第67話 忘れられない夏と秋風

 その後の出来事は、主に私のいない場所で目まぐるしいスピードで進んでいった。


 私がクラスメートの協力でその内容を確かめる事の出来た絵日記は、本来、次の週には航空便でフランスに送られる予定の物だった。でも事情を話した平野さんにより作者了承のもと、最終的に「司法」という世界の中に委ねられる事となった。そして私達にはなじみの薄い裁判という大きな出来事。そこに、私は間接的に立ち会う事になった。間接的に……というのは、女の弁護士さんが何度もやって来て、絵日記を手に入れた経緯や瑠璃子さんを知ったきっかけを聞かれたから。父さんは実際に裁判で証言をした一人。

 結果、もちろん佐伯瑠璃子という人物の無実が証明された。プレゼントされた物が盗品とは知らず

 、三十五年も前に受け取っていたという事が証明されたのだ。そして従業員への退職金代わりに贈ったという事も状況から推定可能とされた。二年前に盗まれたという事実はなく、こちらは虚偽であると結論づけられ、そのため、瑠璃子さん側と彩城会側とは裁判で明暗を分けた。

 絵日記の存在が裁判で明かされ、現物が公開された時、法廷では大きなどよめきがあったとか。ところが、最後にそれを上回るどんでん返しがあったのだ。実は、この「レイン湖の夕陽」は、たとえ二年前にその家にあったとしても、瑠璃子さんの物であったという事実。


 義理の叔母に当たる彩城さえには、実は手書きの遺言が生前からずっとあったのだ。その事を辞めさせられた彩城家の元顧問弁護士が明かした。そこには、「レイン湖の夕陽」は、自分の死後、彩城瑠璃子に譲る事、そしてそれは例え今後、彩城夫妻が離婚する事になっても変わらない、と書かれてあった事を。生前は、気分屋で気位が高かったという彩城さえの義理の姪への思いに周囲は、騒然となった。

 結局、平野さんが週刊レーベンに「物言わぬ美しい石」と書いていたレイン湖の夕陽は、物を言ったんだ。そう、私には思えた。

 法廷で裁判が終わった時、瑠璃子さんは、初対面の父さんに小さくお辞儀をしていたと聞いた。

 父さんは、きっと自分を通して、私、菜々にお礼を言ったんだと主張した。でも私は、それは佳代ちゃんから預かった物を保管してくれていた事に対する父さんへの感謝だと思っている。


 ちなみにその年の二学期からクラスでは、今までポツンとしていた席の周りが賑やかになった。それも席替えでまた、新しい友達が出来たり、で変化は常に起こっている。

 でもあのマンモス校出身の四人組は、これから色々人間関係が変わっていっても自分の高校時代の、忘れられない友達の中に常に入り続けると思っている。それに今は四人組と一括りにまとめて考えてはいないかな。


 周りのみんなは、あの夏の私の行動を勇敢だと褒めてくれた。でもそれは色々な人がいて、の事。結局、自分一人じゃ何も出来なかった。

 ただ、一冊の絵日記のおかげで真実をみんなに知らせる事ができた。それは事実。

 だから私は、あの日、瑠璃子さんにした宣言を実行できたって事になる。


 それでもこの夏をすっきりとした気持ちで終われなかったのは、最後に切ない気持ちを味わったから。


 私に一つの記事を見せてこの冒険をスタートさせた宮田璃空センパイは、結果的にすべてが無事に終わった事を、一緒に喜んでくれた。少しの時間だったけど、私と翔太に会いに来てくれ、夏の最後の花火を一緒に見る事が出来て本当にうれしかった。それは町でサプライズで用意していた花火。数年の感染対策で中止になっていた諸々を補うような。

 そして、そんな再会の後で一通の手紙がセンパイから送られてきた。それは、心の中に冷たい秋風を送り込み、そして、その秋風は高校卒業まで、決して止む事がなかった。








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