二つの家族は交わらず

 日本にいた頃は、メイドや執事の格好をしたキャラが大好きでした。Vtuberの中でも、それらを元のキャラ構成の一貫として考える様な事はしなくても、水着と並んで新たな衣装として追加することも多いはずです。


 そのため、メイド系統のVtuberが有名になりづらいという欠点もあるわけですが…


 何が言いたいかというと、やっぱり現実のメイド服とは、いささか派手さに欠けているのです。以前にも紹介した通り、ゴテゴテのほぼゴスロリの様なメイド服が職場で使われることなど、本場イギリスでは逆にノーサンキューなのでしょう。


 ただでさえ存在の少ないメイドとなれたにも関わらず、ここで盛らないのはヲタクの恥です。


 と、言う訳でメイド服の改造を行いたいと思います。用意する物はとても簡単です。



・メイド服

・針とさまざまな色の糸

・余っていた布



 ミシンでもいけますが、細かい作業のため、相当厳しいことになります。


 これで一週間ほど縫えば〜、メイド服(強化バージョン)3セット完成でーす!


 色や基本の形はほぼ変えずに、柄をとっても細かく、とてもキリッとしたカッコ良さも完備しています。ほぼ趣味ですが…


『うわー、そんなんばっかやってるからジュリアから心配されるんだよ。スマホもないんじゃ推し活もできないだろうに、かわいそー』

「うるさいですね、あなたにも推しという概念がわかると思ったのですが。」

『ケルベロスみたいに同じ体で喧嘩しようって訳でもないからさ、否定はしないよ。』

「否定はしないって…、貴方はほとんど人と接したことがないのに、私以外の人に同じことを言えるのでしょうか。元々の私の様な、身内としか話せないコミュ障ぼっちを受け継いでるかもしれないのですから、今のうちにイメトレでもしておいてくださいね。」

『昔の君と同じにしないでほしいな。』


 すると、部屋にノックの音が響きます。


〈トワ、居ますか?これから朝食を作りますが、手伝って下さい。〉

〈はい、メイド長、今行きます!〉



〈あなた、随分と料理が上手ね…、以前はどんな事をしていたのかしら?〉

〈その、記憶がなくてですね、何も覚えてないんです。〉

〈そ、そうだったわね、ごめんなさい。何か気に障ったかしら?〉

〈大丈夫です。それよりもこのトースト、どうでしょう?〉

〈栄養のバランスも良さそうだし、これを朝食に出してもいいんじゃないかしら。それにしても、感覚だけで出来るなんて、羨ましいわ。〉

〈ああ、このレシピは奥様(シア)から教わったんです。使ってほしいって。〉

〈え⁉︎奥様が?私には教えてくれた事ないのに…そうね、貴方はこの家の家族も同然なんでしょう。〉

〈いや、き、きっとメイド長も頼めば教えてくれますって!元気出して下さい!〉


 おかしいですね、落ち着いているキャラを目指していましたが、こんなに騒がしくしてしまうとは思いませんでした。しかし、仕事の同僚とは、こんな風な関係だったのでしょうか。それならば、案外こちらから打ち解ければ、友達くらいなら出来ていたのかもしれませんね。


 …まあ、若干メイドの先輩に対する贔屓が入っているかもしれませんが、それも人間関係でしょう。



 その日は、初めての仕事でバタバタしてしまいましたが、かなり充実した日を過ごす事が出来ました。また、先程までリア様のお買い物に同行しました。最初は当たりの強かったリア様も、今では少しずつ打ち解けてくれます。


 つい先日も、

〈トワ!今みんなの中では、こんなことが流行っているらしいわ。うーん、あまり私にはわからないけど、この漫画という物は面白いのかしら?〉

〈よくわかりませんが、試してみてはいかがでしょう。ご友人がたくさんいらっしゃる(若干嫌味)リズ様なら、貸してくれるのでは?〉

〈でもこれ、要するに絵本でしょ?そんなに面白いのかしら?〉

〈私でも漫画くらい覚えていますが、リズ様は本当にお嬢様ですね。これからそうお呼びいたしましょうか?〉

〈やめて、気持ち悪いから。それよりも、このV?Vtuberっていうのは何かしら?yotuberでもないらしいわよ?〉

〈‼︎‼︎‼︎‼︎……〉

〈どうしたの…?〉

 という会話が、リズ様とありました。


 こんな話をすると、舞や両親の事を嫌でも思い出してしまいます。忘れたくても、忘れられない。いや、本当は忘れたくはないものです。


 本来、今日は私が家に帰る予定だった日でした。もう、家族として会う事はできないと、どうしようもない気持ちが押し寄せてきます。


 こんな歳になっても、家に一人も友達を呼ばなかった私に、ずっと構ってくれた家族に、まだ『さよなら』も言っていません。でも、やっぱり言いたくもありません。


 思えば、本当に家族がいなかったらどうなっていたことか。誰とも関わらなかった私を、両親は声を掛けて、コミニケーションを取ってくれました。


 妹の舞も、

『お兄ちゃん、どうしたの?大丈夫?』

 と、小さいながらも心配してくれました。


 本当に、人間関係の面では、家族との会話こそ学びであり、生きている事だと思っています。


 ……今、みんなは心配しているでしょうか。


 恐らく、「時島 若」という人間は死にました。


 それでも、それでもみんなの元へと、本当の家族の元へと帰りたいという気持ちが強まります。とっくに、諦めていたはずなのに。


 こんなちっぽけなことでも、家族愛と言えるのでしょうか?迷惑ばかりかけていたのに。


 しかし、今の私が家族に会いに行ったところで、それこそ迷惑がかかってしまう事はわかります。


 こちらにも、新しい家族と言っていいのか、ジュリア様・リズ様・シア様・エリオット様に、家に住まわせてもらっている状況です。


 仕事上の同僚も出来ました。街の人も気さくに話しかけてくれます。学校でも、友人がたくさん出来ると思います。


 どうか、お父さん、お母さん、舞、親孝行も、お兄ちゃんらしい事もできなかったけれども、こんな事言う資格もないけれど。


 どうか、どうか…お幸せに。


〈トワ!トワ!起きてる?明日は一緒にお母様とお父様の勤めている学校に行きましょう!貴方もそこに行くことになるから!きっと楽しいわ!ねえ聞いてる?トワ!トワ…?〉

〈   はい、リズ様?どうしたの  ですか?

もう、   こんな時間ですよ?  明日   の朝に聞きま すから、   早く寝ましょう?〉

〈…ねえ?トワ。なんで泣いてるの?〉

〈いいえ、  何でも  ありません。

学校ですか。  いいですね、行きましょう。〉

〈……うん、また明日。大好きよ、おやすみ〉

〈…はい、私も大好きです。 おやすみなさい。〉


 じわじわと流れてくる涙としゃっくりをじっと堪え、眠りが来るまで待ちました。


 そんな空気を察したのか、斗和はその夜、話しかけては来ませんでした。



 その夜は、久しぶりに家族の夢を見ました。


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 今、トワ(斗和)が住んでいるロイド家は、貴族であり、現在特権はありませんが領地の管理などをしています。


 家族構成は、

・エリオット(父)

・シア(妻)

・ジュリア(長女)

・リズ(次女)

・トワ(養子)

 こんな模様です。

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