第34話 叔母さんの家に

 私は、じいちゃんの家に帰ってから、さっそく叔母さんに電話をかけた。叔母さんは、父さんの妹。そして、かつての父さんの実家に今は一人で暮らしている。

 父さんの両親は、七年前に相次いで病気で亡くなっていて、その家で看病していた叔母さんがそのまま住んでいる。 

 私はそこに父さんの昔の年賀状が保管されているのを知っていた。

 実家に戻った時、父さんが昔の物を整理しながら、年賀状を懐かしそうに見ていたから。

 私は、かつての父さんの勉強部屋でレトロな文房具を眺めるのが元々楽しみだった。昔の年賀状に描かれた絵は、私の心をときめかせた。


 あれば去年の夏の事。消しゴムスタンプを作るのに凝っていた私はネットでアップされているイラストには満足できず、昭和や平成のかわいいイラストを探した。そんなイラスト集も書店には売ってはあるけど、数は少ない。

 そんな時、父さんの実家に行った時の昔の年賀状をを思い出した。そこにはどんなサイトにもアップされていないような可愛い絵柄で溢れていたっけ。


 お盆に実家を訪れた日、私が「消しゴムスタンプを作るのに参考にしたいんだ。これ、何枚か借りていい?」というと叔母さんも父さんも、後で戻しておくのなら別に構わないと言った。


 私は父さんに、また消しゴムスタンプの図案の参考にしたいので、実家に年賀状を見に行っていいか、尋ねた。返事は、別に構わないけど、母さんの事もあるから車に気を付けて行くようにとの事だった。嘘をついて悪いと思いながらも、私はそこからオレンジダイヤモンドの情報に繋がる何かが見つかる事に賭けた。


「叔母さん、ごめんね。いきなりで」


「菜々ちゃん、あがって。あんたが消しゴムスタンプ作ろうなんて思うくらい、元気で良かった」


 叔母さんは母さんのお見舞いにも来てくれたし、事件の事も知っていた。


「実はここにも警察は来たのよ。でも簡単に部屋を見て、中の物を調べただけ。年賀状は無事よ」と叔母さんが言う。

「て言うか、たぶん若い時にもらったっていう話自体、信じちゃいないと思う」


「そうなの?」


「普通、高校生が路上で宝石もらったりする? そしてそれを黙ってるとかあると思う?」


「うーん……」


 でもそれが事実。たぶん。

 叔母さんの作ってくれたレモネードが鼻につんときた。

 私は二階に上がり、和室の引き出しの中から昔の年賀状を、押し入れの中から卒業アルバムを出した。


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