第22話 若き日の思い出
「月島君の事で特に知りたい事があるのね」
近くで見るといっそう神秘的な人で、昔の絵に出てきそうな人だと思った。
「はい。はっきり言うと、昔、父がミネギシで働くようになったきっかけのオレンジダイヤモンドについて、何か知ってないかって事なんです。それを高校生の頃、父は受け取ったらしいんですけど、今その事が問題になっています。知らない人からネックレスを受け取るなんて、普通あり得ない話だし、父も忘れている何かがあるんじゃないかって思ってるんです」
「そうなのね。菜々ちゃんは月島君と違って、はっきり物事を言うタイプね。私ね、一度、月島君から相談を受けた事があるの」
「え? どんな相談ですか?」私とセンパイは身を乗り出した。
「それがね、自分の友達が失恋したんだけど、失恋した相手の女性から、別れ際に宝石の付いたネックレスを、『これ、いらないから』って手渡されたと言うの。この時の女性の心理は、一体どういうものなんですかねって」
「え? 友達……ですか?」
「まぁね。普通に考えると、自分の友達の恋愛について相談する時って、99パーセントその人自身の話よね」
「はい。そう思います。で、どう答えたんですか?」
父さん、なんでそんなミエミエな相談の仕方したんだろ。もし、自分の事として相談してれば、有力な証言だったのに。
「まず、自分の贈ったネックレスを返されたのかって聞いたのよ。もしそうなら脈なしできっぱり諦める事ねって。でもそうじゃないって言うの。見た事もない物だって」
「見た事もない……。戸惑ったんでしょうね。そして何と答えたんですか?」
「それはどうしても手放したいネックレスだったって事よって答えたわ。誰かが手元にあるアクセサリーを手放したいという時って、どういう時か分かる? また、逆にどうしても手放せない時ってどういう時だと思う?」
ミヤコさんは、私達に訊いてきた。
「私は、よく、分からないな。でも好きじゃない、仲良くない相手からもらった物は、あんまり持っていたくないと思う」
「君はどう思う?」ミヤコさんは璃空センパイにもきいた。
「出処がアヤシイ物も持っていたくないな。いわくつきかもしれないとか勘ぐってしまうし」
「どちらも正しいよね。人は、そのアクセサリーにまつわる何かと縁を切りたい時に、手放したいと思うのよ。逆にどうしても心の中で縁を切りたくないって思う何かがあると捨てられない」
私は父さんがあのネックレスをずっと捨てられないでいた理由を知った気がした。
「私はそう、月島君に答えたのよ。私にもそんな経験があったから。きっとお友達の好きだった女性は何かと縁を切って新しく旅立ちたいという気持ちだったのよって」
「父は、それに何と言ってましたか?」
「黙って何か、考えている様子だった。そしてそれっきり、この話はお父さんとの間で出て来なかったの」
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