第24話 故郷
「私にも分かる気がするのよ。若い時の夢って消えないものなの」
「そうなんですか? 私にはそんな夢とかないから、夢がある人がうらやましいです。よく超現実的って言われます。子どもの頃から綺麗な物が好きだったんですか?」
「そうね。綺麗な物に憧れはあったわ。でもただ華やかな世界に憧れてただけ。田舎の出身だもん。山に囲まれて、川が流れて。そんな所よ。やっぱり都会は違うなーって。それで初めて就職したのが都会の大きな店だけど、当時は、ひたすら売りまくる感じで、ヒドい事してたなって、今になると思うんだ。当時は物が飛ぶように売れる時代でもあったんだけど」
都会的に見えるこのミヤコさんが田舎の出身なんて信じられない。しかも、売りまくる感じでヒドい事してたって。ぶっちゃけじゃん……。
「でも、月島君の娘さんが夢がないなんてね」
「いや、将来の事をまだあまり考えてないってだけで、人生に絶望はしてないです。ただ漠然と将来、好きな人と一緒になりたいって思うくらいで。あ! ごめんなさい!」
私はさっき、ミヤコさんが昔、失恋したという話をしていたというのに、「好きな人と一緒に」なんて余計な事を言ってしまい、傷付けてしまったかもしれないと後悔した。ミヤコさんの他の細い指には豪華な指輪が煌めいているのに、左手の薬指には何もなかったから。
「え? さっき私が失恋の話をしたから? 別にそんな昔の事、何も気にしてないから大丈夫」
ミヤコさんは声を出して笑っていた。
「さっき話してた失恋の後で、一度故郷に帰ったの。その時、昔の同級生から、冗談っぽく、告られたの。一緒になってくれないかって」
「え? 告られたというか、プロポーズ? やるなぁ」
「でも断ったの。田舎で終わりたくなくて。それにヒドい商売に加担してた私と一緒になったら、純粋な人を傷つける気がして」
「……そうなんですか?」
「それに、やな感じの商売してたから、同じ業界で自分の罪を補って取り戻したかったの。逆転勝利を目指して」
「逆転勝利?」センパイが繰り返す。
「そうよ。だから思春期の頃の夢を詰め込んだようなアクセサリーを目指したの。あの、ミネギシに毎日来てるおばあさんだけどね。若い頃、お給料を貯めては自分へのご褒美でアクセサリーを買ってたらしいのよ。あのおばあさんにも挑戦してた時代があったのよ。そして今もそれが心の中で続いているんじゃないかな」
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