第11話 面会で


 その午後、いつものように母さんの入院する病院に面会に行った。入院してもうすぐ二週間。手術後の経過も良いのでもうすぐリハビリテーション中心の病院に移るという話が出ているそうだ。


「まだ車椅子でしか移動できないし、不安もあるんだけどね。それより父さんの方は大丈夫そう? 仕事を休んでるのよね?」


「知ってたの? 元気は元気だよ。この際、家の中を片付けようって張り切ってる」


 母さんが笑った時、口元に手を当てたので、細い指にウェーブを描いている結婚指輪が目に入った。


「ねえ、その指輪って父さんからの贈り物だよね。どこで買ったか知ってる?」


「え? 結婚指輪は二人で買うものよ。婚約指輪は、もちろん父さんから贈られた物だけど。でもどっちも百貨店のジュエリー扱ってるプランドのお店で買ったのよ。ほら、結婚前は私、百貨店に勤めてたから社員割引もきくし……」


「なーんだ。 味気なっ!」


「その当時は父さんのお給料もまだ安くて、余裕がなかったしね。本当はサプライズで婚約指輪を用意してあるとか、憧れてたんだけど」


「だよね。でもこれが父さんだから仕方ないのか」


「そうね」


 そう言いながらも少し寂しそうな表情をした。やっぱり宝石の話題で、いやな事を思い出したみたい。

 

 そして父さんは宝石について、特に好みもこだわりもなかったんだ。昔、勤めていたお店に連れて行くとか、あったのかと期待したのに。


「そうだ! 母さん、私、明後日あさって、友達と出掛けるから、その用意もあって明日と明後日は面会に来れないの。ゴメンね」


「旅行に行くの? 田舎? 都会?」


「都会よ。でも旅行というわけじゃなくって。ただ街の散策というか……」


「ショッピング?」


「それもある、きっと」


「ヘンな子。本当はデートなんでしょ?」


「違うよ、まじで。用事があるんだ」


「そうなの? アンタが出かけるための準備するなんて、よっぽど気合の入る相手と出かけるんだろうって踏んだのに」


「ザンネンでした」


 鋭いな。


「だけど気をつけなきゃね。都会はいろんな人がいるから。変な勧誘に乗ったりしちゃダメよ。人が何を考えているかなんて分からないものよ」


 私は家族の事もよく分からない。だから出かけるんだよ、母さん。真実を見つけるために。

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