第10話 私と彼②
私が戸惑っているとその男性は
「すまない、驚かせてしまったかな、洗濯していてね」
と言ってきたのだが、どう見ても執事にしか見えない服装だったため余計に混乱してしまったようだ。
(え、どういうこと!? まさか、これって誘拐されたってことなの?)
そう思った瞬間、怖くなって泣き出してしまったのだが、その様子を見た彼は慌てた様子で慰めてくれようとしたらしく、
頭を撫でたり背中を擦ったりしてくれたおかげで少しずつ落ち着いてくることができたようだ。
それからしばらくしてようやく落ち着いたところで自己紹介をすることになったのだが、名前を聞かれた時に咄嗟に偽名を名乗ることにしたらしい。
というのも、もし本名を教えたら面倒なことになると考えたからだそうだ。
そこで思いついた名前が『リリアーナ』だったのである。
なぜその名前にしたかというと、なんとなく響きが良かったことと、
「お嬢様っぽい名前だから、これなら怪しまれないだろう」
というのが理由だったようだ。
それを聞いた相手は納得してくれたらしく、それ以上は何も聞かれなかったようだ。
その後はお互いに雑談を交わしながら過ごしていたようだが、途中、彼がトイレに行った隙を狙って逃げ出そうとしたらしい。
だが、運悪く見つかってしまった上に捕まってしまい、ベッドに押し倒される形で押さえつけられてしまった結果、身動きが取れなくなってしまったようだ。
「なんで逃げるんですか」
「貴方が誘拐するからでしょ」
「は?」
そこまで言いあって、私はあわててその男性を見つめた。
よく見ると森のお屋敷に居た執事長だった。
私は、ほっとして体の力を抜いた。
どうやら悪い人ではないようだ。
でも、だからといって安心はできない。
だって、この人は私を攫った張本人なのだから。
私は警戒しながら尋ねた。
「なんで?」
「お嬢様がお目覚めになったと聞いたので会いに来たのですよ」
そう言って微笑む彼に、私は戸惑った。
どうして私がここにいることを知っているのだろう?
そんな疑問を口にする前に、彼が先に話し出した。
「それにしても、先程のリリアーナとは何のことですか、ララお嬢様」
そう言われてハッとした。
やばい、うちの使用人に、偽の名を名乗ってしまった。
どうしよう、なんて言い訳しよう、と思っていると、 彼は、ニッコリと笑って言った。
それは、まるで、天使のような笑顔だった。
私は、見惚れてしまいそうになったが、慌てて目を逸らした。
「リリアーナ様」
いきなり名前を呼ばれても本名ではないのだ。
困るだけだ。
しかし、彼のほうは、確信を持っている様子だった。
どうしようか迷っていると、彼は更に続けた。
「貴女様が、ご自分で、私に教えたではありませんか、それとも、もう忘れてしまったのですか?」
そう言われた瞬間、思い出した。
「ララです、リリアーナではございません」
「いいえ、貴女様は、紛れもなく、リリアーナ様ですよ」
そう言いながら、笑われる。
本当に嫌な奴だ。
「違います、私は、リリアーナではありません」
そう言い返すと、ますます笑みを深める。
そして、耳元で囁かれた。
「では、確かめてみましょうか」
嫌な予感がした。
「まぁ、王城に行きいまから、国王陛下に、貴女の嘘を判断していただきしょうかね」
「なっ、何言ってるのよ、私は、嘘なんかついてない、本当のことしか言ってないわ」
私は、反論するが、聞き入れてもらえない。
それどころか、どんどん話が進んでいく。
「では、参りましょうか、リリアーナ様」
「ちょっと、待ちなさいよ、勝手に話を進めないで、私は、行かないわよ、絶対に」
抵抗を試みるが、無駄に終わった。
そのまま、強制的に連れていかれそうになる。
「嫌、離して、誰か、助けて、お願い、なんでも言うこと聞くから、お願いします、どうか、見逃してください、ごめんなさい、許してください、何でもしますから、許してください、お願いします、お願いします、このままだと私、嘘をついた罪で、裁かれてしまいます」
