第29話 協力し合う関係
「これがその友達で、父の元教え子なんです」
私は、璃空センパイを平野さんに紹介した。
「はじめまして。宮田璃空と言います。月島先生は僕の担任でもあったし、数学パズル部の顧問でもありました」
突然の紹介に平野さんは戸惑っていた。通路に立っている璃空センパイを店員は邪魔そうに避けて通っていく。ランチタイムの喫茶店には、お客さんが、増えてきていた。
「数学パズル部、か。とりあえず、こっちの席に移動しなよ」
センパイは店員に了解を取ると、飲みかけのカフェ・オ・レを持って、私の隣の席に移動して来た。
「何か身分証を持ってる?」
璃空センパイは、リュックから学生証を取り出して見せた。
「へぇ。大倉高校か。カワイイ顔して頭良いんだ」
カワイイ顔、頭良い……どちらも私の学生証を見た時には出て来なかった言葉なんですけど、とちょっと平野さんを睨む。ま、仕方ないか。事実なんだから。
そう言えば、私は黙って見てるだけで、「睨まれてるみたい」とか「ガンつけられた」と言われる事があった。
中学に入ると、不良グループから「ウチらと遊ばん?」と誘われた事もある。「なんで?」ってきいたら、「一緒にいると頼もしそうだから」なんて、どれだけ強キャラに見えたんだろ。結局、父さんが中学の教師と分かると、不良グループが近付いてくる事もなくなったけど。相手が誰であっても仲良くなるのは全然構わない。でもいいように利用されるのは、キツい。自分はきっと相手が思うような頼りになる強い子なんかじゃないから。
私は平野さんに宣言した。
「ただ、協力し合うにしても、私達家族にとって、公にしたくない事だってあります。何でも教えられるわけではないし、教えても心の中にとどめておいてほしい事もあるんですよ」
私は父さんに内緒で、昔のバイト先に行って話を聞いた事に、実は良心の呵責を感じていた。ましてや他人にいろいろ父さんのプライバシーについて明かす事はできない。
「もちろん。プライバシーは尊重するよ。僕達は何でも記事にできるわけではないんだ。いろいろ調べていくうちに、もしかしたら君のお父さんにとって、君の家族にとって知りたくなかった事も出てくるかもしれない。
でも埋める事はできるよ、君のお父さんの人生の中の謎の空白を。それで君のお父さんを守る事ができるんだ」
「埋める? 守る事ができる?」
その言葉で、私は心の中のモヤモヤしたものに決着をつける事にした。父さん側でなく、向こう側、父さんに盗難品を押し付けた側を知っている誰かの協力を得ないと、先に進めない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます