第4話 進展は思わぬところから


 俺は、西島さんと初めてデートしてから仕事の方も大分忙しくなって来た。土曜日出勤が当たり前になった。

 

 面白い物で時間が過ぎるとまた会いたくなって来る。あれから、メールも何もしないままに二週間が経った。

 俺は可能性がほとんどゼロに近いと思いつつ、仕事から帰った土曜日の夕方、西島さんに連絡した。

『久しぶりです。仕事が忙しくて連絡出来なくてすみません。もし都合良ければ明日の日曜日会えませんか?』



 

 一日部屋でゴロゴロしていた私はいきなりスマホが震えて驚いた。この時はもう神崎君の事は頭から消えていたので、誰か分からなかった。


 えっ、神崎君。メッセージアプリを開くと明日会えないかと言って来ている。


 どうしようかな。この前の事もあるし、あんまり気乗りしないけど、暇潰すには良いか。

『良いですよ。会いましょうか』


『では、表参道の駅改札に午前十時でいいですか?』

『はい、分かりました』


 信じられない。まさか、二回目もデートOKして貰えるなんて。やっぱり望みあるのかな?


 俺は翌日も早く起きたけど、表参道の改札に午前九時四十五分前には着いた。そして待っているとやはり午前十時には彼女は来なかった。連絡もない。

 三十分経って、すっぽかされたかなと思って帰ろうかと思っている所に彼女が現れた。

「おはよう、神崎君」

「おはよう、西島さん」


 ふふっ、やっぱり彼は何も言わない。少し位遅れても気にもしないんだ。今日は待合せ場所が表参道だし、いなかったら一人で遊んで帰ろうと思っていた位だから。


「西島さん、今日は竹下通りとか見ながら青山通りに出て、美味しい紅茶を飲んでそのまま渋谷の方に歩きましょうか。

 途中美味しいお寿司屋さんが有るんで、そこでお昼にしましょう」

「うん、いいですよ」

 今日は少しは考えてくれているのかな?


 俺達は予定通り竹下通りを歩いた。日曜日という事もあるけれど結構な人出。二人で並んで歩くのが大変だ。本当は手を繋げばいいんだけどそんな勇気無いし。


 凄い人出だな。あっ、人の流れが止まって歩けない。彼が先に行ってしまい…。あっ、こっちを見た。戻って来る。

「西島さん、ここ混み過ぎているんで大通りの方に出ましょうか?」

「うん、そうしようか」


 この近くには渋谷区立中央図書館が有る。学生時代利用していたので、脇道は結構知っていた。


「凄い人出でしたね」

「はい」

「本当は、あの通りで西島さんに似合うアクセサリとか有ったからプレゼントしようと思っていたんですけど、駄目になってしまいました」


 えっ、そういう事なら、戻っても良いんだけど。もう遅いか。

「でもこの通り沿いにも素敵なアクセサリショップが有るから寄りますか」

「はい!」


 言葉通りに途中のアクセサリショップに寄って、彼女に似合うイヤリングを買ってあげた。諭吉さんと樋口さんが一枚ずつ消えたけど彼女がとても嬉しそうだったので、良かった。


 ふふっ、私個人ではこんなに高いイヤリングなんか買えない。嬉しい。彼無理したのかも知れないけど有難く貰っておこう。


 その後は、予定通り表参道と青山通りが交差するところの近くにある紅茶専門店で紅茶を飲んだ。ケーキが欲しかったけど、この後お寿司を食べる予定なのでぐっと我慢。



 さっきのアクセサリショップの話とかした後、渋谷方向へ歩いた。俺が通った大学はそのままだけど、反対側の通りが随分変わった。


 そして、午後一時半少し遅くなったけど、お寿司屋さんに入った。ここは思い切って特上を注文、またもや諭吉さんが一枚飛んだ。


 凄い、青山で回転なんかしない素敵なお寿司屋さんで特上のお寿司ご馳走になるなんて、彼どの位貰っているのかな。ちょっと気になる。



 その後は、大分大回りだけどNHK方向に歩きながら散歩して渋谷駅で別れた。まだ午後五時。

 普通なら、この後食事して…。とかになるんだろうけど、彼女と俺の間には微塵のかけらもそんな雰囲気はなかった。そして結局午後五時過ぎには渋谷駅で別れた。



 それからはいつもこんな感じで二週間おき位に会ってデートした。彼女はいつも待ち合わせに遅刻してくる。謝りもしない。そういう性格なんだろうけど、俺には抵抗のある性格だ。


