第7話

【アカデミー:競技場】


二機のLeフレームが対峙している。

片方は、レーザーライフルを右に/レーザー刀を左手に構えたランドグリーズ。

片方は、レーザーライフルを右に/シールドを左に構えたセレウキア。

「どう見る、デイル」

デイル・ハラルドソンは双眼鏡から目を離し、隣で端末越しに観戦しているミシェル・ラングレンのほうを向く。

「社の人間としては、八番のほうを応援するべきだろうが」

ブザーが鳴り、二機が動き出す。

ランドグリーズは下がりながら遮蔽物を目指し後退/セレウキアは盾を構えながら前進。

移動速度はもちろんだが、度胸と技量だ。

「セレウキアは盾の使い方が上手い。レーザー照射される箇所を分散して熱を放散している。盾のマーキングを見ろ。赤いポイントがマークされているが、無意識のうちにターゲットとしてそこを狙うよう誘導するマーキングだ。わざと放熱効率がいい個所に当てさせている。おそらく、数秒後にはポイントの位置も書き換えて次の放熱パターンに入るぞ」

「1on1とはいえ、周囲からの奇襲に対応できる動き方だ。スラストは決してマックスまで吹かさない。余裕をいつも持たせているね」

「あとは、追い込み方も上手い。相手をデブリの密集地に追い込んで機動戦を不可能にさせている。元より重量級のランドグリーズだから構えての撃ち合いを想定していたんだろうが、逃げ道も断った。あとは確実に落とせる距離でレーザー照射すれば、パウラが勝つ」

ヴァンセット・ツィナーの予見通り、数秒の後に首の動力系に直撃判定を得たランドグリーズが落ちた。シールド以外には一度も被弾していない。

これでナガサキ・10マイルの勝者、パウラ・サラサール・デ・エストレーリャが三冠の二つ目、エプソム・トーナメントの準決勝に駒を進める。

二年次の席次一番ハオ・イーシン、五番のシゲオ・ショウシ、そして八十五番のシフ・シャオが四強に進んだ。

そして明日、準決勝と決勝が行われる。



【アカデミー:講堂】


「ヴァンセットはどう見る?」

「急迫して斬ればいい。二年次と言っても、所詮は通常カリキュラム組だ。経験値なら俺たちのほうが上だろう」

他愛なし、と言い放つヴァンセットの視線は、しかし画面から逸らされることはない。

「パウラの勝ち方は底が知れない。ここに至るまで、盾に隠れながら前進し、撃破するスタイルだ。これはテルシオの発展形だろう」

アキラ・ユガワラがヴァンセットとミシェルに疑問を投げた。

「テルシオって?」

「近世スペインで造られた歩兵陣形がテルシオだ。長槍とマスケットの組み合わせで、重騎兵を寄せ付けないが、機動性はない防御重視の陣形だ」

「盾をマスケット、長槍をレーザーライフルに見立てているんだ。小隊戦でこれを使うことは余りないけどね。回り込めばいいだけだから」

ミシェルが捕捉する。これらの戦闘陣については二年次序盤に習うことなので、アキラが知らなくても無理はない。

「他にも射撃と機動を組み合わせたカラコール、防御的な機動近接戦のデストレッツァなんかがある。三次元戦闘のパターンは近世の騎士の戦いから近代の航空戦術までを組み合わせた人類の暴力史の結晶だ。それぞれに長所と短所があるから、覚えるのは大変だけどね」

へぇ、とアキラは呟く。

既に自分たちが訓練で使う陣形にもそれらの要素はあるのだが、アキラにとっては体系的な説明よりも実地で何となく理解させたほうがいいだろうとミシェルは考えた。

彼は労働者階級の出身であり、闘争と策謀を歴史とする貴族でも、暴力を生業とする企業でもない。

理論より感性で操縦する彼に不要な知識を与える必要もないのだ。


「それで、次の対戦カードはどうだい?」

「シフとハオ。パウラとシゲオだ。ハオのサンゲイとシゲオのユキカゼはともに機動戦タイプ。特に一番のハオは二年の間学年トップを維持しているあたり優秀だ。スタイルは近接。レーザー刀をメインに、レーザーピストルをサブに持っている。だがレーザーピストルを新開発の高出力対応にしているから中距離でも戦える。シゲオはそれこそ高機動型。短刀にピストルで撹乱するスタイルだ。パウラのセレウキアも本来は機動戦をやる機体だが、あれは例外だろう。そしてシフは、盾とレーザーライフルで中距離からの砲撃戦仕様。デブリの機動計算が早いせいで誰も距離を詰められずにデブリの隙間から射抜かれる」

デイルが先ほど発表されたばかりの準決勝のカードを見せた。

それぞれの機体や得意とする戦法が並んで表示されており、賭けの予想をする材料となる。

「予想では、ハオ、シゲオ、パウラ、シフの順に予想されている。ハオ・イーシンはアジア連邦主席の一族だし、シゲオ・ショウシも鉄富士財閥の会長の孫だ。どちらもナガサキ・10マイルの優勝候補だったし、実力は間違いない」

