第6話
【アカデミー:宿舎】
光節を終え、続々と学生たちがアカデミーに帰ってくる。
早めの船便で楽々と帰ってくるもの、できるだけ遅い便で戻ってこようとするもの、船の不調で始業に間に合わないことがすでに確定したもの、そして戻ってこなかったもの。
「けっこう、帰らなかったんだ」
入学時に三百いた学生たちは、今では二百と五十数名。
例年より減りが早いという噂を、アキラ・ユガワラは耳にしていた。
脱落者の多くは、身分がありながら結果を残せなかった者たち。
プライドゆえに身を引いたものもいれば、親や支援者の見栄のためにさげられるものも。
ついでに今年は密航で捕まったものもいる。
アキラは一人、食堂にいた。
光節はあと四日あり、戻りのピークは明後日だ。
アキラは昨日戻ってきたが、まだ三人は帰っていないーーーデイルは明後日/ミシェルとヴァンセットは明々後日らしい。
夏の間の労働でそれなりに稼ぎはできた。結局、先生の正体は分からず仕舞いではあったが。
「聞いたか、何人か密航でパクられたらしいぜ」
「やっぱり労働者階級なんてそんなもんだよな」
学生か、職員か。口さがない誰かの声を無視しながら昼食を口に運ぶ。
合成肉と野菜の炒め物とライス。プリヴォルヴァ3のカロリー基準だけは満たしている食事とは違い、見た目にも気を使われた食事。とはいえどこか味気なさを感じている。
一人で食べるから、という以上に、本当に味気ない。
皆といれば会話しながら食べるので、味を気にすることはなかったと思い至る。いや、ヴァンセットがボヤくので気づくはずだ。休暇中だから調理担当がいないのだろうか。
素材の味とソースの味を共に感じられるたんぱく質のソテーと、味の抜けた茹で野菜。
「食費、また削られたのかな」
そそくさとトレーを片付ける。一人で風呂に入り、一人で売店に行き、一人で部屋に戻る。
売店も休日対応で、無人販売機のアイスはいくつかの商品が品切れとなったままだ。
就寝時刻だけはいつも通りで、廊下の照明が落ちる。だが見回りに来る教官はいない。
せっかくだから、夜の散歩に行くことにした。
「それで、出歩いてたってわけ」
「......はい」
「あはは、別に怒ってはないよ。おいで、お茶くらい出そう」
アキラが宿舎を出て歩き回ること数十分。
普段見ることのない暗いアカデミーにも見慣れてきた頃、消灯後にも明かりが漏れている部屋を見かけたので近寄ってみた。
そこは二年次の学生が使っている校舎で、アキラたちは普段近寄ることはない。
モニターの光がカーテンから零れていた。
〈味方撃ちは最悪の失敗よ。肝に銘じなさい〉
〈イエス、マム〉
教官とデイルの声が聞こえた。そしてもう少し近づけば見れるかなと一歩踏み出したところで落ちていた枝を踏み、乾いた音が響いた。
「でもまさか、ちょうど研究中だった子がのこのこと現れるとはね。あたしってツイてる?」
シフ・シャオと名乗ったその先輩は、予期せぬ来客にハーブティーを差し出した。
教室の大きなモニターにはアキラたち十四班の試験の様子が映っていた。
そして机の上に並んだ大量のノートと、Leフレームの軌道を示した複雑な図。
壁に貼られたナガサキ・ノアの地図と、長椅子に置かれたクッションやブランケット。
「ちょっと、女の子の部屋をそんなにまじまじと見ないでよ」
「っ、ごめんなさい、先輩」
「顔を真っ赤にしちゃって。君って可愛いね」
クッションの上の諸々をどけて、場所を作る。
再び再生される試験の様子。
「まぁ、見て分かると思うけど……近いからね」
第四十九回、ナガサキ・10マイル。アカデミックシリーズの一冠目。
九月の下旬に行われる短距離レース。デブリで溢れる廃コロニー、ナガサキ・ノア跡地を最速で突っ走る競技。操作の正確性と度胸が求められる。
シフは低速で再生しながら、手元の端末で各機体の軌道を記している。
「旧式の、かつ性能を三割落とした教官機。それを半年と乗ってない学生が三機も落とした。これじゃ私たちの立つ瀬がないよね」
彼女たちの期は通常カリキュラムで教育、つまり一年次後半から二年次前半にかけて実機での訓練を積み、二年次後期で三冠に挑む課程だ。
「前半から実機に触れてると、やっぱ慣れがあるのかな」
「僕は造船所で働いてたので。それにデイルはグリンヤルティ社の出身で、シミュレーター訓練は何度もやってたそうです。ミシェルは何でもうまくやりますし、ヴァンセットは......彼もセンスというか、そんな感じで」
「造船所?そりゃ大変だ。鍛えられたんだろうね」
「あはは、小さいころからしごかれましたね」
「偉いんだね」
そういってはにかむ彼女の横顔に、しばし目を奪われる。
モニターに写る計器の光が複雑な模様を投げかけ、彼女の瞳に反射する。
「そう、ここなんだけど」
「......あ、はい」
教官に捕まったミシェルを、皆で撃ち抜いているところだ。
「一機、蹴り飛ばされた機体のせいで包囲に穴が開いたのが残念よね」
「ヴァンセットのユキカゼは、華奢なんです」
「そうなの。で、ここで白いフレームの上から撃ってるのはあなたでしょう?で、次の瞬間に落とされてるんだけど」
赤いアキラのレンジャーには、三発撃ち込まれていた。
レーザー銃による三連射は、比較的距離のある相手を捕えるための撃ち方。
教官の狙いは正確で、三発とも直撃していた。
「マケイラ教官は何度か相手したことあるわ。とっても強い。多分アカデミーで一番。当然、撃ち方の癖は分析してる。そのデータで言えば、この角度なら頭、胴、腹に直撃してるはず。でも君が被弾したのは右足、胴、左手。胴は貫通判定だから撃墜なんだけど、他の二発が不可解......どうして君は避けられたの?」
言われてみればやけに殺意が高い個所を狙ってきている。普通なら三発ばらまきのはずが、すべて狙撃に等しい精度で撃ち込まれていた。
「どうして、って言われても......あの時は無我夢中で避けようと思ったんです」
「銃口を向けて射撃までノータイム。教官はのんびり狙いをつけることなんてしないし、動作も白いのを盾に取った状態で最適解の動き。挙動を見て避けるなんて、不可能と言ってもいい......もしかして、未来予知ができるとか?」
真顔で問われても、アキラはなんとかなれ、としか考えていなかったのだ。
「......当たらないように避ける、って意識は最初からなかったと思います。脚の二、三本が無くなっても、武器を失っても、機体が生きていれば戦えるからとにかく突っ込め......みたいな」
「あは、何それ面白いね」
「僕が隙を作れば、仲間が仇を取ってくれますから」
いい仲間だね、としみじみ呟くシフ。
どこか過去を見ているようだ、と思った。
「まぁ、ね。ほら、辞める人って多いじゃん」
「そう、ですね」
「私の班、解散しちゃって。成績はそこそこだったんだけど、理想高い子多くてさ」
卒業時の成績は班として出される。
冠の有無で個人に加点もされるが、基本は班全体での良し悪しで採点される。
「まぁ、来週には新しくアブレ者同士で組まされるから安心してね」
「だから、挑むんですか」
「そうだよ。私は冠が欲しい。結果が欲しい。成果が欲しい。新しい班だと平均値下がるだろうからね」
タイトルホルダーであることは就職、進学に圧倒的な有利となる。
彼女もその手合いだろうか。
だが、すでに光節前に出場枠はおおむね決まっている。
「十八人の出走者のうち、成績上位者が十六名。あとの二人の枠に残りの八十四人が賭けるの。過去には抽選枠から勝利した例もあるしね」
足切りラインは成績百番。それ以上であれば、運が良ければ出場できる。
噂では成績の他に生活態度や支援者の立場なども考慮されるという。
「まぁ、ユトランドの片田舎から出てきた私には、当たるように祈るしかできないんだけどね」
「それでも、努力し続ける姿は尊敬します」
「あは、ありがとね」
見惚れる、とはこういうことだろうとアキラは自覚した。
「......そういえばこの時なんですけど、ユキカゼの推進軸が滅茶苦茶に狂ってたんですよ。それを自分で蹴って調整したらしくて」
「えぇ、頭おかしいんじゃない?」
「まったくですよね。あとこの時、アルペイオスの出力データが変なことになってまして」
「あ、ほんとだ。キモい」
「人質にされながら、ガスだけ吹いて機体を流してたんですよ」
「どうりで位置情報がずれてたんだ。噴射光がないから気づかなかったな」
しばらく話し込んでいると、太陽光の色を模したコロニー内照明が朝を告げていた。
「ランナーの性格とか知ってる人と見れば、いい情報になるね」
眠たげに目をこすりながら、シフはテーブルを片付け始める。
「付き合ってくれてありがとうね」
「僕で良ければいつでもお付き合いしますよ」
「あは、いい子だ。でも起床のラッパが鳴る前には戻らないとダメだよ。みんなに噂されちゃうから」
時計を見れば、朝の六時半。半刻もすれば宿舎から皆が出てきてしまう。
アキラも急いでテーブルを片付けだした。
「ありがとうね。じゃ、次の戦闘記録期待してるぞ、少年」
【アカデミー:宿舎】
どこか浮かれた雰囲気を纏ったアキラと、どこか疲れた雰囲気を纏ったミシェル・ラングレン。
何があったかはあまり聞きたくないデイル・ハラルドソンは、ヴァンセット・ツィナーと共にそっと売店に抜け出した。
「女か」
「若いな」
端的な結論。かくいう二人も若いが。
「いいとこのお坊ちゃんなら、こういうときどうすればいいか知ってるだろ」
「知らん。とりあえず浮かれてるほうはそっとしておいて、沈んでるほうを何とかしなければ」
「これなんてどうだ、太陽光味チョコレート」
ヴァンセットが手に取ったのは、太陽の色をしたパッケージ。
「何味だ」
「さぁ、知らん」
適当に購入。
「それで、話しかけたほうがいいか?」
部屋に戻っても相変わらずの二人。
恐る恐る声をかけるデイルと、待っていたとばかりに口を開くミシェル。
「最近のシンデレラってのは、逞しいものなのか」
「お姫様にもトレンドってものがあるさ」
先月公開された映画では、囚われのお姫様を勇者が救いに行くという珍しい構図だった。
あるいは、大昔のリバイバルとも言える。
「パーティー会場で、ちょうどいい弾除けにしようとした相手がいたんだ」
「それで?」
「逆に弾除けにされた。お陰でパパラッチがずっと付きまとってね」
「可哀想に」
「そうだろう?」
ヴァンセットは太陽光味のチョコレートを割って、ミシェルの口にねじ込む。
途端に顔色が変わる。
「弾除けがこんなところに逃げてしまうなんて」
「そっちかい?」
「それで、どんな娘なんだ?」
ヴァンセットが訪ねる。
その口角は面白いものを見た時の角度に吊り上がっていた。
「......シンデレラ・ヘリオトロープ」
「……まじか」
「サインいるかい?」
「貰っておこう」
光節後半、都市のネットを漁って人探しをしていたヴァンセットの情報収集Botに何度か引っかかっていた話題であった。
今をときめく人気アイドルのお相手が、まさか目の前でつぶれているこれだったとは。
「ビッグアイの裏路地から這い上がって、メディアを翻弄し、いまや月の王子様を手玉に取るか」
「あんなお淑やかなドレスの娘が、品のない子弟に詰め寄られて怯えていた娘が、まさかへそにピアスを開けて、服の下にはびっしりとタトゥーが入ってるとか思わないじゃないか」
「……脱がせたのか」
「……上着を」
「……それだけか?」
「……そうだが?」
面白くないなという視線を受け流しつつ、ミシェルは顎で一人椅子の上で上機嫌に揺れるアキラを指す。なにか聞きたまえ、という表情。
露骨に嫌そうな顔をしながら、ヴァンセットはアキラに声をかける。
「ううん、なんでもないよ」
明らかに何かあったようだ。
三人は顔を突き合わせて眉に皺を寄せる。
「アキラは俺たちよりも早くアカデミーに戻っていたな。あの浮かれぶりはここ数日のものだろう」
「つまり、相手はこの近くにいるってことだな」
「俺が戻った時には、すでにこうだった」
デイルは二人より一日早くアカデミーに戻っていた。
なぜその時に聞かなかったのかと視線で糾弾を受けるが、デイルはこの手の話が苦手である。
「アカデミーに残っていた、ないし早帰りした学生は調べればわかる。あとは顔写真を見せながらアキラの反応を確かめるか」
「首実験というやつだな」
顔色が分かりやすいアキラには、うってつけの方法だろう。
ヴァンセットとミシェルは対象となる学生の名簿を早速準備し始めた。
嬉々としてリストを作る彼らの傍ら、デイルは自分の端末に通知が届いていることに気が付いた。
「二年次の、ナガサキ出場者が決まったらしいぞ」
いち早く反応したのは、アキラだった。
すぐさま出場者名簿を確認するヴァンセットとミシェル。
