第10話 金庫

 私はセンパイとの会話で一つ気になった点を確かめたいと思った。父さんは職場に宝石を保管していたと言う。最初からそうだったのだろうか?

 少なくとも教師になる前は、別な場所に保管していただろう。いや、教師になってからも、もしかしたらどこか他の場所に保管していたかもしれない。

 思い当たるのは、前にじいちゃんが持っていた金庫だった。肉屋のじいちゃんは、店の規模を小さくする時に、処分する物を業者に頼むと同時に親戚にも声をかけていた。その時、父さんは確か小さな金庫に興味を示していたはずだ。


 家に帰ると弟の翔太に声をかけた。

「ねえ、翔太、じいちゃんは?」


「庭にいるんじゃない?」


 菜々が庭に行くと自宅の裏の倉庫を閉めているじいちゃんの姿があった。

 す

 「倉庫を片付けていたの?」と私は聞いた。


「そうだ。不要な物というのは、思いのほか増えるものだな。思い切って捨てないと……」


 言葉にいつもの歯切れの良さはなく、なんたか元気がない。やっぱり婿である父さんの事を気にしているんだ。


「ねえ、前に要らない金庫があったらほしいって父さんが言ってた事、あるよね? 結局、古い金庫を父さんに譲ったの?」


「ああ、おまえ達の父さんから昔の物なんかを入れる小さな金庫がほしいって言われた時の事か。一度は譲ったけど、返されたよ」


「なんで?」


「元々、小さい金庫は壊れてるから薦めないって行ったんだよ。一度入れたら、なかなか開かなくなってるから、大切な物を入れて、二度と出せなくなったら大変だからって。そしたら」


「そしたら?」


「それでもいいって。もう二度と出せないくらいの方がいいなんて言って……」


「何それ。怪談の何とか箱って話みたい」


「でも結局、おまえ達の父さんは金庫を返したんだ。未練があったのかもしれないな」


「お宝に……じゃないよね」


「うん、違うな」


「でもどうせなら怪談のやつみたいに、鍵が壊れててる上に、ぐるぐる巻きにして二度と出ないようにしてほしかった……」


 そんな捨て台詞を目の前にいない父さんに向かって言っていた。

 

 

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