その他、ここに至るトーナメントで敗退した者たちも名高い家系や企業の係累。誰でもないのはシフくらいなものだ。

デイルは自社製品のユーザーが全て敗退したトーナメントを眺める。

重装甲のランドグリーズは機動戦となりがちなトーナメントでは不利だ。

最後まで残っていた八番の学生も、パウラに落とされた。

「今年も去年も一昨年も、グリンヤルティ社製品はトーナメントの四強になれなかった。来年も惜しいところで勝利を逃す。まぁ、そう嘆かなくてもいいだろ」

本気の睨みをヴァンセットに投げるが、無視される。

「そう煽らなくてもいいじゃないか。キミだって負けるんだから」

ミシェルも加わってくる。

「キミたちの分も、ボクが代わりに表彰台のてっぺんで称えられてくるからさ」

「ぁーん?言ってくれるなコノヤロウ」

「はぁ」

ヴァンセットとミシェルがプロレスを始めたのを尻目に、デイルはアキラを見る。

だが、一人ふざけ合いに加わっていないアキラの視線は彼の端末に注がれていた。

「どうした、アキラ」

「……先生?」



【アカデミー:格納庫】


明日の準決勝に備え、機体の整備が進む格納庫。

破損した機体から部品が取り外され、新たに搬入された機体がシートを剝がされ、装備品がクレーンで運ばれていく。

無重力区画の中をアキラが飛んでいくのは、シフの機体が格納されたエリア。

「……」

「よぅ、アキラ。元気にしていたか?」

いつものくたびれたスーツ姿の先生が、待機室にまき散らされたシフのデータを拾い集めているところだった。

「ちょうどいいところに来た。ちょっと模擬戦に付き合ってくれないか」

「あは、アキラ君じゃん。ちょっと煮詰まっててね」


装備を借りて、シミュレーターに収まる。

機体は中近距離戦仕様のサンゲイ。ユキカゼやアルペイオスと同じく軽量で機動性が高い分耐久力が弱く、レンジャーやランドグリーズに比べてデブリの直撃やレーザー照射への耐性が低い。

センサー能力はかなり高く、地球軌道と火星軌道の間の広大な空間での使用を前提としたマルドゥック社系列のレーダーやカメラが搭載されている。

〈シミュレーターでは公称値、つまり実機の七割程度の性能しか出ない。遠慮は無用、ぶち当たってこい〉

「はい、先生」

〈稽古、よろしくね〉

「よろしくお願いします、先輩」

先生がなぜここにいるのかは分からない。

アカデミー内への部外者の立ち入りは制限されているはずだ。プリヴォルヴァ3で住民登録がされていない先生は、では一体どこの誰として入ってきたのか。そしてどうして、シフのセコンドを務めているのか。

前者について口を開くことはできないが、後者への一応の答えは返ってきた。

〈彼女、ナガサキ以来あちこちの企業から声かけられててね。困っていたようだから、手伝うことにしたのさ〉

「先生一人の力で、ですか?」

〈もちろん違うとも。俺の会社が、是非ともってね。そういう意味じゃ、俺たちもほかの企業と同じ穴の狢なんだが……まぁ誠意の差ってやつだ〉

怪しいことには変わりないが、時は同じリズムで減っていく。

急かしたかどうかは分からないが、先生がシミュレーターを開始させた。

〈それじゃ、行くよ〉

普段明るい彼女の声は、低く、鋭かった。


「賭けるか?」

「賭けにもならないだろう」

「それもそうか」

「何分持つか、でなら賭けになるだろう」

アキラを追いかけた先。ミシェルとデイルは格納庫の一室でシミュレーター訓練の様子を見ていた。

「アキラは1on1の経験が少ない。そのうえ、不慣れなサンゲイだ。さらに相手はいつもの中遠距離戦仕様のレンジャー。慣れ差は大きすぎる。五分」

「デイルなら勝てるか?」

「……装備に遠距離用のレーザーライフルを追加してくれれば。ミシェルは?」

「まぁ、王道の中近距離仕様。サンゲイはアルペイオスに仕様が近いのもある。勝てるさ。三分」

モニターの向こう、二機が機動を開始した。

アキラは彼が知る二年次席次第一位の機動を模倣し、一気に加速した。シフはそれから距離を取るようにデブリ帯へ接近。

彼女が盾にしたデブリを小回りし、三秒前にレンジャーがいた位置を視認すれば背後からレーザーが迫る。既に斜め下へ回避しつつシフが移動する二秒先へレーザーピストルを撃ち込んでいたアキラはさらに加速しデブリの影へ。

〈あは、やるじゃん!いいよ、そうじゃなくっちゃ!〉

〈速い!〉

一発当たりの熱量と精度を犠牲に、速射性を高めたレーザピストルを乱射しつつデブリへ。不慣れな機体の幅に接触しないようやや余裕のあるルートを選択するアキラ。

それを見越してレンジャーの機体幅ギリギリのルートからシフが撃つ。

〈レンジャーのエネルギー量はサンゲイより上!レーザーピストルよりチャージが速いんだよ!〉

〈威力も精度も上か、やってくれる!〉

取り回しと速射性こそあれど、チャージ分を撃ち尽くせばしばらく打てなくなる。さらに何度もチャージして速射すれば、表面積の差でレーザーライフルよりも熱が発散できないレーザーピストルは性能を大きく落とす。

デブリ帯で中距離での撃ち合いは不利。エネルギーを両手のレーザーピストルに回しつつ、急旋回→最短距離の吶喊。

「無茶をする。サンゲイの装甲厚はレンジャーほどないんだぞ」

「だが、良い判断だ。コースを選んでいては狙撃手のいい的だ」

〈いっけぇ!〉

〈やるねぇ!身を捨ててこそだよ!〉

レンジャーがデブリを蹴って障害物とするーーー右のレーザーピストルの超過出力で切り開くサンゲイ/爆ぜるレーザーピストル。上部を狙っていたシフが慌てて照準を戻すも、サンゲイは視界の下を突破し肉薄している。咄嗟にレーザーライフルを投げてガードとするが、超過出力のレーザーピストルがそれを溶断する。

レンジャーの背後に投げられたレーザーピストルが爆発し、周囲のデブリを吹き飛ばしてレンジャーのスラスターを損傷させる。

そのまま切り裂きにきたサンゲイのレーザー刀を居合でいなすレンジャー。

〈あは、いいねぇ!だけど届かないよ!〉

〈届かなくても!〉

機動性が低下したレンジャーを無理矢理動かすシフ。右足を可動域の限界まで曲げて推力を確保した姿勢で、重量のある機体をぶつけに来る。

切り結び、姿勢を崩していたせいで判断が遅れたアキラは迫る右足を避けきれない。

腹部に蹴りをくらった姿勢のまま吹き飛ばされる。さらにとどめのレーザーナイフが胸に突きたてられた。

「二分半か」

「揃って外したな」


「それで、私にご用ですか?」

「後輩として、先輩の応援に来ました」

軽薄な笑顔を浮かべながら、ヴァンセットはパウラの格納庫にいた。

「……シフ・シャオの子犬の、仲間でしたか」

「俺たちをご存じとは嬉しいですね」

「一年次の、重点育成組。その中でも教官にいつも撃墜されている奴。知らない学生なんていないでしょ」

周囲にいる彼女の陣営からの視線が冷たい。しかし、ヴァンセットは怯むことはない。

「ただエールを送っているだけですよ……モンジョワ・リベルテ」

「……っ、いいでしょう」

ヴァンセットは浮かべた笑みを深くする。

夏の自由研究の成果だ。

先輩=パウラ・サラサール・デ・エストレーリャの一族は没落したが、とある組織と手を結んだ。L2への移住も、組織の支援があったおかげだろう。

そして、ナガサキ・ノア出場の権利を彼らのバックアップにより獲得した。

L4残党、反連合主義者。崩壊したL4に巣食う過激派。

そして、ジオローパ家衰退の元凶。

「そういえば、貴方はユキカゼに乗っていましたね。高機動戦もできますよね?」

「もちろん。しかし良いのですか?明日に備えなくて」

「多少の無茶は織り込んでます。それよりも、機動戦の経験値のほうが希少ですから」


機体の感度はいつもより鈍い。

汎用のシミュレーターに提供されたデータは、性能限界を他社に知られないよう制限が掛けられているのだ。実機のシミュレーターモードであれば、機体本来の性能が出るのだが。

〈私のスタイルはご存じですよね〉

「ええ。盾とライフルを備えたテルシオ。機動戦を挑まないのは、何か理由があるのでしょう」

〈それを、試してあげる〉



【アカデミー:競技場】


翌日、トーナメント準決勝。

第一試合は、ハオ・イーシンとシフ・シャオ。

まず、シフのレンジャーがコンテナから出てくる。装備はいつも通り、盾とレーザーライフル。盾の内側にはレーザーナイフを仕込んでいる。他には脚部やバックパックに追加の耐熱装甲を纏っていた。

「アキラは先生と一緒にセコンド待機か」

ミシェルの視線の先、競技場宙域に向けて迫り出したセコンド席がある。

耐爆コンクリートの不格好な塊だが、肉眼で一番良く見える位置でもある。

競技場の下=遠心力によって生み出される疑似重力方向は宇宙空間に開けていて、宙域を見下ろす観客席は防護ガラスと対レーザーフィルム、耐爆コンクリートで守られて視界は悪い。壁や天井につられたモニターを見るものがほとんどだ。

