第3話 西島さんと一緒に


 土曜日。

 そう、今日は西島さんと会える。その事ばかり考えて昨日の夜も寝つきが悪かった。でも朝はしっかりと目が覚めた。午前八時だ。


 シャワーを浴びて、スッキリすると朝食を用意した。パンをオーブントースターで焼いて、バターを付けて食べる。インスタントのコーンスープは、今の季節暖かくて助かる。


 簡単に朝食を摂った後、残ったコーヒーを飲みながら新聞を読んでは、チラッと時計を見てもまだ午前九時半だ。中々時間が進まない。ここから待ち合わせ場所まで三十分も掛からない。


 こういう時は何故か時間がゆっくりと進む気がする。仕方なしにいつも流し読みする新聞をゆっくりと読んだ。


 午前十時十五分。少し早いが部屋にいるより良いと思い、俺は紺のジャケットを着てコートを持つと外に出た。季節はまだ一月結構寒い。急ぎ足で駅に向かい、渋谷のハチ公前交番に向かった。




 この前神崎君からお誘いの連絡が有った。初めて会うから遅刻をしない様にと早めにベッドに入った。



 うーん、なんか随分寝た感じがする。チラッとベッドの横にある時計を見ると


 えーっ、うそーっ!


 時計の針は午前十時四十五分をさしていた。目覚ましの裏を見るとベルのスイッチがオンになっていない。


 まずい、まずい。早く出かけないと。顔を洗ってお化粧して髪の毛を整えて洋服を着ると急いで玄関に行った。


「まどか、朝ご飯は?」

「ごめん、お母さん。急いでいるからいい」


 本当はこの時にスマホで連絡すれば良かったのだけど気が動転していて忘れていた。急いで駅に向かい、電車に乗ると特別快速に乗れた。


 良かった。これだったら四十分で渋谷に着く。この時にやっと気付いた。スマホで連絡しないと。スマホの画面を見ると


 えっ、もう午前十一時過ぎている。


 急いで神崎君にメッセージアプリで

『神崎君、今電車に乗った所。急いで行くけどそっちに着くの十一時四十五分位になる』


 取敢えず送ったので、ほっとしていると返信が有った。

『分かりました。気を付けて来て下さい』



 俺は、待ち合わせ場所に午前十時四十五分から待っている。十一時を過ぎても来ないけど、その内来ると思って待っているとスマホに連絡が入った。


 なんと、十一時四十五分に着くと書いてある。はぁ、やっぱりこんなものか。仕方なしに近くの本屋で二十分位時間をつぶしてもう一度、待ち合わせ場所に行くとまだ来ていなかった。

 なんかなぁ。最初から心折れそう。



 西島さんは十二時前に着いた。

「神崎君、こんにちは」

「こんにちは、西島さん」


 俺は最初に遅れてごめんなさい位あるかと思ったけど、全く気に掛けていない様だ。なんかイメージ狂うな。


 神崎君、私が一時間近く遅れても何も言わない。本当は着いた時一言言われると思ったけど、この人そういう事気にしないのかな?




「西島さん。もうお昼になってしまったので、先に食事しますか?」

 

ぐーっ。お腹が鳴ってしまった。


「あははっ、急いで来たから朝食食べて無いんだ。うん、そうしよう」

 

 一時間も遅れて朝食食べていないってどういう事?


「なに食べます?」

「普通にサンドイッチとかでいいよ」

「じゃあ、信号の向こうにあるコーヒーショップに入りますか」

「はい」

 彼女が嬉しそうな顔をしている。こうしてみるとやっぱり可愛い。


 お店に入って、入口で注文をして空いているテーブル席に座ると

「神崎君、待った?」

「一時間位」

「えっ、そんなに。ごめんなさい。目覚ましが鳴らなくて」

 そういう事。


「あの、西島さんって、どの辺に住んでいるんですか」

「埼玉の小宮ってところです。ここからだと快特で四十分弱位。君は?」

「俺は、ここからだと電車で十五分位かな」

「へーっ、都内に住んでいるんだ」

「アパート暮らしだけどね」


 そうか、神崎君は、都内でアパート暮らしなんだ。自宅からだと思ったけど、ちょっとイメージ違ったかな。


 俺達はコーヒーを飲みながらサンドイッチを食べていると

「西島さんは最初から二営なの?」

 知っているけど会話を持たすために聞いた。


「ううん、最初は人事に居たんだけど一年前に今のところに異動になったの」

「人事からか。良く分からない移動だね」

「そうなんですよ」



 その後も他愛無い話をして食事が終わると

「少し、遅れたけど映画見ます?」

「何の映画?」

「西島さんが好きな物が有れば、それでいいし、無ければバスケットボールのアニメとかいいかなと思って」

「あっ、私もそれ見たかった」

「じゃあ、決まり」


 コーヒーショップの直ぐ近くにあるビルごと映画館になっている所に行ってチケット自動販売機で席を見ると、もう上映して時間が経っているのかまだ席は空いていた。


 映画は面白くて、その後、公園通りの方に歩きながら色々話した。街中にある時計を見るとまだ午後四時だ。

 社会人になってから女性との付き合いなんてない俺は、西島さんにする会話も無くなっていた。


 歩きながら無言が続く。やっぱりこういうのはきちんと計画してエスコートしないといけないんだろうな。この後、どうしよう。



 神崎君、さっきから無言だ。朝の遅刻の事、まだ怒っているのかな。それとも私じゃつまらないのかな。

 社会人になってもあまり都会で遊ぶことの少ない私には何も出来ない。何か話してくれないかな。



「あの」

「あの」


「あっ、はい」

「あっ、いえ神崎君から」

「すみません。正直、女性とこうして歩くとか、社会人になって初めてで。何を話していいのか。無計画に誘ってしまって」

「ふふっ、私も。何を話せばいいのか分からない。でもいいよ。ペラペラ話す人より良いよ」

 本当はもっと楽しい会話したいんだけど。



 結局、もう一度喫茶店に入って、駅まで行って別れた。別れ際に

「あの、また誘って良いですか?もちろん今度はきちんとエスコートします」

「うん」


 これだけだった。俺はアパートに向かいながら

 失敗だぁ。完全に嫌われた。せっかく好きな子を見つけたのに。はぁ、どうしよう。




 神崎君と別れて電車に乗りながら

 遅刻したのは悪かったけど、なんかパッション無かったな。もっと何か楽しい事でも待っているかと思ったのに。期待しすぎたかな。一技の人だからって、なんでもできる訳じゃないからね。今後は彼次第かな。


―――――


書き始めのエネルギーはやはり★★★さんです。ぜひ頂けると投稿意欲が沸きます。

それ無理と思いましたらせめて★か★★でも良いです。ご評価頂けると嬉しいです。感想や、誤字脱字のご指摘待っています。


宜しくお願いします。

 

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