 それに一緒に居ても彼女からは友達同士が、暇だから会っているという感覚を受ける。支払いはいつも俺。


 本当はそんな事はどうでも良いんだけど、段々嫌になって来る。まあ、割勘でなんて言った途端に、もう会わないって言われるのが落ちなのかもしれない。




 そして四月に入ってからだった。三日前に予定したデートが突然キャンセルされた。家の用事だと言っていたから仕方ない。


 そんな事が二、三回有って、流石にもう飽きられたのかなと思って、それからは彼女に連絡するのを止めた。



 仕事の方は三月末カットオーバーしたが、やはり本番に入るとトラブルが出るのは世の常。

 運用しつつ、トラブルシューティングに付き合わされて、会社に戻れたのは六月に入った頃だった。



 一つのプロジェクトが完了すると二、三週間は次の仕事に着かない。内部研修を受けたり横連携をする期間に当てられる。だから定時で上がったり、竹内先輩と飲みに行ったりした。



 ある日、俺と先輩が昼食を終わらせて外から帰って来ると、一階のエレベータホールで西島さんとばったり会った。


「西島さん」

「神崎君」


 俺と西島さんの様子に

「りゅう、先に戻っているから」

そう言って、先輩は先にエレベータに乗ってしまった。



 俺達はホールから少し外れた場所で


「神崎君、連絡くれないのね。プロジェクト終わったんでしょ?」

「…。西島さん俺の事嫌いになったと思ったから」

「なんで?」

「誘っても断られてばかりで、もう駄目だと思った」

「…そんな事ない。本当に用事が有ったの」

「そうなんだ」

 これってどういう風に持って行けばいいんだ?



「神崎君、今日時間有る?」

「えっ?!」

 これって。


「あります。空いてます」

「じゃあ、会わない?」

「いいですよ」

「じゃあ、午後五時半に会社出た先のソトバコーヒーでどうかな?」

「いいよ」

 私は神崎君が嫌いになった訳では無い。本当に別の用事が有った。神崎君には言えない用事だけど。でも誘われなくなって少し寂しくなっていた。だから今日は会いたかった。



 その時、俺達の傍を男の人が通った。その人は西島さんを見て俺を見るとそのまま通り過ぎて行った。なんだ、あの人?

 あれ、彼女が気まずそうな顔をしている。どうしたんだ?


「西島さん、今の人って?」

「営業の人。厳しくって」

 そういう事か?



 俺は、自分の席で社内のWEB研修を受けながら、午後五時十分過ぎにオフィスを出た。急いで約束のソトバコーヒーに行くと彼女はもう来ていた。

「西島さん」

「あっ、神崎君」

「出ようか」

「うん」



 俺達は、そのまま渋谷に出て駅の交差点の傍のビルの上にある少し洒落た半個室の居酒屋だ。


「久しぶりだね」

「うん、久しぶり」


 俺達は適当に注文をタッチパネルの入力すると

「今日会えてよかったよ。もう相手にされないんだと思っていたから」

「そんな事ない。神崎君から連絡が来なくなって…。確かにあの時、用事が色々有って忙しかったの。だから今日誘えて嬉しいです」


 最初の飲み物と食べ物が届いた。彼女がサラダを分けてくれる。

「ありがとう」

「うん」


 無言


「あの」

 彼女が俺の顔をじっと見ている。


「俺、高校、大学って彼女出来ても振られっぱなしで、女の人とこうして会うのって…。なんていうか」

 神崎君何を言いたいんだろう。


「だから、全然自信無いし、断られたら嫌だけど、気持ち的にズルズルいくのも好きじゃないし…。あの西島まどかさん、俺と付き合って貰えませんか?」

 彼女が、何も話さずにジッと俺の顔を見ている。やっぱり駄目か。


「あの、神崎君。私達付き合っているんじゃなかったけ?」

「えっ?でも、俺告白していないし」

「だって、一杯デートに誘ってくれているから、今日だって誘ったら断らなかったし、だからそう思っていたんだけど」


 俺は、彼女の心を理解するのに少しだけ時間がかかった。本当なんだろうか。単に暇つぶしの金づるなんじゃないのか。

 まともに待ち合わせ時間には来ないし、会っていても…。でも本当だったら。


「じゃあ、さっきの返事は?」

「もちろんだよ。私もずっと神崎君と一緒に居たい。これからも宜しくね。ねえ、みんな神崎君の事、りゅうって言っているよね。私も言っていい?」

「全然いいよ。俺もまどかって呼んでいいかな」

「もちろんいいよ、りゅう」

「ありがとう、まどか」


 神崎君から告白された良かった。心配していたけどやっぱり大丈夫だった。でも…。


―――――


書き始めのエネルギーはやはり★★★さんです。ぜひ頂けると投稿意欲が沸きます。

それ無理と思いましたらせめて★か★★でも良いです。ご評価頂けると嬉しいです。感想や、誤字脱字のご指摘待っています。


宜しくお願いします。

 

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