「出てきたぞ」

デイルが双眼鏡を目に当てる。

コロニー内から押し出されたコンテナから出てきたのは、灰色のLeフレーム。だが、形が違う。

「なんだこれは」

ハイの乗機は大瀋航空公司の宙五式 サンゲイ。マルドゥック社と提携によりセンサー感度が高められ、中型機の中ではやや大きなアンテナを持つ機体。

しかし、コンテナから出てきたのはサンゲイよりも一回り大きい。ブースター周りは数が増え、さらにこれまでにはなかった複腕がレーザーピストルを保持している。

背面にレーザー刀を備え、手には盾とライフル。

サンゲイより一回り大型化した脚にはスラスタが数多く装備されており、対レーザーコーティングの鏡面仕上げがこの距離からでも見て取れた。

「……大瀋の新型だ!アイツら、ここで出してきたな!」

ミシェルが吠える。噂はあった。だがトーナメント序盤で出てこなかったので油断していた。

「気を付けろ、アキラ。相手は宙六試式、ガイセイ。大瀋の新型だ!」

新型機が一歩踏み出した。

威圧が幻聴を産み、観客は一様に身を固くする。


〈新型……ここで出してきたのね〉

「調整が遅れていると聞いていたから、投入は菊の舞台と見ていたが……掴まされたな」

アキラはそれらの会話を聞きながら、相手の特徴を洗いだしていた。

アンテナはサンゲイと同じ形。頭は高さは同じでも幅が増えている。センサーが増強されているのだろう。太くなった脚のスラスタはおよそ三割増し。大型化した機体を振り回してまだ余裕がある。足の接地面積も大型化している。ランドグリーズに近い大きさだ。限定的な地球上での運用もできるだろう。火星なら重力は地球の三分の一。十分に機動できる。胴の形状も太くなった。ジェネレーターも大型化しているようだ。冷却配管の露出がないから容量は見ても分からない。そして最大の特徴は複腕だ。同時に動かすには相当の訓練と適性が必要になる。だが武装の交換程度なら自動操作でもできるし、牽制の弾幕だって張れるだろう。肩のラックと合わせれば、セクスタトリガーも可能だ。

「幸い、構成から見ると基本的な動きはこれまでと同様のはずだ。加速と防御、継戦能力とセンサーが向上しているだろうが、それ以外は同じと思え」

〈あは……それって上位互換ってこと?やんなるね〉

「……君の腕だけが頼りだ」

〈分かってるよ。下手こいたら死ぬかもね、私〉

訓練や競技中の死傷はそこまで珍しいものでもない。

それでもシフは気丈に笑って見せる。

〈まぁ、気楽に見ててよ〉


ランプが赤から緑の順に点灯し、試合開始が告げられる。

互いに最大推力で急接近ーーー予想される新型機の射程は中遠距離。レンジャーは牽制の弾幕を貼ることすら惜しんで距離を刻む。

〈判断が早いな〉

ガイセイは盾に身を隠しつつ接近。その複腕は後ろを向いている。

〈嫌な奴!〉

〈流石に気づくか〉

交錯したら、背後から掃射される構え。それに気づいたレンジャーは、しかし逃げ道を持たない。

加速を載せた互いの位置がすれ違い、自動制御の乱射が彼女を見舞う。

咄嗟に身をひるがえすも、姿勢制御は光速よりはるかに劣る速度でしか実行されない。

数発が背面を打ち据え、数発が右腕を焼く。さらに不安定な視線は慣性のままに回転し、シフの視界を強制的に回す。

三半規管と視神経がそれぞれもたらす情報誤差を整合する間、ノールックで機体を天頂方向に立たせる。レンジャーの優秀な機体制御プログラムのお陰で建て直せたと安堵する間もなく、照準波を検知したアラートが鳴る前にレンジャーを強引に降下させる。

〈建て直すか……流石にダークホースは伊達じゃない〉

直撃は避けた。だがレンジャーの頭部を掠めたレーザーはメインカメラの素子を焼き、レーダーを機能停止させる。

既にガイセイは旋回を終えて再加速を始めた。肩のラックに備えたレーザー刀をレーザーライフルと持ち替え、確実な一撃で仕留める構え。

〈まずいね〉

〈安心しろ。殺しはしない〉

〈あは、調子乗ってくれちゃって〉

高速で接近するガイセイ。新型機のお披露目として、据えもの切りをなそうというのか。

〈君が切り刻まれる姿が、人類圏全てで大瀋の広告として流れるだろう〉

しかしアキラは、シフが短く息を吐く音を聞いた。

諦めではない。

聞こえたのは最後まで戦う決意。

〈どうせあたしが大瀋に採用されることはないだろうし、いいよね!〉

〈悪あがきを!〉

焼けついた左腕を強制パージ。盾がガイセイの進路に割り込み一瞬の遅滞を産む。さらに残ったスラスターに全推力を強制注入。オーバーロード寸前の推進系は幸運にも重量級のレンジャーを動かすことに成功し、盾を躱して切り上げられたレーザー刀の一閃は右脚だけを刻む。

