第64話 絵日記の行方①
私は、毎朝新聞社に電話して、三年前の展示会に出ていた絵日記の事を訊いてみた。
すぐに平野さんに電話しなかったのは、この間、フォレストグリーンから帰る途中で、奥さんの病気の事を聞いたから。瑠璃子さんとの会話で出てきた医療ナントカとかいうのが気になって、こちらから訊いてみた。そうしたら、「以前、彩城病院での手術の際に、妻は、麻酔の仕方に間違いがあって片方の指に麻痺が残ってしまったんだよ。同じような患者さんが何人かいて苦しんでいて、裁判をしているんだ」と言った。だからこそ、今度の事件の記事を書き続ける気になったとか。「今は、妻が夏風邪で具合が悪くて。それでなおの事、家事を頑張ろうとしてたんだ。その結果、こんな風に火傷もしちゃったけどね。だからもう今は仕事の事は二の次に考えるようにしてるんだ」とも。
それで私は今度の事は、自分で出来る所までやろうと決心した。
毎朝新聞社の話では、この絵日記は、新聞社の所蔵品ではなくて、市の文化博物館に所蔵されていた物という話だった。そう言えば、市の図書館の敷地にそういう小さめの建物があって、「学生三百円」と書いてあるのを見た事がある。
私は早速、文化博物館に電話してみた。すると、今回、市の所蔵品に関して見直しがあり、所有者に戻した物がいくつかあって、そのうちの一つだと言われた。
「所有者って、絵日記を描いた人ですか?」
「いや、小学校だよ」
「勝山小学校なら、統廃合されたって」
「ああ、今は大井小学校になっているよね」
電話の向こうの人は、何かを見ながら話していた。パソコンかな。
大井小学校へなら割と近い。早く行かないと、絵日記がどこかに行ってしまう気がした。
私は次の日の朝一番に、大井小学校へ自転車を飛ばした。夏休みの小学校には人影もなく、静かだった。聞こえるのは、やっぱり蝉時雨だけ。もちろん校門には鍵が掛かっている。私はそこから、スマホで小学校の代表番号に電話をかけてみた。絵日記の事を訊くけど、電話に出た教師では、なかなか話が前に進まない。
やっと教頭先生が電話に出て言った。
「その絵日記なら、描いた本人に返却しました。
個人情報なので、誰かまでは教えられません」
私は打ちひしがれて、小学校の校門前にうずくまった。ここでやはり平野さんに相談するのがいいんだろうか? それともこういう話は刑事さんにしたら、何とかしてくれるんだろうか。
その時、「あんた、こんな所で何してるの?」という声が聞こえた。
眼の前にクラスメートの木嶋ルミがいた。
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