アキラはデイルの端末に顔を突っ込んで画面を注視している。
「……十六人は固定として、残りの二人だ。抽選の結果は……」
「パウラ・サラサール・デ・エストレージャ、席次二十七番」
これじゃないといわんばかりにアキラが画面を触る。
「シフ・シャオ、席次八十五番」
【アカデミー:講堂】
授業が再開し、数日。
実機を用いた訓練で今日も教官に全滅させられた十四班。
だが、動きはかなり良くなっていると自信をつけた彼ら。
「それじゃ、食堂に行くこうか。動くとお腹が減るからね」
「今日は合成タンパク質をこねた何かだったかな……」
「……アキラ?」
デイルは、一人まだ講堂に残っているアキラに気づいた。
端末を操作し、なにかメールを送っているようでもある。
「うん、すぐ行くよ」
食事を終えたら自由時間だが、今はその時間が二十八班への補習時間となっていた。
座学の成績は五班に抜かれているが、教官たちからの受けは良い。
「六十六年に起きたL4崩壊の原因はまだ分かっていないが、一応税制とかへの不満が発端の暴動が原因とされてる。その時の破片が地上に降り注いだのがルビア・デ・ピエドラス、石の雨事件だ」
補習の間もアキラは一人何かをしていた。手の動きからして動画編集だろう。おそらく、今日の実習の映像資料。
「この辺りは五班のガルシアが地元なので詳しいだろう。大気圏で燃え尽きなかった破片がパナマ沖に落下したせいで、航路が停止。二本の運河に依存していたパナマの経済が麻痺し、中米全体が不安定化。一連の流れが石の雨事件だ」
こういった歴史は授業ではあまり詳しく教わらない。
教えないほうがいい理由があるのだろうとデイルは解釈している。
例えばアカデミー内で下層民が反体制的思想を抱くなど。
「通常、低軌道にある人工衛星は大気圏で燃え尽きるよう設計されている。だがラグランジュ点に設置されたコロニーはその大きさを維持するために強度が与えられている。破片が重力に引かれて落ちたとき、低軌道軍は爆破解体して大気圏で燃え尽きる程度にサイズに砕こうとしたが失敗した」
爆破解体に失敗した責任を取って、当時の低軌道軍上層部は引責辞任した。
それまでは大気圏を越える物流全てに低軌道軍が関与していたが、上層部の刷新以後は自由化が進み、通行料をせびられることも無くなった。
「ロケットやマスドライバーでの打ち上げは航路との干渉を避けるために低軌道軍が管理している。ここまでを基礎知識として、この部分だな」
貨物の重量や内容で税率が決まる。さらに打ち上げ方向や時間でも区分けがあり、打ち上げられた貨物を回収する位置や手順にも規則がある。
煩雑なこれらの内容をすべて暗記することは実際に関わる人間ですら不可能であるが、概要は知っておく必要があるし、多少の計算も求められる。
「ラバウル発射場から打ち上げられた液体酸素。現地時間午前八時にロンチし、回収宙域Aでキャプチャ。この場合のコストはいくらか。環太平洋連合の税率と回収宙域Aの使用料、打ち上げ賃はこの表の通りだ」
二十八班の三人が唸りながら計算を始めた。
ツバメ・テシガワラとミシェル、ヴァンセットはそれを見守りながら、計算違いや見落とし個所を指摘する。
今でも東南アジア側と中米側では打ち上げ料金に差がある。荷物の量や種類によってはラバウルまで運んだほうが安く打ち上げられるものもある。
「液酸の比重は1.14。かけ忘れてるよ」
「回収船の燃料消費を見てないね」
「賄賂は含めなくていい」
しばしして、全員が理解できたようだ。
「それじゃ、今日はここまでとしようじゃないか」
「甘いものもあるぞ。太陽光味だ」
「何味だよ」
「それで、調子はどうだ?」
ヨナタン・ドレイファスが後ろから声をかければ、アキラは奇声をあげて飛び上がった。
「そこまで驚かなくてもいいだろ」
「意中の人にラブレターを書いてる最中だ。そっとしておいてやれ」
エルロイ・ジャズ・ホワイトが窘めるも、ヨナタンは構わない。
既にアキラの作業は終わっているようで、今は何を書き添えて送ろうかと悩んでいるようだった。
「ツバメ。女性の君からしたら、ラブレターには何を書けばいいと思う?」
ミシェルも口を出してきた。
ツバメは少し考える。
「そうですね。休日デートの誘い、なんてどうでしょう」
おー、と声をあげる一同。
「べ、べつにそんな仲じゃないし……」
「そういってる間に取られても知らないぞ?」
「っ」
怯むアキラ。
「一年次上だと、誰が彼女を狙ってるか分からないもんな」
「さっさと手を出して来いよ」
「代筆してやろうか?」
くるくると表情を変えるアキラ。
助けを求めるようにデイルを見る。
「彼女の身分なら、許婚がいるということもないだろう。だがレースでいい成績を出せば注目される。その場合、親兄弟へ干渉してでも身柄を買い上げることもあるだろうな」
三冠は、他の競技とは重みが違う特別な競技だ。
優勝者は引く手数多、多少の不正も横行する。
「学生結婚はできなくても、彼女の気を引きたいなら今のうちに伝えておいたほうがいい」
【アカデミー:宿舎】
「それで、まだ何もしていないわけだ」
「……レース前だし、集中を乱したくないから」
いよいよ本番を明日に控えた夜。アキラは部屋でコースの確認をしていた。
「まったく、アイツが出るわけでもないのに」
「そうでもしてないと落ち着かないんだろう」
呆れたように見るヴァンセットを、デイルが窘める。
「それに、来年は俺たちが出るんだからな」
重点育成プログラム組の授業はすでに遠方の演習宙域に移った。これまでの演習宙域は通常カリキュラム組に明け渡し、二年次の上位班が使う宙域を間借りしている。
そこは太陽風の強く当たるやや環境が厳しい宙域で、デブリが飛来することも多い。
技量のない班は行くこともできない。
十四班は今日も、そこで教官に全滅させられていた。
「今日の分のデータも先輩に送ってたな」
「ナガサキは非武装状態でのレース。戦闘訓練のデータが影響する要素は少ないが……」
「直線レースだからな。デブリとの位置取りか?それとも二か月後のトーナメントを既に意識しているのか」
非武装で、まっすぐ走るレースだ。
しかしデブリを回避し最適なコース取りをする必要がある。先行する機体が塵を巻き上げるためセンサーに不調が生じ、デブリに接触する事故も良く起きている。
「基本は先行有利だ。だが後方に位置して最適経路を割り出し、一気に追い込んで勝つことも少なくない」
デイルのように重量級の機体を扱う場合、頻繁なスラスト操作で回避を続けるより、多少の損傷を無視して直進するルートを取ったほうが勝率が高い。
「デブリの位置はその時間にならないと分からない。常に動き続けているからな」
「いちいち計算するより、思うままに突っ込んだほうが早いと思うけどな」
ヴァンセットのユキカゼは軽量級。加速の伸びはランドグリーズに劣る分、細身のボディは狭い隙間を経路に選べる。
「聞くところ、シフ・シャオは分析に優れている。機体も重量級のレンジャー。追込で行くのは間違いない」
最大速度が制限され、かつ戦闘もないナガサキ。反応速度やセンサー感度で他社の機体に劣るレンジャーで勝つには、いかに正確かつ素早く軌道を計算できるかどうかにかかっている。最新型であるランドグリーズやユキカゼには機動計算システムが搭載されているが、旧式汎用機のレンジャーにはない。それでも他の項目すべてで劣っているのなら、不確定要素の多い機動計算システムを生脳で凌駕するしかない。分析が得意な彼女なら、なおさらそこに勝機を求めるだろう。
「まぁ、最後は度胸だ」
「レース前に告られて動揺するならそこまでの度胸だろうが」
「うーん……」
【ナガサキ・ノア:レース会場】
アキラはスタートラインの近くを掃除していた。
周囲にいるのは十四班、五班の機体と、二年次の学生たちだ。
スタートラインに飛んでくるデブリを除去し、待機中の出走機を守る。
他のLeフレームはデブリ帯の外を監視したり、定点カメラの設置に飛んでいる。
「先輩、頑張ってください」
出走機は短距離無線に切り替えて最終ブリーフィング中だ。
班によっては連携を取り、ライバルをブロックしたり牽制したりといった戦術を取ることもあるが、シフ・シャオは一人。サポートに出ている機体との通信はできないため、アキラは誰にも届かない声援を送るしかない。
〈アキラ、こっちに来たまえ〉
ふとミシェルに呼ばれて行くと、チェッカーフラッグを渡された。
〈二年次の機体がデブリに撃たれて故障が出たそうだ。レンジャー、ゴールは任せるよ〉