〈さっさと墜ちろよ旧世代機!〉

〈あっは!〉

片脚となり、機体の挙動にロールが加わる―――残った左脚の重たい衝撃がガイセイのコクピットブロックを強かに打ちすえ、反動で両機は離れる軌道へ。

〈猪口才な!〉

〈当たれ!〉

ガイセイの複腕がレーザーピストルを/レンジャーの右手がレーザーライフルを撃つ。

〈まだまだ!〉

〈もう一手!〉

レーザーピストルはレンジャーを焼くには出力が弱い/レーザーライフルはガイセイを撃つには狙いが甘い。

レンジャーは右手と左脚と爆発寸前の推進機/ガイセイはボディの歪みが全身に伝播し姿勢制御システムが再計算の途中。

残された推力をマニュアル操作で管制しレンジャーを動かす。損傷したシステムをまとめて切り捨て、エネルギー供給ラインのチェックすら省く。機体のどこにダメージを負ったか、どこが無事かは自分の身体同然に把握できている。多少のロスは織り込んで、速戦即決だけを考える。初期の作業用Leフレームから代々システム解析や違法改造のノウハウが裏で流れるKiTa製のレンジャーだからできる雑な操作。そしてシフはその手の知識も当然身に着けている。

一方最新の姿勢制御システムを搭載するがゆえに、ランナーが即興でシステムを停止させることができないガイセイはまだ動けない。ブラックボックスの復旧を前にハイは焦れる。

「座標までの針路を送る」

〈ありがとね、先生〉

まだ浮かぶガイセイを迂回する弧軌道。途中に身を隠せるデブリはなく、電子、光学視界が大きく制限され、さらに機体限界が近いレンジャーの速度では極めて危険な数秒を強いることになる。

それでも、この場での撃ち合いに勝機はない。

〈いくよ!〉

シフが叫ぶ。

〈来い!〉

ハイが吼える――――ガイセイはシステムが復旧しレーザーライフルを右手に構え、レーザー刀を左手に提げる。

だが挑発的なフェイントに吶喊を予期したガイセイは後手に回った。

チャージしたレーザーピストルは何もない空間に熱を放ち、セッティングを即興で弄り回されたレンジャーの挙動はガイセイが搭載する射撃支援プログラムの軌道予測を裏切る。

〈なんて無様な飛び方だ!〉

〈そんなもの、貴方を落とした後に取り繕えばいいのよ!〉

〈誇りはないのか。羨ましいな!〉

〈それで勝てるっていうんなら考えるわよ!〉

〈狙いは盾か!焼けついたセンサーで中距離は不利とみたな〉

レーザーピストルが牽制の射撃を放つ。撃たれているというプレッシャーが徐々にレンジャーの軌道を歪める。

レーザーライフルが狙いを定める。だが射撃支援システムが機影をロックできない。

欠損した機影と歪な熱量のせいで、システムはレンジャーの位置を遠くにあると判定していた。それがレーダーの測距とコンフリクトを起こしている。

〈出来損ないのくだらないシステムが!〉

〈苦戦してるようね。そのまま負けてみる?〉

〈セッティングする時間はない、このまま決める!〉

右のレーザーピストルはそのまま牽制に、左のレーザーピストルはエネルギーをチャージし威力を高める。既に外装が割れ欠けているレンジャーなら、多少の熱量でもシリンダーを焼き、エネルギー供給ラインを焦がせるはずだ。

まだ健在のブースターが熱を吐き、加速。接近すればシステムの確度は上がる。レーザーライフルで足を止め、レーザー刀で決着を付ける。多少の無様はあったが、新型機のお披露目として相応しい決着が必要だ。

アジア連邦主席指導者の血縁として、学年主席として、その双肩に係る重責は重い。

前の冠では屈辱を晒した。それは関係者すべての屈辱でもある。

〈野良猫ごときに……負けられないんだよっ!〉

届くか、届け。

放たれた光線がレンジャーの左脚を貫く。安全性を無視して注入されていた推進剤に引火し爆発。

〈やったか!?〉

アキラは爆炎がレンジャーを包む瞬間を見た。

損傷した機体が受けて無事でいられる光ではない。

一瞬の閃光の後、黒焦げた機体が吹き飛ばされる。

ガイセイはさらなる爆発を警戒し、しかし救助に動けるよう距離を詰める。

「だけど、まだ終了の鐘は鳴っていない」

通信回線も一部破損したのか、コクピット内のシフの様子は分からない。が、息を吐く音は聞こえた。

「アキラ、見なさい。これが戦うということだ」

シフが、動いた。


「驚いた。まだ動けるのか」

「機体は廃棄処分されるレベルで損壊している。これで動けるんだからKiTaの良い広告になるな」

ミシェルとデイルの視線の先、レンジャーがついに盾を手にした。爆発の衝撃を最後の推進力に変えた形だが、僅かな推力を姿勢制御に全振りし、衝撃波だけで手を届かせる判断は正気でできるものではない。

