第13話 私と彼⑤
「知ってるよ、君が公爵家の令嬢だったことも、追放されたこともね」
その言葉に私は動揺してしまった。
なぜ彼がそのことを知っているのか理解できなかったからだ。
そんな私に対して彼は言った。
「だって僕は君の恋人だからね、君のことを知っていないとおかしいじゃないか」
その言葉を聞いた瞬間、涙が溢れてきた。
そして彼に抱きついたのだった。
(あぁ、やっぱりこの人のことが好きだなぁ)
と思いながらしばらくの間泣き続けたのだった。
その後、落ち着いたところで改めて自己紹介をすることにしたのだが、
やはり、イリスは私が追放されたことを知っていて、なおかつ私のことを好きだと言ってくれたことが嬉しかった。
その後、今後について話し合った結果、私たちは結婚することに決めたのだった。
結婚式の準備や新居探しなどやることは山積みだったが、それもまた楽しい作業だと思えたし、
何よりも彼と一緒ならどんなことでも乗り越えられる気がしたからだ。
そしてついにその日がやってきたのである。
私は純白のドレスに身を包み、教会で式を挙げた後、披露宴会場へと移動したのだった。
そこで待っていたのは私の家族や友人たちであった。
彼らは私に対して祝福の言葉をかけてくれたり、贈り物をくれたりしたのだが、
「おめでとう!」
と言われる度に涙が出そうになったが、ぐっと堪えた。
なぜなら今から始まるメインイベントがまだ残っているからである。
それは誓いの言葉と指輪の交換だ。
まず最初にイリスが口を開く。
「汝、健やかなるときも病めるときも、喜びのときも悲しみのときも、富めるときも貧しいときも、
これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」
それに対して私は答える。
「はい、誓います」
続いて今度は私が尋ねる番だ。
「あなたは、いついかなる時も彼女を愛し、慈しみ、守り、支えることを誓いますか?」
その問いに彼は即答した。
「もちろん、誓うよ」
その言葉を聞き、私は感動に打ち震えた。
そして、最後に神父から愛の証となる結婚指輪を受け取ると、それを互いの指に嵌め合った。
これで晴れて夫婦となったのだ。
そう思うと涙が止まらなかった。
そんな私を彼が優しく抱きしめてくれたことでさらに泣いてしまったが、幸せな気分に浸りながら、いつまでも抱き合っていたのだった。
その後、披露宴も無事に終わり、2人で新居へと向かうことになった。
これからの生活に思いを馳せながら、彼と手を繋いで歩く帰り道はとても短く感じられたのだった。
家に着くと、まずは荷物を片付けることから始めた。
「ふぅー、やっと終わったわね」
と言いながらソファに腰掛ける私に、イリスは言った。
「お疲れ様、何か飲み物を淹れようか?」
という彼の言葉に対して、私はこう答えた。
「じゃあ、紅茶が飲みたいかな」
と答えると、彼は頷いてキッチンへと向かっていった。
しばらくすると、お盆の上にカップを乗せて戻ってきたので受け取って一口飲むと、口の中に爽やかな風味が広がり、疲れた体を癒してくれるような気がした。
その後もしばらくくつろいでいると、不意に声をかけられた。
振り向くとそこには裸になったイリスの姿があった。
どうやらお風呂に入るつもりのようだ。
そんな彼の様子を見て、私も入ることにする事にしたのだが、その際にふと思いついたことがあったため、
「ねえ、一緒に入らない?」
と言うと、彼は少し迷った様子を見せたが、結局了承してくれた。
というわけで、2人で仲良く入浴することになったのだが、
「ちょっと狭いけど我慢してね」
と言う私に、彼は笑顔で答えてくれた。
2人して湯船に浸かっていると、自然と会話が弾んだ。
その内容は主にお互いのことについてで、趣味や好きな食べ物、苦手なものについて語り合ったりしていた。
中でも特に盛り上がったのは、私たちの出会いについての話だった。
あれは今から1年ほど前のこと、街を歩いていた時に偶然ぶつかったのがきっかけだったのよね。
などと思い出しながら話していると、いつの間にか時間が経ってしまっていたようで、
イリスに声をかけられて我に返った私は慌てて風呂から出ることにしたのだった。
その後は夕食を食べて寝る準備を済ませた後、ベッドに入ったのだが、
「おやすみ、愛してるよ」
という言葉と共にキスをされた瞬間にドキドキしてしまいなかなか寝付けなかった。
だが、それも最初だけで徐々に眠気が襲ってきた頃、突然彼が声をかけてきたのだ。
(なんだろう?)
と思っているうちに、彼はとんでもないことを言い出したのである。
なんと、私と結婚して欲しいと言ってきたではないか。
当然断る理由などない私は喜んで承諾することにした。
こうして私たちは夫婦となったのだった。
翌朝目が覚めると隣には彼がいた。
全裸で眠っているのだがどうすれば良いのだろうか?
とりあえず、服を着ることにした。
そして、彼に挨拶をすることにした。
すると彼も目を覚まし、挨拶を返してくれた。
それからしばらく見つめ合っていると、彼が口を開いた。
「デートに行こうか」
と言われたので思わず笑ってしまった。
まさかそんなことを言われるとは思っていなかったからだ。
しかし、せっかくの提案なので受け入れることにして出かけることになった。
2人で手を繋ぎながら街中を歩いていると、すれ違う人々が皆こちらを見てくることに気がついた。
おそらく私たちが仲睦まじく歩いている姿が珍しいのだろうと思う。
何しろ私たちは今まで一度も会ったことがないのだから当然だと言えるだろう。
それでも、不思議と気恥ずかしさはなかった。
むしろ誇らしささえ感じていたくらいだ。
なぜなら今の私はイリスの妻なのだから堂々としていれば良いと思ったからである。
それに何より私自身が彼を愛しており、彼と一緒にいることが幸せだと思っているからこそ感じることのできる感情なのだと思う。
だからこそ、この気持ちを大事にしていきたいと思うのだ。
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