第28話 立場逆転

「でもその綺麗な人が一体誰で何のために父にくれたのか、さっぱり分かりません。無責任な人だなって思うんですけど」


「無責任って?」


「宝石は盗難品だったみたいだし。いくら理由わけあって宝石を手放したかったにしても、父を巻き添えにするなんてひどいです」


「宝石を手放したかったってどうして分かるの?」

 平野さんは興味津々みたいだった。


「実はここに来る前に、父が問題の宝石を受け取った数年後にバイトしたというお店に行ったんです。宝石なんかを売るお店です。それで社長さんと話した後、昔、父が一緒に働いた人のお店にも行って話を聞いてみたんです。その人が言ってました。いらないからって宝石を渡されたんなら、どうしても手放したかったんだろうって。そしてその理由は……」


「待て待て。いや、待って。新しい情報ばかりなんだけど」 


 平野さんは慌てて鞄から革の手帳とペンを取り出し、手早く書き込み始めた。さっきまで自分の知っている話を聞かせてやろうという大きな態度だったのが一転した。そんなにこの情報は重要なんだろうか? この鋭い目をした記者さんに伝えていい事だった?


「君のお父さんが宝石店でバイトしていたなんて初耳だよ」


「父は警察でも言ってたようですけど。でもそれは犯罪とかそういうのには全く関係ないですから」


「でも凄い偶然だね。そういうお店でバイトなんて」


「父は真面目なので、自分が図らずも宝石を受け取った事で、色々詳しくなりたいって思ったんですよ。宝石の事に」


「で、さっきの、どうしても手放したかった理由とかいうのは?」


「昔、父から相談された従業員の人がいて、その人の話なんです。人は、そのアクセサリーにまつわる何かと縁を切りたい時に、手放したいと思うって。それともう一つあったな。そうそう。出処がアヤシイ物を持っていたくないっていうのも間違いじゃないって。いわくつきかもしれないって理由で」


 平野さんは一生懸命メモをとっていた。

「じゃあ、君のお父さんは、宝石を受け取った事をその店で打ち明けて、相談してたって事?」


「それが……。父の友達が女の人から宝石の付いたネックレスを受け取った話になってて。友達の事として、相談していたみたいです」


「そっかぁ」


「あの、私は、こんな情報を伝えるために来たんじゃないんです。私の方が逆に知りたいんです。平野さんは知ってるんでしょ? 父に問題のネックレスを渡したのが誰なのか。AさんとかBさんとかCさんとか……週刊誌に書いてましたよね?」


「一応ね。でもその人物は君のお父さんに渡したとは言ってないんだよな」


「なんでそんな事になるんだろ」


「そこなんだ。警察でもその人物と君のお父さんを繫ぐ何かを探しているらしい」


「どうやったら本当の事が分かるんでしょうか」


「僕と協力しない? 個人情報保護法の関係で、週刊レーべンの記者の立場からだけじゃ取材できない所がある。でも君は違う。関係者の娘だから、君なら会ってもらえる人もいるだろう。それに君は、なかなかの切れ者らしい」


 私はちょっと戸惑いつつ、言った。


「それなら友達も誘っていいですか? 父の事をよく知る友達です。私一人じゃ大人の男の人と行動するの、両親が認めないかもしれないから」


「友達?」


「ええ。ここにいるんです。センパイ!」

 私は向こうのボックス席の方に向かって合図をした。




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