「直前にエネルギー供給カット、脚部パージを実行したようだ。一瞬でも遅れていれば誘爆していたかもしれない」

「狂っている……」

撃ち込まれたレーザーを盾でガード。右手以外を失い、全身に亀裂が入り、頭部をひどく損傷したレンジャーは、それでも戦意を失わない。

〈引導を渡す!〉

〈……今!〉

振りかぶられたレーザー刀が盾に食い込む。

跳ねあげられた盾、レーザーライフルの銃口がその内に突き付けられ、銃口にレーザーナイフが突き立てられる。

〈仕込んでいたか、やってくれる!〉

〈ここで!〉

行き場を失ったエネルギーの過剰供給は暴発を引き起こす、はずだった。

しかし、レーザーライフルは銃口を溶断されるもそれだけだ。

〈やりきった、と自惚れていいぞ〉

〈悪態しか出ないわね〉

囮に使ったレーザーライフルの銃口の下、複腕が構えていたレーザーピストルの閃光がレンジャーを焼く。機体はついに大破判定となり、試合終了のランプが点灯した。



【アカデミー:競技場】


決勝に進める一方の選手が決まった。次はもう一方だ。

大破したレンジャーは、ガイセイに抱えられて収容された。

アキラは医療部へ搬送されたシフの付き添いに出ているため、この場には二人しかいない。

「ヴァンセットはどうした?」

「知らん」

デイルが手元の端末で公開されているいくつかのカメラを呼び出す。探すのは、次の試合に備える格納庫の様子。

「ナガサキの勝者か。ヴァンセットの趣味だったか?」

「何度か接触しているようではある」

格納庫に立つセレウキア。

予想通り、その前に立つ見慣れた姿。

二人して黙する。パウラはレグザゴンからL2に移住した没落貴族。同じく没落気味のL5貴族に飼われるヴァンセット。何らかの繋がりがあるとみて間違いないと、月の貴族と北欧企業の子弟は考える。それを口にすることはない。相手も同じことを考えているとも察していても。

「……次の試合、どう見る?」

「おそらくパウラ・サラサールは戦術を変える。ナガサキであれほど苛烈な加速を見せた彼女だ。盾に隠れての撃ち合いは本意ではあるまい。シゲオ・ショウシが機体を変えるのは確実だろう。準々決勝の損傷は間違いなく響いているはずだ」

シゲオの機体はユキカゼ。ヴァンセットと同じTPUに属する明石工房の軽量機。機動戦を得意としていて、シゲオの動き方もそれにあったものだ。

「先の試合であれほど頑丈をさ見せたレンジャー、それに幾度となく蹴とばされているヴァンセットのユキカゼ。見た目ほど華奢なフレームではないが、新型に鉄富士の技術が入っているとすれば、軽快さはそのままに硬くなっているだろう」

ユキカゼ開発時は明石工房と鉄富士財閥は手を組んでいなかった。鉄富士の出身が造船で、作業用重機も制作していたことから競合関係にあったせいだと言われている。しかしTPU上層部の仲介で提携を発表。企業同士の接近はこの二社に限らず多数続いており、他陣営の注目を集めていた。

「陣営というなら、南欧の動きも怪しい。北米もユニオン主義が台頭しつつあるそうだよ」

「噂に聞く、L4残党か」

「一体どこまで浸透しているのやら。自覚がない者もいるだろうが」

いずれ訪れる決別を予期しながらも、二人は並び立って画面を見上げる。次の試合の準備が始まった。


目の前で吊り上げられたセレウキアは、これまで装備していた盾とレーザーライフルを外している。

大型のスナイパーライフルと、レーザーナイフ。防弾装備も余計と割り切り、遠距離戦に特化した装備構成。

ヴァンセットは機体がコンテナに収まったところで彼女らの陣営を離れる。

エアロック解放のブザーが鳴り、皆がマスクを装着。コンテナがコロニー外へと運ばれていく様をガラス越しに見る。

向かいのコンテナから姿を現したのは、山吹色に塗られた細いシルエット。

「やはり新型……01試アマツカゼ」

レーザー反射を意識して曲線デザインが多いユキカゼと比べ、ソリッドなパーツが増えたことが見て取れる。鉄富士の技術供与だ。

装備は変わらずレーザーナイフとレーザーピストル。パウラが盾を捨てた近接戦で来ると見込んでいたのだろう。それは見込み違いだった。

「さて、どう狩るか……アマツカゼは瞬間的な加速力でセレウキアに勝るが、ジェネレーター供給出力は大型のセレウキアに劣る」

「あなたならどうする?」

「引き撃ちする狙撃仕様のセレウキアに、如何に接近するかですね。デブリを盾にしたところで見逃してくれる相手ではないでしょう。射程に入れるまで、どれだけ躱せるかどうか」

