第36話 母さんの新しい友達
帰りがけに叔母さんから、もらい物だからとクッキーの缶を二つもらった。
「入院している晴海さんの所にも持っていってあげてね。クッキー、好きでしょ」
帰りに母さんの入院している病院を訪れた。新しくリハビリテーション中心の病院に変わっていたけど、デイルームにいる母さんは見違えるように元気になっていた。
「クッキーありがとうって伝えてね」
リハビリが上手く進んでいるみたいだ。表情が明るくなった。患者さん同士で仲良くなってよく話もするみたい。
おしゃべりな同室のおばちゃんがいて、いつもこの病院内の事をいろいろ教えてくれるので、院内の事はもう隅から隅まで知っているって。コインランドリーの利用方法からリハビリ療養士さんの出身地まで。知らなくていい、おばちゃんの自分史まで教えてくれるのは、ちょっと面倒みたいだけど。そう言えばさっき母さんの隣のベッドの仕切りのカーテンが開き、母さんより少し年上の女の人が挨拶をした。はずむ毬のように現れた人は、「あら、こんな大きな娘さんがいるのね。わ、本当に背が高いわ。高い所にあるの、取ってもらう時、便利ね。あら、ごめんなさい。はじめまして。あなたのお母さんと仲良くさせてもらってるのよ」と一気に話しかけてきた。
ベッドにある名札には新井真砂子とあったかな。
そうだ。こんなにいろいろ知っている人なら、父さんに問題のネックレスを渡した人のダンナさんがやっている病院の事も知っているかもしれない。確か、彩城会って言ってたっけ。
「すみません。みんな、いろんな病院から紹介されて来ているんですよね。彩城会ってとこの病院を知っていますか?」
母さんは何の事か、ピンと来ないようだった。
新井さんは、すぐに「知ってるわよ」と笑顔で答えた。これは脈ありかも。
「それが凄い豪華な病院なの。まるで立派なホテルかお城みたいよ。でもね、彼処はどんどん建て増して、大きくなっていくばかりなの。建物が豪華になっていく分、外のリハビリコース、散歩コースが狭くなっていくんだから、たまったもんじゃないわ」
結局、病院についての情報だけ。その経営者の事なんて、新井さんは知る訳がない、か。
私がお見舞いから帰る時、母さんがエレベーターの所まで、一緒だった。
「あの新井さんね。すごくいい人よ。でも、時々、ちょっと妄想って言うのかな。それが入るから、話から半分に聞く時もあるの」
「妄想って何? 嘘をつくって事?」
「いや、そうじゃないの。他の人が経験した事をまるで自分が経験したみたいに、自分でも勘違いしちゃってるみたい」
私はさっきのお城のような病院は、新井さんが実際にいた病院じゃないのかも、と思うと何だか残念だった。お城のような病院は、悪くないって思ってたんだけどな。
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