第56話 あまみじぇい便り

 56.


 グループラインには次々にメッセージが寄せられた。


 カズキとルミが同じ答えのメッセージをほぼ同時に送ってきた。


 ――lapis lazuli ラピスラズリ ⇐ 鉱物の名前らしい――


 ――lapis lazuli (ラピスラズリ) これ、高校英語で出てくる?――


 それからしばらくして、ゆきなから前の回答に反応したメッセージが贈られて来た。


 ――ラピスラズリは願いが叶う石だけど、それを輸入で買うとか?――


 ――月島さん、ついにラピスに頼るの?――


 話がどんどん違ってくる。

 調べてみるとラピスと名前に入っているデイケアセンターはいくつもあった。でも住所等から、瑠璃子さんが関係しているとは思えない施設ばかりだった。


 しばらくしてグループラインを見ると、カズキからの新しいメッセージが入っていた。


 ――鉱物でなく、色を表す言葉ならskyblue (スカイブルー)でもいいらしい ――


 これはいいかも。調べてみると、「スカイブルー」や「スカイ」という名前の施設の方が多いみたい。でも詳しくホームページを見てみると、やはり空振りっぽい。そもそも、元看護師だからと言って、そんな介護施設を新たに作るという発想が単純過ぎるのではないだろうか。


 ルミからは、こんなメッセージ。

 ――ルリカケスっていう鳥もあるけど――


 早速、カズキからメッセージが届いた。


 ――ルリカケスなら、amami jay (アマミジェイ)――



 アマミジェイ? 私も「ルリカケス」を検索してみた。奄美大島と徳之島だけに生息する日本の固有種、天然記念物とある。

 奄美大島って確か、鹿児島じゃなかったっけ? いつか平野さんから聞いた、瑠璃子さんのお母さんの実家が鹿児島の裕福な一家という情報を思い出した。もしかしたら、瑠璃子という名前は、この鳥からつけられたのかもしれない。でも私の中では、すでに父さんの初恋の人が医療関係の施設を開いている説は、消えかかっていた。いつものフライングだと。

 そんな諦めモードの中、「アマミジェイ」を検索し続けていた私の目に、一つの記事の見出しが目に飛び込んできた。


 ――あまみじぇい便り――


「この美しい介護施設、フォレストグリーンの管理を任されるようになり、もうすぐ一年になります」という言葉が、検索一覧のタイトルの下に見える。

 何か予感がして、その記事のページを開いてみた。「フォレストグリーン」という介護施設のホームページだった。山に囲まれた白い洋館のような施設を様々な方向から撮った画像がそこに並べられてある。

 フォレストグリーンは、森の樹木の葉のような深い緑色の事らしい。あまみじぇい便りという記事には、一年前にここの管理を任されるようになった人物の、行事毎の利用者さんとのふれあいについて書かれてあった。文の締めくくりの後、氏名はなく、ただ「あまみじぇい〈Ruri〉」とあった。その記事についた写真を見た時、思わずはっとした。ショールを首に巻いたスッキリした横顔の女性。身覚えがある。週刊誌の記事で見た写真の瑠璃子さんに似ている。私は思わず「おしゃれキャットのマリー」と呟いていた。


「何?」隣でスマートフォンの検索を続けているミヤコさんに訊かれた。


「私、見つけたかも……」




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