しは友達がいたから、いつも『ちゃんと声をかけなよ!』とか言ってたけど、それ以外にほとんど勝てたことのないお兄ちゃんに対する、唯一のマウントだったのかもしれない。
話を変えようと思う。独占欲とは知っているだろうか。わかるかもしれないが、私はお兄ちゃんに対して独占欲を持っていた…のかもしれない。
考え始めたのは、留学から一週間が経ったくらいだった気がする。でも、私はブラコンではないと思う。はじめも、襲いかかってきたものは、寂しさではなかったから。
私の生活は、一つの流れの中で繰り返されている。それはパズルのピースのように、毎回同じ場所に嵌めるものと、水のように、毎回変わるものがあった。勿論、お兄ちゃんとの行動や、存在自体は前者である。
それが、たった一週間なくなっただけで、私は簡単に不具合を起こした。腹痛や頭痛、どうしようもないだるさなどが頻繁に起こった。そもそも昔から、お兄ちゃんが家から長期間出ていなかったからなのかもしれない。これが病気ではないと分かったのは、大きい病院で、症状だけが書かれ、それ以外が真っ白なカルテを見たときだった。
精神科医を真面目に進められたのは、これが初めてだろう。この年になったら、おこちゃまな同学年男子でもこのような煽りの表現は使わない。
カウンセリングも、ためになるようなことは一つもなかった。少しずつ、少しずつお兄ちゃんが埋めていた部分が、どうでもいい日々によって埋もれていく。日常の一幕によって、今まで当たり前だったものが薄まっていくのを感じた。
それはもう一つ、お兄ちゃんからの連絡が極端に少なかったことも理由の一つに思える。そこから、私はお兄ちゃんが、私たちを置いて楽しんでいるのだろうと受け取った。やるせなかった、どうしようもないのに一人で喚いた。埋もれていたはずの心の穴に、怒りや訳の分からない悲しみが染みていて、痛みが走った。モヤモヤよりかは随分とマシだったようだった。
これは果たして精神の病か?恋か?いずれも違うと思う。ただ、私が兄に対して予想以上の思いがあったのだろうな、と人ごとの様に理解した。そうでないと、また泣き出しそうだった。
思えば、いつも欲しいものは兄が用意してくれていた。その優しさが、今では必要ではないハズなのに支えになっていて、それが折れているのだな。
いつしか『便利』くらいだったお兄ちゃんを、欲しいものをくれる立場だったお兄ちゃんを、それ自体を欲しくなってしまうのは仕方がなかった。
穴が開いたせいで、どうしようもない自問自答に沈んでいく心とは反対に、体調だけが段々と回復していった。
学校に行けるようになった日には、いつもは話をしないような子も話しかけてくれた。あったかくなったのは事実である。
しかし、翌日電話がかかってきた…警察から。微塵も嫌な予感だって感じていなかったわけではない。ただここで、私が兄が帰ってくることを頼りに立っていたのなら、私はこのまま二度目の長期休暇待ったなしだっただろう。
理由は簡単だ。お兄ちゃんが行方不明らしい。詳しいことは言えないが、語学学校に出席せず、家に出向けばホームステイしている家の家族でさえもいなかったらしい。まとまった報告ができるようになり次第、連絡をするそうだ。
電話に出ていたお母さんが、焦った様子でお父さんに電話をかけていた、まだ事情を知らなかった私だったが、何となくお母さんが涙をこらえてケータイを握っている姿を見て、何となく察した。
次の日、私はいつも通りのつもりだったが、周りからは違うように見えていたようだった。抜けているどころか、確実に何かが欠陥しているようだったらしい。
その日の夕食は、まさに最悪だった。子供のように泣きわめくお母さんを、必死にお父さんがあやしていた。『きっと帰ってくる』って。
カサカサになった眼で、ずっとその様子を見ていた。ごはんなんて進むはずもなかったけど、特に何も感じなかった。
そんな日が一か月も続いた後、また警察から電話がかかってきた。…どうやら、お兄ちゃんの死体を発見したらしかった。
死因は間違いなく銃殺で、犯人も絞れているという。足に一発、腹に一発、そして最後に頭に当てられたといっていた。四人ほどの死体と、一匹の狼と一緒に埋められていたらしい。
もう、何も考えられなかった。考えるのを頭と経験が拒んだ。何も感じていないはずなのに、体から力が抜けて、涙が流れていた。