シグナルランプはスタートを、チェッカーフラッグはゴールを示す大役。
シグナル役は一年次の主席が担当するという不文律があり、ミシェルが担当する。
そしてフラッグ役はこのナガサキ・10マイルのメインスポンサーの機体が担当。つまりKiTa製のレンジャーであり、この場にいるのはアキラの機体だけである。
「わかった」
〈急げ、あと十分と少しで出走だ〉
レース前に不気味な静けさを浮かべるナガサキ・ノア跡地を迂回し、安全圏からゴールへ向かう。
「と、その前に」
待機中の出走機はアイドリング状態。こちらを見ているかは分からなかったが、シフの機体にむけて応援代わりの敬礼を一つ。
「アキラ・ユガワラ。ゴール地点へ移動します」
〈コントロール了解。出走は五分後ろ倒しとされる。今のうちに急行してくれ〉
10マイル=およそ16キロを、五分程度で突破する。
推力20まで発揮できるとはいえ、デブリに行く手を阻まれるコースでは時として大回りや後退も起こる。常にコースは変化し、正解と呼べるラインはない。
「アキラ・ユガワラ、ポジションに就きました」
〈コントロール了解。発走まであと四分。要領はわかるな〉
「はい。先頭でゴールする機体に合わせて、振り下ろします」
〈それでいい〉
大気に旗がなびかない宇宙空間では、布ではなく棒状のフラッグを使用する。
先端には綿のように編まれたライトが取り付けられており、どの方向から見ても動きがわかるようにできていた。
ゴールラインは円形で、頑張れば三機までがその中を競りながら通過できるサイズ。
アキラは旗を軽く振ってみるーーーライトの発光に異常は無し。
遠く、デブリに遮られた視界の奥。レンジャーのセンサーでは識別できないが、ミシェルの視界を覗けばレースを祝う花火が打ち上げられていた。
赤、青、黄と色鮮やかな燃焼が落ち着けば、しばらく静かになる。
〈各部、クリア〉
〈太陽風、やや強い。みずがめ座方向へ〉
〈周囲に飛来するオブジェクトなし〉
〈コース状態、稍重〉
〈磁場の乱れは規定範囲内〉
〈開催に影響なしと判断します〉
ゴーサインが出た。
〈発走、十秒前〉
今この瞬間、全ての人類の注意は走り出す十八機に注がれている。
〈五秒前〉
ミシェルが構えるシグナルが灯り、
〈発走〉
青が灯る。
一斉にスラスターを吹かす。
〈各機いまスタートしました〉
実況が吠え、機体がデブリ帯の中に突入する。
光が走った。
「速い」
スタート地点付近でデブリ監視を行っていたヴァンセットの視線の先。
一つ上の年次の、選ばれた十八機が瞬く間に加速していった。
先行する五機は躊躇なくデブリ帯に突入してもなお加速していく。
中段の七機が先行勢の開けた穴に続き、後方の六機がさらに別のルートを切り開く。
「判断が早いな」
「きたか」
二マイル地点で、トップスピードに達した先行勢がデイルの横を通り過ぎていく。
軽量機たちが最小限の動きでデブリを交わし、時に踏み台にして進む。
十数秒遅れて追随する中段勢が、飛び散ったデブリを避けながら緩やかに加速。
さらに遅れて数十秒、まだ機をうかがっている後方が広がりながら追いかけてきた。
時間がたつごとにデブリは互いに衝突し、塵が舞い、コースを遮ろうとする。
それでも後方の機体は軌道を確定させた。
「……見えた」
レンジャーのセンサーがついに機影を捉える。
先行勢と、中段から差しに来る六機、それをロングスパートで纏めて刺そうとする二機。
既に何機か脱落しているようだ。
そのうち、黒いレンジャーが大外を回っている。
「先輩だ」
二機がデブリに弾かれ機動を乱し、一機が巻き込まれる。
ゴールは狭いリング。
一機が突入機動を失った。
黒いレンジャーは先頭集団の三機より数秒遅い。
フラッグを構える。
爆発。過負荷に耐えられずに先頭の機体のジェネレーターが爆ぜ、軸線が狂う。至近にいた一機が回避を余儀なくされた瞬間、黒のレンジャーが最後の加速。
いや、もう一機、前の二機を蹴って出た。
〈通過!〉
フラッグを振る。二機が絡み合うようにリングを超えた。続いて接触を避けるために他の機体がリングを避けてラインを越えた。
〈回収班、追跡〉
トップスピードで駆け抜けた機体は推進剤を使い切っている。
待機していた回収班が動き出した。
〈現在、結果の集計中です〉
