第9話 週刊レーベン
その雑誌には、週刊レーベンと斜め書きのロゴが入ってある。
表紙には、精華中学校での窃盗事件のその後を扱った記事の見出しがあった。
「この間の窃盗団の話かな?」
図書館で新聞の記事を見てからは、自分なりに他の雑誌の記事も書店で立ち読みしていた。でもどの雑誌にもこれまでろくな事は書かれていなかった。ようやく窃盗団の存在が明らかになって、父さんの事を同情的に書いてある雑誌を見かけるようになったものの。
「この一冊だけは、他の雑誌と視点が違うんだ。まあ、読んでみなよ」
璃空センパイは週刊誌のページを捲り、あるページを見せた。
そこには「都会の怪…… 伝説の夕陽を巡る奇妙な運命」とあった。
「伝説の夕陽?」
「ああ。月島先生が持ってたっていう宝石の事だけど、別名、レイン湖の夕陽って呼ばれてるんだって。ほら、ここに書いてあるだろう?」
「レイン湖?」
「アイルランドにそういう場所があるらしいよ」
記事の内容は、次のようなものだった。精華中学校の教諭Aは、盗難届の出ていた、世界的に貴重な宝飾品を勤務先のロッカーに隠し持っていた。
それが同中学校の盗難事件の際に発覚。宝石の種類はオレンジダイヤモンドで、元はアイルランドの城主の所有物。通称、「レイン湖の夕陽」。Aは、その宝飾品は、20年以上も昔、ある人物Bから路上で譲り受けた物であると説明。Bの名前は分かっていて、そのBも信頼のおける人物に20年以上前に渡したと話しているが、その人物は(つまり渡した相手は)Aではないと主張。そしてBの渡した相手Cについては、警察も消息が掴めず、というより該当人物が存在しない。さらにこのBについて。関東圏に複数の医療機関、介護施設を持つ医療法人の経営者の元妻である。この経営者は、元妻であるBこそが、宝石を盗んだ張本人だとして刑事告訴していた。もっとも、それは20年以上前の事でなく、宝石は最近まであったはずだと主張。さらに20年以上前ならそれは、経営者の伯母の所有物であった、と。ただし彼が相続する事がほぼ決まっていた物。
「何これ? 訳分かんないんだけど」
私は狐につままれたような気になった。夏なのに、ヒンヤリとした空気を背中に感じる。
記事は次のように締めくくってある。「十九世紀にヨーロッパから渡ってきたとされる貴重な宝石が、この東京の高級住宅街から下町の金庫の中へ、どのような経緯でさすらってきたのだろうか? 物言わぬ美しい石に問う事が出来たなら……。本当に伝説通りに持ち主を幸福にしてきたのか、と」
「持ち主を幸福にするって言われてるのね。でも私んちは、この宝石のおかげで今、大変なんですよ。父さんは仕事、休まされるし、母さんは事故にあうし。でもこの書き方、普通の週刊誌と確かに何か違うなあ、何、この『物言わぬ美しい石』って……。詩人みたいなんだけど」
「ん。これ、創刊したばかりのちょっと変わった雑誌らしいよ。ね、この記事書いた記者に会いに行くっていうのはどうかな?」
「私も今、それを考えてたの。これまで読んだ記事は、どれも似たり寄ったり。初めは父さんの事を怪しく書いていて、その後は窃盗団の恐怖についてばかり。でもこれは違う。この記者の人、他にも色々知ってそう。璃空センパイ、一緒に行ってくれますか?」
「そうだね……そのつもりだった。都心と言っても、日帰りで行けるだろう。明後日なんかどうかな? 明日は日曜だから、出版社は開いてないかもしれないし」
「ええ。でも、もし東京に行くんなら、私、他にも寄りたい場所があるんです」
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