第52話 合流

 52.


 島本カズキと藍原ユウヤが、こちらに気が付いた。

「あれ、月島さんじゃね」とユウヤが言うと、カズキも「やぁ、家族で来てるんだ」とビミョウな挨拶をした。


 じいちゃんは、それに気が付いて「君達は菜々の学校の同級生かい? 菜々がお世話になって」なんて挨拶を始める。これだから親族と出かけるのは気が進まない。にしても、どうしてプライベートで出かけてる時に限って、クラスメートの大して仲良くない子に会うんだろ。

 でも意外にもカズキもユウヤも「こちらこそお世話になってます」なんてちゃんと挨拶をしている。

「今日は家族で食事に来ているんですか?」なんてユウヤが尋ねるもんだから、「祝島むつみのコンサートに」とじいちゃんも当たり前だけど正直に答えた。すると、二人は「おー」という反応をした。ユウヤが言う。「実はオレ達もなんです。こいつのお祖母ちゃんがチケット買ってたけど病気で行けなくなって、それでオレが代わりに行く事になったんですよ」


「じゃあ元々、君は、お祖母様と行く予定だったのか。そうか。それで代わりに同級生と」なんてじいちゃんは、感心しているし。

「これも何かの縁だ」とじいちゃんは、二人にも、私や翔太と同じ、デザートのプリン・ア・ラ・モードを振る舞った。カズキとユウヤは何度もお礼を言い、出てきたプリン・ア・ラ・モードをスマホで撮りまくっていた。それを見ているじいちゃんもうれしそうだったので、まぁいいかという気にもなったけど。それにしても、二人とは学校で会話がないせいか、こんなに社交性がある事に驚く。

 じいちゃんが余っているチケットの話をすると、二人は「それなら友達に連絡して、来れるかきいてみます」、「オーケーみたいです」とあっという間に貰い手が決まった。そしてその友達というのは、案の定、クラスメートの木嶋ルミと武藤ゆきな。しかも連絡してから二人が来るの、早過ぎ……。

 木嶋ルミはこの間、偶然会った時のようにナチュラルなファッションで、ゆきなは可愛い系。「ありがとうございます」とじいちゃんに挨拶をしている。「私達、これからどこ行こうかって話をしてたところでユウヤからのラインに気が付いたんです」


「そうか。お腹が空いているんじゃないか? ほら、菜々、クッキー持って来てたろ」


「え? あ、そうだ」 


 私はどこかで食べるかもと思って、菩提樹の蜂蜜で作ったクッキーを持って来ていた。


「これ、私の手作りなんだけど」


「え! 月島さんってお菓子作りするんだ。意外」なんてルミに驚かれた。ゆきなや男子二人は大ウケしてるし。


「意外なんて失礼すぎん? ……って言っても確かに初めてだけどね。特別にもらったレシピなんだからしっかり味わってよね」


「美味しいじゃん。見直したよ」


 夏休みのさなかにこんな青春っぽくクラスメート達と過ごすとは思わなかった。これも父さんの事件から身を引いたからこそ経験できた事なんだよな。



 公演会場の市民センターのロビーには中年から初老の人達が大勢いる。中には私達みたいに家族の付き合いで参加していると思われる子どもの姿も。

 でもさすがに私達以外に高校生はいないだろうと思っていたら、高校生位の子の姿は結構あった。Tシャツを着て、堂々として。よく見ると、若い人は意外に多い。男女比は変わらない。いよいよ公演が始まる緊張感。そして壇上に薄い山吹色の着物姿の祝島むつみが現れる。堂々としてオーラがすごい。皆が息を呑んだ瞬間、奇跡のような歌声が響き出す。

 その瞬間、私の鼓動が大きくドクンと鳴る。天井があるのに青空が見え、風が舞った気がした。それまでどちらかと言うと野暮ったいと思っていた祝島むつみ。その凛とした美しさに圧倒された。



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