訓練用出力に抑えられているとはいえ、スナイパーライフルはレーザーを減衰させないようレーザー波長をタイトに揃えている。高精度なレンズと増幅器は繊細で、連射すれば壊れるため射撃頻度はライフルほど多くない。

「対レーザーコーティングも、耐熱追加装甲もない。あなたは避けられる?」

「私にアマツカゼが貸与されるという前提ですか?教官」

「ええ。一年次で明石の機体を使っていて、成績トップのチームにいるのはあなたでしょう。企業は実績が欲しい。そしてあなたが結果を残さないはずないでしょう」

「教官にここまで直接褒められたのは初めてですね」

マケイラ教官は軽く笑ってヴァンセットの肩を叩く。

「あなたが調子に乗ってなければいくらでも褒めるわよ」

教官の視線は動き始めた二機を追う。学園で二冠に輝き、低軌道軍でも多数の勲章を獲得したエースだ。その実力は底が知れない。

予想通りセレウキアが下がり、アマツカゼが追う形に。

「初動で躊躇なく突っ込んだのは良い判断ね。真正面から撃ち込まれた一撃なんて、銃口見てれば避けられるでしょ」

光速で飛来する熱量をそう言えるのは人類圏広しと言えどそうそういない。

「バイタルに当たらなきゃいいのよ、当たらなきゃ」

ヴァンセットたちは四機がかりで教官にそれをやったが、バイタルどころか腕の一本すら奪えなかった。

追いすがるアマツカゼを、牽制を織り交ぜた狙撃で押しとどめるセレウキア。

「絶妙な間合いの取り方ね。重量級なら腕の一本くらい焦がせば届くけれど、軽防御のアマツカゼじゃそうもいかないか」

「時折混ぜるフェイントが厄介ですね。思い切った軌道を取れなくなっている」

「あなたならどうする?」

「左腕を焦がして突っ込みますね」

「焼き切れるわよ」

「教官よりは軽量機の扱いに慣れているつもりです」

「へぇ、今度叩きのめしてあげるわ」

既に窓から見える距離ではなくなった。壁の画面に中継映像が映る。

演習宙域の端に近づきつつあるセレウキアが、針路を変えた。機を逃さずアマツカゼが突撃をかける。最短距離を刻むアマツカゼにレーザー光が突き刺さる。左腕の塗装が剝げ、期待表面が泡立つ。

しかし溶断も、機能不全も引き起こせない。

再度の照射は最低限の機動で回避される。

「やるわね、彼」

「ユキカゼよりも空間装甲が機能するみたいですね。余分なスペースのお陰で骨格やシリンダーが加熱から守られているようです。見た目はスレンダーでありながら、容積は増えている。流石は鉄富士の加工技術です。スラスターの配置は明石の手癖が残ってますね。あれは避けやすくて良い」

「よく蹴られてるくせに?」

「蹴り方が上手いんですよ」

ついにアマツカゼが彼の射程を得る。

躊躇なくスナイパーライフルを棍棒代わりに振り回すセレウキア。スイング後のがら空きになった胴体に突きこまれるレーザーピストル。

「まだ甘い」

サイドキックで回避したセレウキアはレーザーナイフを振り抜くがこれも回避される。

「このレンジは彼の狩り場。逃げられないわよ」

「まさか」

「ええ。彼は私にド突きまわされて上達したのよ」

見慣れた蹴り筋がセレウキアに突き刺さる。ボディを揺らす一撃で、セレウキアのシステムが一瞬停止。

隙を逃さずナイフが首筋に突き立てられた。



【アカデミー:医療部】


搬送されたシフは、特に症状があるということもなかった。

「レンジャーは生存性が高いからね」

それでも、大事を見て一晩入院ということになっている。試合後のメディアの取材を避けるためでもある。

「まぁ予備機体もないし、勝てたとしても次は負けてたかもね」

「……」

アキラは気丈に笑う先輩に、向いたリンゴを差し出した。

「果実のリンゴ。それも缶詰じゃないやつね。パッキングされた加工品のほうが安くて保存しやすいのに。わざわざ果実が用意されてるってことは、負けた選手用が準備されてるってことよ」

皮肉気な笑いを遮る言葉を持たないアキラは、せめてと紅茶を差し出した。

「……勝ちたかったな」

一言零れた呟きに、アキラは手を握り返すことしかできない。

大きなサポートを持たないシフは、機体が大破した時点で次の試合に出られない。予備機をアカデミーから借りる手もあるが、装備やセッティングはバニラのままだ。

使用するライフルや追加装甲は企業など支援者から提供されたものであり、よほど結果を残せないと修理費など請求される。パウラがスナイパーライフルを棍棒にしたのだって、褒められたことではないのだ。