レース参加中の最終番機がゴールにたどり着く。オーバーヒートした上にデブリと接触した両足がひどく損傷しており、リングへの衝突軌道だ。
「対応します」
速度を合わせて接触、軽く加速しつつ針路を修正。
〈回収班、対応いたします〉
「お願いします」
機体を収容にやってきた小型艇に引き渡す。
かろうじて動く右手で手を振ってくれた。
片手をあげて返し、小型艇に向かってきたデブリを弾く。
〈判定が終了しました〉
動画判定となっていた結果が出た。
赤いランプが灯り、ゴールリングの中に結果が投影される。
「……っ」
知った名前がそこに並んでいた。
だが、先頭ではない。
【アカデミー:宿舎】
〈そんな落ち込まないでよ……あたしが落ち込む暇がないじゃん?〉
「……ごめんなさい」
〈いいのいいの。データ貰っておいて活かせなかったあたしの落ち度なんだから〉
シフの結果は二位。一位に一頭身差で敗北した。
そして今、落ち込んだアキラをオンラインで慰めているところだ。
「手間のかかる後輩だな」
「とうの本人に落ち込ませない、というのも一つの手ではあると思うよ」
ヴァンセットとミシェルが、それを見ながら苦い茶を含む。
デイルもマグカップ片手にそれを見ていたが、少々辛くなってきた。
「ちょっと売店行ってくる」
コロニー内を循環する風を浴びつつ宿舎の外へ。
向かいにある二年次の宿舎は静まり返っていた。
「一着二着と、抽選枠から番狂わせだからな」
本命とされていた者たちを押しのけ、二十七番、八十五番が勝利したのだ。
レース結果は広く放送されており、当然賭けの対象にもなっている。
賭場は大荒れだろう。
三着以下に差をつけてのゴールであったため、都合よく結果を調整することもできない。
売店に入れば、意気消沈した学生と興奮した学生に二分されていた。
前者は優勝候補だった学生たちの取り巻きで、後者は労働者階級の者たちだろう。
彼らが快哉を叫びたくなるのも仕方ない。
二年次にもなれば成績は固定され、上位は家や企業の支援を受けられるものに占められる。
シフはもちろん、優勝したパウラとて強いサポートを受けているわけではない。
「パウラ・サラサール・デ・エストレーリャ、たしかレグザゴン系の没落資産家の娘だったな」
搭乗機はL2標準機のセレウキア。マルドゥック社のLeフレームだ。
デ・エストレーリャ家は没落し、先代の頃に月の裏側に移住したと情報にある。
資産はなくとも家名と血統をもつ一族。間違っても労働者階級ではないのだが、そこは気にならないらしい。優勝候補と見なされていた連中が敗北したことが喜ばしいのだ。
適当に甘くない菓子を買い、少し遠回りして宿舎へ。
途中、上を見ればいくつかの光点が見えた。
学園の様子を伺いに来たメディアの小型艇だろう。
この辺りの宙域は訓練場に設定されており飛行禁止なのだが、独立ジャーナリストたちは勇敢にも規則違反を行っているらしい。
今飛び出していった教官、あるいは警備の機体に何機か捕らえられるだろうが、今日のアカデミーの様子は高く売れるのだろう。
あるいはアカデミーに内通者がいるのかもしれない。これまでそういった事案はないとされているが、最近はアカデミー内に出入りする業者が何社も変わっている。アカデミーのネットワークからデータを送れば中身をチェックされる仕組みになっているが、出入り業者ならそれを回避できるのだ。
あるいは、学生自身が小遣い稼ぎに手を染めるかもしれない。
例えば、今目の前を通った挙動不審の学生のように。
「遅かったね、デイル」
「少し野暮用でな」
消灯時刻を超えて戻ってきたデイルは塩味の菓子を片手に持っていた。
売店はとうに閉まっており、敷地内は静まり返っている。
「そういえば、盗撮騒ぎがあったみたいだけど」
「……」
シフと通話していたアキラは、二年次の宿舎で騒ぎがあったと聞いていた。
パパラッチもどきはアカデミーの警備に連れていかれたそうだが。
「今日は早く休みなよ。明日も聴取されるんでしょ?」
「……まぁな」
デイルは手早く着替え、ベッドへ入る。
パパラッチの正体は不明だが、二年次の労働者階級という噂があるらしい。
「なぁ、アキラ」
「うん?」
「あのバカ二人は?」
「周波数、合わせたぞ」
「ありがとう」