そう、この国で嘘は虚偽罪になるのだ。
「大丈夫ですよ、心配しないでください、私が、守ってさしあげますから、さぁ、行きましょう」
こうして、私は、無理やり連れて行かれることになったのだった。
馬車に乗せられると、すぐに出発した。
道中、何度も逃げようと思ったが、その度に捕まり、連れ戻されてしまった。
もう諦めよう、そう思い始めた頃、ようやく城が見えてきた。
いよいよ、謁見の時が来たようだ。
私は、覚悟を決めることにした。
門番が敬礼をして、出迎えてくれる。
そして、案内されるままに、城内へと足を踏み入れた。
玉座の間に到着すると、そこには、国王陛下が待っていた。
私は、跪き、挨拶をする。
「面を上げよ、そなた、リリアーナと名乗ったそうだな」
「はい、その通りです、私は、リリアーナでございます」
すると、陛下が、ニヤリと笑った気がした。
なんだろう、嫌な予感がする。
「サキュバス公爵の娘公爵令嬢、ララよ、そなたを虚偽罪に問う、そなたが、リリアーナと名乗ったのは誠か」
「えっ!?」
突然のことに頭が追いつかず、呆然としていると、横から声が聞こえた。
「どうした、答えぬか、サキュバス公爵の娘、ララよ、貴様が、リリアーナを名乗ったのは、真かと聞いているのじゃぞ、さっさと答えんか、この嘘つきめが!」
見ると、そこにいたのは、宰相閣下であった。
「ひっ、ひぃぃぃぃっ!!」
恐怖のあまり、悲鳴をあげてしまう。
怖くて、足がガクガク震える。
すると、その様子を見ていた陛下が口を開いた。
「おい、お前、何をそんなに怯えておるのだ、余は、お前に危害を加えるつもりなどないぞ、ただ、その罪に嘘はないのだな」
「は、はいっ、本当です、信じてください、私は、嘘をついていません、全て真実なのです」
「では、執事を召喚し、話を聞く」
「かしこまりました」
そういうと、どこからか現れたのか、一人の老人が現れた。
老人は、私の目の前に立つと言った。
「お嬢様に嘘をつかれました」
その言葉を聞いた瞬間、絶望感に襲われると同時に、怒りが込み上げてきた。
許せない、許さない、殺してやる、そんな考えが頭の中を駆け巡る。
だが、同時に、一つの疑問が浮かんだ。
冗談のつもりで身を守る為に着いたのに
どうしてこんな目に遭わなければならないのですか。
「ララ、よ、実に残念だ、お前には期待していたんだがな」
と呟く声が耳に届く。
(失望させただろうか)
そう思うと胸が締め付けられるように苦しくなるのを感じた。
そして、私は公爵令嬢として、抹消されて、偽った、リリアーナと名乗るように言われ、国外に追放されてしまった。
それからというもの、私は、冒険者となり、ダンジョン攻略の旅を続けていた。
ある日、偶然にも、彼女を見つけてしまったのだ。
彼女は、ボロボロの服を着ていて、今にも倒れてしまいそうだった。
私は、彼を介抱することにした。
幸い、私には、治癒魔法の才能があったようで、傷を癒すことができた。
すると、彼が目を覚ました。
「うっ、ここは?」
と呟いている。どうやら、まだ意識が朦朧としているようだ。私は、優しく話しかけることにした。
「大丈夫ですか? 具合はいかがですか?」
彼は、驚いた様子でこちらを見てきた。
しばらく見つめ合っているうちに、だんだんと冷静になってきたようだ。彼は、周囲を見回した後、私に尋ねてきた。
「あの、ここはどこでしょうか? あなたは誰ですか?」
私は、正直に答えることにした。
「私は、リリアーナと申します、この近くで活動している冒険家ですわ」
「そうですか、ありがとうございます、助かりました」
と言って頭を下げた後、彼は続けて言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます