捨て狼と便利な二重人格

 目覚めてから大体半日くらいが経ち、日も落ちてきました。私は、たまに見つかる水たまりの汚れている水(普通の人間だったら一瞬で吐ける)を飲んで飢えをしのいでいましたが、お肉が食べたいです。ハイ


 先ほど見つけたクソウサギも、ジャンプで華麗にこちらの攻撃を躱してきましたし、たまにこちらの顔を無表情でじっと見つめてくるのにも腹が立ちました。


 まあ?この体にも慣れていないですし?今回だけは逃がしてあげましたが、そいつを追いかけていたら、なんか町らしいものが見えてきました。


 ヨーロッパぽかったので、異世界かな?とも思いましたが、よく考えたらここイギリスでしたね。そうなると本当に今大切なことは、どうやって自分の身分証とかを用意して日本に帰るか…


 そうしたことを、ひと通りの少ない夜の街道で考えていたのですが、向うから人影が?どうやら視力も上がっているようで、凛々しい女性(日本人から見て二十代くらいかな?)が走ってくるのが見えました。なかなか顔が整っており、『う~ん八十五点!』と、ばからしいことを考えていると、すごいことを思い出しました。


 私は、あの人が走ってきている理由が私なことに、薄々勘付いていましたが、



 …そういえば私、今服着てませんよね?(転生というか、合成?参照)そして、私が立っているのは、薄暗い夜の森沿いの街道っと…


 気のせいならいいんですが、随分と犯罪臭がしますよね?大丈夫なんでしょうか?客観的に見るなら、このまま警察署まで行ってじっくりたっぷり事情聴取(意味深)されてもおかしくないんじゃないでしょうか⁉(今現在この娘は、先ほど銃でぶち抜かれたときの記憶をド忘れしています。ご了承ください。)


〈あなた大丈夫?どうしたのそんな恰好で?誘拐されたの?けがはある?お父さんお母さんは?ああもう!とりあえずこれを着てこっちに来て。話はそれから聞かせてもらうわ。私は不審者じゃないわ、ジュリアっていうの、後でお名前も教えて?〉


 うおお…エンカウント二秒で炸裂したマシンガントークでひるんだ私は、成すすべもなく、遠くに止めてあった車の助手席に押し込まれるのでした。あれえ?なんじゃこの高級車は…さては高貴なお嬢様なのでしょう。あら、結構なお手前で(運転)


 ほぼ百パーセントの確率で面倒ごとになると悟った私は、自らを記憶喪失と名乗ることにしました。いいですよね、目覚めたら男とメスだった時の記憶がある少女なんて、記憶喪失と何ら変わりありませんから。



 うっわー、お屋敷ひっろーい。と、語彙力がなくなるほどの大豪邸に到着しました。バーナードさんの家も大きかったのですが…比べるまでもありませんね。こちらの家は東京ドーム〇個分とかのスケールですもん。


 また、私の背も幾分か関係してそうです。前はあんなにスリムで細マッチョでチョモランマしてたのに!(後半は彼、失礼…彼女の妄想です。)


 すると、なんとあれは!野生のメイドではないか‼私はとても感動しました。今生きていることに、神をほめたたえた!(上から目線)ですが、皆が思っているようなメイド像ではありません。日本のアニメのキャラが来ているメイド服や、メイド喫茶のメイド服は、とにかく盛られていますが、本場ではいわゆる原形のものが着られていました。当たり前でしょう。日本国内ならともかく、凶器をいくらでも隠せそうな服を身にまとっているメイドは、絶滅危惧種…むしろ初めからメイドの中の一つまみもいないのですから。


 薄々思ってはいました。日本だったらメイドを語る飲食店の奴ら(自分が入ったことないから口が悪くなっている)でしか見たことがない、ある種のコスプレではないかと。細かい柄が縫われたお美しいフリフリなどありはしないのだと。


 しかし、私は諦めることが出来ませんでした。そして、気が付くと私は、玄関の前でジュリアさんに向けて叫んでいました。










〈ここで働かせてください!(うるうるとした目)〉

〈え…いや、お父さんやお母さんはどうするの?覚えてない?ポリスにも連れて行かなきゃ〈ここで働きたいんです!〉うん、わかったから、聞いてみるよ…〉


 こうして私は、自らの人生をかけた、メイド道を踏み出していくのでした。



 リビングには、まだ三十代かと思われる夫婦?が一組と、まだ幼い十二歳ほどの、お嬢様と言っても差し支えないほどの美幼女がいらっしゃいました。(ジュリアさんは文句なしの美女である)どうやら、夕食が終わった直後のようです。私もお腹が空いてきました。


