第4話 苦しい日々
その日、家に帰ってからも、あの記事の事が気にかかっていた。かと言って、父さんに面と向かっては切り出せない。
さらに私は、クラスの席の近い同級生から、つまらない嫌がらせを受け始めていた。聞こえるようなイヤミとか、体育の授業のバスケで私にわざとボールをパスしないとか。
元々、今の高校では、私と同じ中学から進学した子は少なかった。代わりに人口の多い地域のマンモス校と呼ばれている中学から進学してきた子達が多い。しかもこのマンモス校出身の子達は、グループを作って自分達だけで盛り上がりたがるため、よそ者は入っていきにくかった。
私のクラスの席は、まさしくこのマンモス校卒業生に取り囲まれていた。背が高いため、窓際の一番後ろの席になったのはいいけど、隣は愛想のない島本カズキって秀才。でもこの秀才は、前の席の藍原ユウヤという同じ中学出身の男子とはよく話す。ユウヤは、私が言うのもなんだけど勉強はダメでちょっと不良っぽく見えるから、あまり気が合いそうには見えないのに。それでも男同志という事で、まあ許せる。
でも私の前の席の木嶋ルミともよく話している。これもマンモス校出身。ハキハキしているけど、気分屋で、人によって態度を変えるイヤなやつ。このルミが聞こえるようなイヤミを言ったり、バスケで私にわざとパスしないやつ。さらにルミの前の席も同じ中学の出身の子で、超小柄な武藤ゆきな。可愛いけど、いつもピイピイ騒いでいるうるさい子。この四人がいつも仲良く話しているから、私は元々浮いていた。
父さんの事件があってからは、さらに四人は、私の方を時々盗み見て何か、囁いている。
こんな事でクヨクヨしていると見られるのがイヤで、わざと元気に振る舞うと、四人は冷たい目でこっちをじっと見ている。こんな席がイヤで、もう早く卒業したかった。
運の悪い時は、徹底的に運が悪い。さらに災難がわが家を襲った。パートをしている母さんが自転車で帰宅する途中で、車にぶつかったという知らせがスマートフォンに入ったのだ。
いつも通い慣れた道なのにと思っていたら、近所の目が怖くなって、遠廻りして通勤していたのだとか。母さんは口には出さないけど、あの記事の事を知っていたのだ。
「タオルとか必要な物は、このトートバッグに入れておいた。じいちゃんが車で送ってくれるんでしょ?」
そう言いながら、私は春からの一連の事が何だか無性に腹立たしくなってきた。なんで私達家族がこんな思いをしなくちゃならないんだろう。今までなら間違ってると思う事は何でもはっきりと口に出して言えていた。そしてそれで解決できる事は、みんなで協力して解決してきた。でも今度は違う。まるで靄の中で見えない何かと戦っているみたい。
父さんは警察にまた事情聴取に呼ばれていて、部屋には弟の翔太とじいちゃんしかいなかった。翔太は戸惑ったように私の顔を覗き込んでいる。きっとその時私は弟も怖がるようなひどい顔をしていたに違いない。七才の翔太は、父さんが巻き込まれている事件の事をまだ知らない。それでもクラスには事件を知っている家の子がいるみたいで、「うちの父さんが怪盗だって友達が言ってたけど本当?」なんて変な事を聞いてくる。
じいちゃんは私の肩に手をかけ、優しく言った。
「気に病むな。母さんは良くなるし、父さんの事だって何かの勘違いだって今にみんな分かるから。そうしたらそれまで菜々にしてきた事をみんな後悔するようになるよ」
「そうなるかな」
「ああ。菜々の父さんは要領が悪いくらい生真面目だろ。きっと何かに巻き込まれただけだ」
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