第55話 方向性とプランの作成
「ええ、言ったわ。でもいつも必ずしも分かるわけじゃない。人の心って底の見えない底なし沼みたいな時もあるのよ。そうかと思えば透明で透き通っている時もあるし」
「同感です」その時、なぜか瑠璃子さんの事でなく、璃空センパイの事を考えていた。「でも、とにかくこの間言っていた筋道の話……」
ミヤコさんは、あの時、言っていた。
――人がどんな風になっていくかっていう過程は、偶発的に見えても、ちゃんと筋道が通っている――
それが、探している人の行方を知るヒントになる、きっと。
「あの言葉の意味、私なりに考えてみたんですけど。もう一度説明してもらえますか?」
「人には方向性みたいなのがあって、自然とその道筋を通るという意味よ。過去と現在。それに、自分の気持ち、周りからの影響とか。病院のカルテの書き方にSOAP《ソープ》ってあるんだけど、それもそんな感じなんだって。お医者さんの同級生が言ってた」
「ソープ?」
私は、怪我をした時、病院の救急外来で聞いた会話を思い出していた。確か、お医者さんが「ソープ書いたから」と言っていたっけ。
「Sは、患者さんの言い分、症状。Oは、客観的な事実。検査結果、既往歴等。Aは診断で、Pはプラン。これからどういう風に治療していくかって事」ここでミヤコさんは、私の方に改めて向き直った。
「ね、私達もプランを立てましょう。探している人が最初にしてた職業って分かる?」
「看護師です」
「どんな風にその仕事をしてたか分かる?」
「超ジミです。それしか知りません」
「その後、転機があったとして、前の職業と似たような事はしてた? あるいは新たな職業とか」
「主婦ですが、病院の小児病棟のクリスマス会に参加しています。病院の役員だったかも。それとお姑さんの介護をしていました。あと義理の叔母さんが身体か弱かったみたいです」
ミヤコさんはしばらく考え込んでいた。
「菜々ちゃんは、その人が今、どうしていると思う?」
「私、ミヤコさんの事を思い出したんです。結局、宝石のお店を始めた事。もしかしたらその人も看護師に戻るか、それに関する事を始めているんじゃないかって。でもよく大人の社会が分からなくって行き詰まって……」
「だから私の所に来たのね。いいわ。出来る限り協力してあげる。でもね、その人の方向性は残念ながら今の話だけじゃ分からない。もしかしたらお姑さんの介護で、そういうのとは別の生き方をしたいと思うようになったかもしれない。それにね、もし探してる人に会っても、願いは叶わず、気持ちを踏みにじられるかもしれないのよ」
「はい。覚悟はしています」でも、なぜか瑠璃子さんという人は、そうじゃないという気がした。
「それではもっといろいろ教えて」
私は、これまで分かってきた事実を伝えた。ミヤコさんは難しそうな顔をしていた。
「じゃあ……菜々ちゃんの予想について考えてみるわね。まず、看護師に戻るには、ブランクがあり過ぎる。お医者さんを雇って病院を開くのはお金がかかり過ぎるし、離婚した夫に知られず、始める事は不可能ね。介護関係なら、小さなデイサービスの施設を自分の理想を取り入れて、開設できるかもしれない。普通の民家でやっているところもあるし」
私達は、瑠璃子さんの旧姓で検索してみたけど、それっぽい記事やホームページは探せなかった。
「身を隠しているから、名前が出ないような配慮はしているわよね」
「もしかしたら……」
「何?」
「もしかしたらミヤコさんみたいに、お店か施設の名前に、自分の名前の一部を取ったりしてないでしょうか? 英語や他の外国語にして」
「それもアリかもね」
「瑠璃って英語で何て言うんだろ……」
私はスマートフォンで検索してみた。でも色々出てきすぎて分からない。こんな時、普段から調べ慣れてない怠け癖が足を引っ張る。
私は、この間作ったグループラインを開き、質問してみた。
――英語で、瑠璃ってどう書くか分かる? そしてどう読む?――
――それ、夏休みの宿題にあったっけ?――
ルミとゆきなから同じようなツッコミがあった。
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