第30話 私は変わらない
「分かりました。協力します。父が事件に無関係だと証明されるまで」
「オーケー。じゃ、君達の知ってる事を教えてよ。まずは今朝、行ったというお店の事を」
私と璃空センパイは、代るがわる午前中訪れたミネギシとクリスタルレインの話をした。そこであった人達の話まで。
そして私は切り出した。「では、週刊誌に出ていたBという人物について教えて下さい。父にオレンジダイヤモンドを渡したという……。そしてできれば会いに行く時、同伴してもらいたいんです」
そう、これは用意していた言葉。刑事さん達は直接、交渉しない方がいい、みたいに言っていたけど、これは譲れそうにない。ただし週刊レーベンによると、経営者の元妻だとか。子ども二人で訪ねていっても相手にしてもらえるかどうか怪しい。
「一つ一つ、丁寧に片付けていこう」平野さんは提案する。「まずこれを見て」
記者の平野さんが自分のスマートフォンを私達の方に向けた。ワイドショーで放送された動画が流れた。目の部分を隠した男性がインタビューを受けている。病院の職員のようで、彼は当時の院長夫人がいかに贅沢三昧で散財していたか、横暴であったかを語っていた。
――『そりゃもう、いつも女王様みたいでしたよ。乗ってきたポルシェを患者用駐車場に停めて、ブランド物を身に纏ってお手伝いさんを侍らかせてやって来るんです』――
「院長夫人って……。これが父さんにネックレスを渡した人物なんですか? ひどいおばさんだったんですね」
私はため息交じりに言った。
「それはどうかな。でも夫人はその昔は広告塔みたいな存在だったんだ。看護師をしていた人間が病院経営者の妻だからね。その時は褒め称えられ、まつりあげられてたらしいよ」
「広告塔?」センパイが眉をひそめる。
「そう。自分たちにとって良い宣伝になるような人物を取り込む事だよ。ま、あまり良い言葉じゃないけど」
「じゃあもう広告塔でなくなったから、この動画みたいに暴露されてるって事かな」
「そりゃもう、自分達にとって関係のない人物になってるからね。ただ……」
「ただ……何ですか? 関係がなくなった途端、正直にいろいろカミングアウトされるなんて、キツいですよね。それとも自業自得なのかな」センパイは動画に目を向けたまま言う。私は父さんが憧れていた人だけに言葉を失っていた。
「ただ本当に正直に話してるのなら、ね。病院職員のインタビューは、言わされてる感じするんだ」
「言わされてる?」
「ああ。昔、独身で看護師時代の彼女の同僚を探し当てたんだ。当時は、超ジミな女性だったらしい。このインタビューの職員の言っている事に信憑性がない気がするんだ」
「でもお金持ちと結婚して変わったんじゃないですか?」とセンパイ。
「そう思うかい? 月島さんはどう思う? もし君が将来、お金持ちと結婚したら、君は変わると思う? 性格とか、好きなものとか……」
私は想像してみた。もし将来、お金持ちになったら自分は変わるんだろうか? 好きな食べ物、好きな音楽グループ、好きな歌、好きな映画。そして好きな人。いや、変わらない、絶対に。それにじいちゃんは私や翔太に昔から言っていた。他所様にはいつもていねいに対応して敬意を払うものだと。誰かを粗末に扱ったり、傷つけたりするのは恥ずべき、最低の事なんだと。そんな信条だけは変えられない。いきなり贅沢三昧したいと思うだろうか? それは分からないけど。
「私は変わりたくないです」
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