そして、流れ切った後には何も残っていなかった。もうその穴など、何も残っていなかった。しかし、傷が治ったというよりかは、もともとその部分には、何もなかったのではないかと思った。
私は、お兄ちゃんが死んだと理解するよりも先に、家族の支えとならなければならないと考えた。
次の日、遺品整理として、お兄ちゃんの部屋の中に入った。大きめのポスターが貼ってあった。お兄ちゃんが好きだと言っていたライバーだ。もう死んでいるはずなのに、苦笑と少々の怒りが漏れた。それだけでも、少し楽になった気がした。
ふと思いついた。最後はどんな理由があろうと、家族を置いていったお兄ちゃんへ、その証拠を残そうと思った。
気が付けば、私はVtuberについて調べ始めていた。私がいつも見ている子の配信ではなく、Vtuberになるためには、について。
久しぶりに笑うことができた、これで地獄か天国にあるであろうお兄ちゃんは悔しがるだろうか。そう考えたら、やっぱり笑みが溢れた。
◇視点変更「斗和」
自分が、どんな事を考えて群れの中に居たのか、全くと言っていいほど覚えていない。恐らく、ほとんど三大欲求と本能と好奇心やらで生きていたからだと思う。
僕が斗和になってからは、いつも意味のないことばかり考えていた。例えば、何故人は生きるのか。とかだったりする。
僕は晴れて人間の考え方を知ることができたが、それでもこの問題への答えは変わらないと思う。
子孫を残すためだろう。いや、これは本質的なものではなく、ついて来たものなのかもしれない。
人生は楽しむためにあるとか、よくわからなかった。本能のままに子供をつくる、これは僕らにとって、決して野蛮なものではなくて、むしろ常識だったから。
しかしまあ、一番人生(?)を楽しもうとしている奴を最初に見つけた。トワは、自分のためになる事しかやっていない。
でも、それがどんなに楽しそうかは、見ていてすぐに気づいてしまった。それでも、彼女は危なっかしくて目が離せない。
僕らに寿命はほぼ関係ないと言う事は、察していた。だから、トワは僕に何でも好きな事をしていきましょう!と誘った。ずるいよね
君が基準なんだよ、僕には。君の家族くらいにはみとめてもらえてるといいな。
学校は大変だよ。勉強もあって、それ以外の活動もバカにできない。君と話す時間が本当に惜しい。まだ君としか本心で話していない僕は、まだ巣立ちしていない子供みたいで恥ずかしい。
たまにトワも子供みたいな反応をする時がある。まだ僕以外が完全に見た事はないらしいので、優越感が隠せない。
満月の時のトワはとても魅力的だ。かわいくて、でも魅惑的で。でもね、そんな美貌でも、心がトワでなかったら、ここまで強い思いは抱かないと思うよ。
そんな僕も、最近はトワに大切な存在と言われた。どうしようもなく嬉しい。
ああ、その前にあったお願いが、執事のコスプレじゃなかったら、もっと嬉しかったんだろうけどなあー。
『え?確かに家の屋敷には執事も多いけど、それがどうしたのさ?』
『実は、私は執事キャラも好きなのですが…今の私はメイドなのです。メイドとしては完璧だと自信をもって言えます!しかし、メイドと執事には天と地ほどの差があります。私が執事になって仕舞えば、そこに残っているのは、執事のコスプレをしたメイドになってしまう!そんな汚れを執事とメイドにつける事は断じて許されることではありません。ですから、まだメイドに染まっていないあなたに、執事役を任せたいと思うのです。これでまた、メイドに応用できるものは使えますし、あなたを私好みにすることもできます!これが真の自給自足‼︎スマホも買ってもらった私に、死角はありません!これでメイド姿と執事姿を合法的に合わせられる…、イエスロリータ・ノータッチ級の禁忌を掻い潜ることができるんです、どうか、どうか!』
『ウーン、まあいいよ♪』
『そうですか!ありがとうございます!では、今から雇われている執事さんのところへ行きましょう!交代する準備はできてますね?』
『これ、マスターするのにどれくらいかかるのかな〜』
『私の知識も入っているので、一年ぐらいだと思います。私も執事はやってみたかった…、でもあなたが執事をやってくれるのならば、私は生きていられます!大好きです!』
『おお、僕も喜んでくれて何よりだよ、カッコよさそうだしね、執事』
『わ か り ま す か ‼︎』
これでも後悔はしてないつもりだよ。
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