シフの装備は先生が支援を申し出る企業や団体を吟味し、交渉して用意したもの。全損したとしても彼女に請求が行くことはない。

アキラはそれゆえ先生の都合がいいように彼女を誘導されているようにも感じている。

「大丈夫だって。悪い人には見えないし」

部屋の中にいくつかの盗聴器とカメラが仕込まれていることは確認している。

企業やメディアが仕込んだものだろうが、先生がそれらに気づかないわけがない。

それとなく存在を伝えたが、シフは気にしていないようだ。

「それより、決勝が始まるよ」

次世代機が二機、対峙している。

破損した部位を取りかえ、装備を換装し、ガイセイとアマツカゼが対峙する。

二年次の主席と五位の対決。アジア連邦と環太平洋連合の対決。

午後休みを挟んで清掃された演習宙域で、互いを良く知る二人が相対する。

「君たちも、来年はこうなるんだろうね」

「そう、ですね」

「ちょっと自信なくしちゃった?ごめんね」

「いえ、先輩のせいじゃないです。ただ、三人ともとっても強いので」

三人とも、それぞれ隠れて自主練を重ねていることは知っている。五班や二十八班、その他の学生とも模擬戦を繰り返していることも。

仲間だからこそ見せられない姿もあるのだろう。

振り返って自分はどうだろうか。先輩についていたお陰で分析は上手くなったと思う。それでもミシェルの視野の広さや、デイルの思慮深さ、ヴァンセットの野生のカンには敵わないかもしれない。

「勝敗は機体の性能だけでも、ランナーの技量だけでも決まらない。ただ結果だけが真実。サポート企業やセコンド席からの解析、情報工作だってみんなやってる。そのうえで勝ったり、負けたり」

「悔しくはないんですか?」

「そりゃ悔しいよ。でも、出せる全部のリソースをこの日、この試合に注ぎ込んで、それでも届かなかった。もっと訓練して、もっと良い装備を揃えておけば。そういう思いもあるにはあるよ。でも今までの私の努力を否定はしない。敗北も結果として受け入れる。それだけ」

頭にぽん、と手を置かれる。敵わないな、とアキラは息を吐く。

「それに、君のお陰であそこまで粘れたんだよ。私自身の努力を否定することは、君の献身も否定することになっちゃう」

決勝が始まる。

ともに今日のために鍛錬を重ね、調整を繰り返し、ほうぼうに頭を下げ、支援者の期待と株価と生活を背負っている。

本人だけではない。関係者すべての思いを背負って、彼らはそこにいる。

ガイセイもアマツカゼも、部品の交換はあれど随所に傷が見えている。準決勝でそれぞれ負った破損だ。部品を交換すれば、情報伝達率や組み立て精度の僅かな差で動作の遅れが発生する。この場において、彼らは多少の破損よりも馴染みのあるパーツを選んでいる。

「エプソムトーナメントはタイマン勝負だから勝ち方にも美しさが求められるんだ。特に決勝ではね」

二機が機動戦を開始。互いにレーザー光を照射しつつ、接近しては離れ、追随しては迫撃する。

頭上からガイセイがアマツカゼの軌道を先読みした射撃を送れば、アマツカゼがクイックターンで至近に迫る。

即座にレーザー刀に切り替えたガイセイと、レーザーナイフを突き出すアマツカゼ。

弾かれ、距離を取り、再度仕掛ける。副腕からの掃射が針路を阻むが全て機動力で回避。

「互いに次に相手が何を考えてるのか、わかるんだ」

「五手は先まで読みあってるよ。そして千日手に陥る結論もね」

呼吸すら忘れる時間。しかし終わりは訪れる。冷却が追い付かずオーバーヒートしレーザー兵器をすべてパージした両機は、まっすぐ互いに向かって突っ込んでいく。

蹴りを入れるのに最適な距離をコンマ一秒過ぎたところでガイセイが蹴りを入れる。アマツカゼがそれを躱して右フック。回転の勢いでガイセイがそれを投げ飛ばすが、パージされた右腕だけが吹き飛んだ。

がら空きの背中にアマツカゼの左手が熱を放つ。

試合終了のランプが灯った。


「あれ、キミがやったやつだよな」

ヴァンセットが左手から武器にエネルギーを供給するラインを暴走させて教官を撃墜しようとしたのは光節前のことだ。

ミシェルは唸る。当然、先輩たちは後輩の動向もチェックしていたわけだ。

「ともあれ、これでトーナメントの勝者は決まりだ。残る冠はあと一つ」

「それが終われば、いよいよボクたちの時代がくるわけだ」

「俺の時代か。楽しみだな」

デイルが珍しく口角をあげる。

「あぁ、楽しみだ。とても楽しみだ」

ヴァンセットが猟犬のような笑みを浮かべた。

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