第51話 コンサートへ

 金曜日は登校日で午前中、学校へ行く。でもコンサートは十三時半入場で、近くの市民ホールなので、全然問題ない。


 チケットは三枚、じいちゃんが買っていた。それは夫婦プラス私の分として。私の分まで買ってくれたのは、父さんの事でしょげている私を励ますため、かなぁ。ばあちゃんは親戚の家に行く用があるので、それで翔太が急きょ一緒に行く事になった。

 

 で、誰のコンサートかと言うと、民謡歌手の祝島むつみ。じいちゃんは、祝島むつみの歌で、自分と同じように私も元気になれると思ってるらしい。ちょっとキビシイかも。でもせっかくの気持ちだもんな。



 じいちゃんは呑気に、本当は、お前たちの両親も一緒だと良かったのに、と言っている。近所の人が商店街の夏祭りのクジでペアチケットを当て、祝島ムツミのファンのじいちゃんにくれたのた。だから、ちょうど二枚余っている。でも父さんは、今では中学校に退職届を出す気で、転職活動を水面下で始めているので忙しいし、入院している母さんが行けないのはもちろんの事。




 登校日の教室をさっさと出ようとする私に、クラスメートの女子が、「そんなに急いで、何か用事でもあるの?」なんて訊いてくるので、「つい、コン……」なんて言ってしまいそうになる。


「いや、ちょっとね」と、ごまかす。別にいいけど、渋い趣味の高校生だと思われてもな。それなのにその子は、「いいなぁ、リア充って」なんて、こっちの気も知らないで言う。前の席の木島ルミの視線を感じる。本当にルミは、私を意識し過ぎだって。



 ちょっと早目に出たせいか、十三時まであと十五分もある。じいちゃんは、市民ホールの建物にあるレストランで時間を潰そうと言った。大喜びの翔太の手を引き、私も今日ここに来た甲斐があったと思い始めていた。

 クーラーの効いた涼しいレストランに入ると、テーブル席は満席だった。私達は、長いカウンターに横一列に並んで座る事にした。


 そしてじいちゃんの左横に座ろうとした時、その右隣にいる二人組を見て、今日ここに来た事をちょっと、でも、確実に後悔し始めていた。その二人組とは、クラスで隣の席の島本カズキとその前の席の藍原ユウヤだった。

 





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