第37話 平野さんの手紙
再び私と璃空センパイは、平野さんに会いに行った。今度は、三階にある出版社の中にも入れてくれ、編集長にも紹介された。
その後、喫茶ル・モンドで私が長野樹という友達から父に届いた年賀状を見せた時、平野さんの顔が急に輝き出した。
「よし、これで少しは進展する筈だ。長野氏には僕から手紙を書くよ」
「あの……」
「何だい?」
「平野さんはそのティユルの経営者さんの娘さんに、また会いますか?」
「どうして?」
「そんなに記憶力の良い人なら、他にも色々覚えてるかもしれませんよね。イツキさんに会った後でもいいんですけど、私も会ってみたいです。事件の事と関係なくても昔の父の事、聞いてみたいし」
「分かった。連絡してみるよ」
平野さんは長野樹氏にこんな手紙を書いたと言う。自分は記者だが、月島真宏氏の娘、菜々嬢が父親の青春時代について知りたいと望んでいて、それを自分は手伝っている。差し支えなければ菜々嬢の父親のバイト時代のエピソードについて教えてくれないだろうか。近くの喫茶店で良いし、もし記事になる場合には、もちろん取材料をお支払いします、と。これに樹さんはあっさりとオーケーの電話をかけて予定が早々と決まったらしい。
センパイに、電話でそんな報告をした。
「平野さんってやっぱすごいよね。冷静で頭脳明晰って感じ。あれが出来る大人、あれが記者なんだって思った」
「でも平野さんってどうしてあんなにこの事件に注目しているのかな? この間、出版社にも入らせてもらっただろ? あの時、菜々ちゃんが平野さんと話している時、これまでの記事の事を編集長さんに聞いたんだ。そうしたら元々は社会派の記事を書く記者らしいんだ」
「でも事件についてちゃんと調べてる。これまで何を書いてたか、なんて関係ないよ」
私はその時、社会派って言葉の意味がよく分からなかった。社会派ってなんだろう。でもオレンジダイヤモンドが女の人から男子高校生に渡されたというのは、社会派とは違うんだ、というのは何となく呑み込めた。
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