〈おねいちゃん!誰その女の子!〉

〈あら~、その子がさっき言ってた迷子の子かしら?とってもかわいいわね!今すぐ私の子にしたいくらい!〉

〈その子が…何があったのだろうね、虐待されたような跡はないが。しかし、ふむジュリアの言っていた通り、とてもかわいらしい子だ。だが、少し大人びているな、そう思わないか?シア〉

〈そうね!ジュリアのおさがりなんかが似合いそうだわ。ねえ、リズ?〉

〈絶対におねえさまは渡さないんだから!〉


 うわあ…テンションが高いですね~、疲れないのでしょうか。


〈そのね、この子の名前はトワ(時島のトに、若のワ)って言って、ここで働きたいって〉

〈え!その子がうちに住むの⁉やだ!〉

〈リザ、いじわる言わないの。まあ、確かにこのまま孤児院に入るよりは、ここで一緒に生活して、お金を稼いでから出て行ってもいいかもね。(頭の中は、ジュリアのおさがりや、リザとペアルックをしたトワのことしか考えていない)〉

〈ポリスがそろそろ来るから、事情を説明しよう。あとはそれからだよ〉

〈はっ、はい!〉


  ジュリアさんがこっそり耳打ちしてきます。


〈そもそもトワは家事とかできるの?住み込みとかならかなりきついと思うし、学校とかは行かないの?〉

〈家事はたぶんできると思います。学校は…〉


 かわいいとはさんざん言われたものの、自分の顔がどんなものなのかわからなかったのですが、イギリス人と疑われてないようなので、それなりに彫りがあるのでしょうか?後で鏡を見なければ。


 すると、話を聞いていたのかシアさんが、

〈もし私たちの家にいるなら、学校は行きなさい。見たところ高校生でしょう?〉


 『いえ!大学生です。』とも言えない私は、頷くことしかできませんでした。


 『ピンポーン』…どうやらポリスが到着したようです。



 結論として、私はこのクソでか屋敷の家族の一員となりました。今はわきのほうに割り振られた部屋の中にいます。本来は泊まりに来た客人などが使う部屋なのだそうです。


 毎日ほかのメイドの方と一緒に、庭の手入れや掃除などを手伝うそうです。学校も二学期から近くの高校へ通わせていただけます。その為、明日はメイド長?のようなものがしごとをおしえてくださるとか。…それにしても、家族は今どうしているのでしょうか?


 そんなことを考えながら鏡へと向かいます。自分の顔を確認するためなのですが、鏡を見た瞬間に。驚きだけが私の頭を支配しました。


「きれい…」


 それしか言いようがありません。灰色の髪を肩の後ろまでさげ、黒く透き通った目をした美少女は、言われてみればあの狼の様な雰囲気があります。


 しかし、それとない違和感。元々私だった意識と、あの狼だった意識が混ざって、よくわからない、ごちゃごちゃした感情です。


 ですので、私は意識を二つに分割する事にしました。元々、ふざけてばっかりだった私の意識をそのままに、完璧なメイドを目指そうとすれば、いつかは決壊します。


 ならば、私と狼さんの二つの意識で、メイドに適するものを組み合わせ、残った物でもう一つも意識として確立させればいいのではないか、と。


 そうすれば、片方の意識が働いている間に、もう片方が休む事もできます。働いている時は真面目モード、休んでいる時はダラダラモードという事です。


 名付けて『擬似的二重人格作戦』〜です!



 せ、成功しました…、今は真面目タイプですが、ダラダラの方が結構ウザかったです。自分なんですけどね…(狼の方のスペックもかなり高水準)


 ちなみに、私は僕と入れ替わることもできます。しかも、声に出して会話もできます。(はたから見ればただの不審者)


 また、2人を明確に分けるために、真面目モードを『トワ』。ダラダラモードを『斗和』と名付けました。どちらも「とわ」と読みますが、2人違うとややこしいですし、完全に同じだと混乱しますから。


 まあ、明日もありますし…おやすみなさい♪


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真面目モードの一人称は私、

ダラダラモードの一人称は僕です。

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