第5話 西島まどかの事情


 私、西島まどか。去年の忘年会で知り合った神崎龍之介君、今はりゅうって呼んでいるけど、年明け彼からの連絡で会う事になった。


 私が待合せ時間に遅刻したのも悪かったけど、彼と一緒に居ても何も楽しくなかった。元々一技の人だからと思って少し期待したのが良くなかった。


 だから、まあその日で終わりかな。キープ程度かな位に思っていた。それから少ししてまた彼から会いたいと連絡が有った。表参道だし、遅く行って居なかったら、一人で遊べばいいや位で待合せ場所に行ったけど彼はまだいた。だからその日はそのまま付き合った。


 でもこの日は最初と違って、高いイヤリングは買ってくれるし、素敵な紅茶専門店にも連れて行ってくれるし、最後は、青山で回転しないお寿司屋さんで特上を食べさせてくれたから、物理的にはとても満足した。それに全部彼持ち出し。


 その後も詰まらない会話だけで、万一のお誘いも無かった。有ったら断っていたけど。


 でも金払い良いし、付き合ってもいいかなと思っていたら二週間に一回の割合で誘ってくれた。


 テーマパークに連れて行ってくれたり、美味しい物を食べさせてくれる。勿論支払いは全て彼。それに会っている内に彼の仕草が、かっこ良かったり可愛い所も有った。


 駅で待っている時にナンパされそうになった時、彼はかっこよく私を救ってくれた。武術の心得もある所が嬉しかった。


 だからこのまま付き合ってもいいかな。もしもっといい人が見つかったらそっちに乗り換えればいい程度に思っていた。


 だけど、四月に入って、新しい案件の準備で資料とか作る時間が多くなり、土曜日も出るようになった。だから彼からのお誘いは断った。仕事が理由というと彼はしつこい位、終わるまで待っているっていう性格の所も有ったから家の事情にした。


 土曜日、いつもより少ないけど人は出ている。私も午前中から出て案件の資料を作成していると分からない所が出て来た。

 当然担当営業も出ている。その営業は渡辺茂樹(わたなべしげき)、背はりゅうより低いけど、イケメンで。妻子持ち、入社五年目のやり手営業マンだ。


 分からない所を聞きながら修正しつつ資料を作っていると

「西島、もう午後五時だ。今日は、ここで上がろう。上手い夕飯食べさせてやる」

「本当ですか。行きます」


 流石、営業。少し洒落たレストランに連れて行ってくれた。私はお酒に強くないけど白ワインが口当たり良く飲みし過ぎそうになったが、

「西島、その辺でワインは止めて水が良いんじゃないか」


 しっかり見ている様で、私も後は水で食事をした。会話も流石営業ってくらい楽しかった。


 次の土曜日。りゅうと会う約束だったけど、休日出勤を理由で断って、また渡辺さんと一緒に仕事をした。そしてまた夕飯をご馳走になった。


 次の土曜日もりゅうの誘いを断って、休日出勤した。こんなに出ると代休を取らないといけないけど、自分で権利を放棄する仕組みがあるのでそれを使った。


 この日も午後五時には上がって、渡辺さんがタクシーで渋谷のレストランに連れて行ってくれた。ホテルの中に有るレストランで結構素敵だった。一緒に夕食しても私の体を心配してくれる人だから油断した。ワインを飲み過ぎてしまった。




 痛みに気が付いて目を開けたらベッドの上だった。肌には何も着けていない。そして渡辺が私の体の上にいる。

「い、痛い。何しているんですか?」

「もう少しで終わるから」

「やめて、いやー!」


 こんな形で私の初めてが失われた。最初押さえられていたけど、渡辺はあれが上手かった。気が付いたら、初めてなのに何回もいかされていた。もう抵抗する気も無かった。


 一通り終わったのだろう、私の横に体をずらすと

「西島、今女房と別居している。別れるつもりだ。別れたら俺と一緒になってくれないか」

「えっ、何言っているんですか?」

「女房の浮気が原因だ」

 寂しそうな目をしていた。


「渡辺さん。こんな事して、ただで済むと思っているんですか」

「どうにもならないさ。ホテルのレストランで食事をしてそのまま部屋に入った。それだけの事だ」

「な、なんて…」

 私は法律なんて知らない。渡辺が言った事に納得するしかなかった。


「もう帰ります」

「無理だ。電車はない。タクシーで帰れる距離じゃないだろう」

「でも…」

「そんな事より…」

「や、止めて」

 悔しいけど気持ち良かった。

 


 でも次の朝、私は朝一番で部屋を出て家に帰った。お母さんに少し怒られたけど。それからは、休日出勤はしなかった。会社で渡辺に会っても向こうから話しかけない限り、無視した。

 幸い、作業の方も緩やかになっていた。


 でも、私が何回もりゅうの誘いを断った所為か、彼からは二ヶ月近く連絡が来ることが無かった。


 私が会っていてもぞんざいに扱ったのが良くなかったのかもしれない。彼を暇つぶしの金ずる程度に思っていたから。


 だからもう駄目かと思っていた。でも会わなくなって自分の彼への思いが、初めの頃より強くなってなっていた。


 会えないからの思いなのか本当に彼を好きになったのかは分からないけど。だからもう一度彼と会いたかった。


 そして昼食を摂りに外に行った帰り、一階のエレベータホールでりゅうと会った。会っている途中、渡辺に見られたけど構わなかった。


 ダメ元と思いながらその日に誘ったらOKしてくれた。


 そして、食事中にりゅうに告白された。本当はいいよって言えば良かったんだけど、渡辺の事が有ったから、私はそれのより前にりゅうと付き合っている風を装って


『あの、神崎君。私達付き合っているんじゃなかったけ?』って言ってあげたら、彼驚いたけど素直に喜んでくれた。


 もう渡辺なんかとは会わない。りゅうは話を聞いていると、まだ未経験らしい。だから私もそれを装う事にした。


 これでりゅうと上手く行けば元通りになれる。


 それからは普通に週末デートした。偶に会社の帰りもデートした。本当に仕事で忙しい時は素直に謝って先に帰って貰った。前だったら、彼は待っているというのも言わなくなった。彼の心も安定したのかな。


―――――


書き始めのエネルギーはやはり★★★さんです。ぜひ頂けると投稿意欲が沸きます。

それ無理と思いましたらせめて★か★★でも良いです。ご評価頂けると嬉しいです。感想や、誤字脱字のご指摘待っています。


宜しくお願いします。

 

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