静かな屋上。ヴァンセットが密輸した通信機をセットし、アカデミーの検閲を回避した通信波が発信される。
発光部分をテープでふさぎ、マメな整備と改造で静音化した通信機である。
違法電波を発するための改造が施されているそれは、L1のマンションの一室に繋がっていた。
ヴァンセットは周囲を見張れる位置に陣取り、ミシェルから距離を取った。
「……やぁ、聞こえてるかい?」
〈聞こえてるよ〉
ずそそ、と何かを啜る音。
「こんな時間にヌードルかい。感心しないよ、シンデレラ」
〈マネジがジャンクフード食べさせてくれなくてさ〜。シンデレラボディで生きてけるかっての〉
無言で頭を抱えるミシェル。
だが通信ではその様子を相手に見せることはできない。
〈そういえばレースすごかったね。良く知らないけど〉
「……番狂わせだったのは間違いない。上位が揃って負けることも、珍しいが前例がないわけじゃないからね」
〈二十七がおすすめっていうから適当にさいころ振って二連単で買ったら当たっちゃってさ。こんなんなら三連複も買っておけば良かったよ。次はトーナメント戦でしょ?誰が勝つの?〉
巷で人気のシンデレラ・ヘリオトロープが非合法の賭博に手を染めていると知れば、果たして何人が仕事を失うだろうか。
だが彼女自身が途方に暮れることはあるまい。元居たところで逞しく生きるだろう。
ヘリオトロープがこの時間にカップ麺を啜っているということは、名を隠していつもの路上ライブをやってたということだ。ギター片手に、好きな曲を好きなように。
それが彼女の生き方。
どういうわけかメディアに担がれ、社交界の華にさせられているが、それでも彼女が花瓶の中で大人しくすることはない。
〈便利な弾除けのお陰で、嫌な取材は断れるようになったのほんと感謝してるよ〉
「……ははは、それは良かったよ」
乾いた笑いが零れる。
後見人となり、生活費を肩代わりし、活躍の場を用意する。パトロンとはそういうものではあるが、まだ若いミシェルにはそこまでの経験がなく、言われたままに支援するだけになっていた。
無論、皮算用もある。
いずれ役に立つときには役に立たせるつもりだ。それまでは飼っておく。
とはいえ、口さがない社交界の者たちに小鳥の飼育もろくにできないと噂されるのも癪だ。
〈大丈夫、おねーさんが坊やをプロデュースしてあげよう〉
「それには及ばない。ボクを甘く見ないでくれ」
〈いいね。そう来なくちゃ。期待してるよ、王子様?〉
【アカデミー:訓練宙域】
〈それじゃ、訓練開始!〉
マケイラ教官の声とともに、スロットルを最大推力へと叩き込む。
加速しながら仮想敵となる教官機の予測位置、から回避された位置に射撃を送り込む。
〈ダメよヴァンセット。そんな距離から牽制してもレーザーは減衰するわよ!〉
「それでも、教官の気は逸らせます!」
〈誰が、なんですって?〉
デブリの影から、教官の死角からアキラとミシェルが突撃を仕掛ける―――デブリを蹴って回避/そこへ撃ち込まれる狙撃。
〈タイミングは悪くないわ。でも〉
「遅いとでも。レーザーは俺より速いですよ」
〈へぇ、やるわね〉
アキラが撒いたトラップがレーザーに加熱されて爆ぜる。
爆発はエネルギーをまき散らし軽いデブリが周囲に飛散する。
〈確かに、悪くない手だわ〉
「……流石」
だが、そこまで避けられることは織り込み済みだ。
デブリのシャワーに隠れて再び背後を取ったミシェルとアキラが背後から射撃し、デイルが狙撃で逃げ場を封じ込める。
一瞬とて同じ場所に位置することなく、全て必殺の覚悟で狙う。
〈それで、逃げ場は一つってことね〉
「……いざ」
〈何度やったって、同じなのよ!〉
【アカデミー:講堂】
十数度目の敗北を味わった四人は、講堂で天井を見上げていた。
諦めの色はなく、士気は高い。
だがそれはそうとして、疲労は蓄積していた。
「教官相手に、正面から三合。出力でユキカゼは劣るとはいえ、操作性はこっちが上だ。それでも、鍔競り合いになったらテクニックで負ける」
ユキカゼが落ち、ランドグリーズが落ち、アルペイオスが落ち、レンジャーが落ちた。
今日は一度として被弾を与えられなかった。
「とはいえ、全体の流れは悪くない。ボクらの失敗はほぼなかったし、教官の動きも作戦通りに抑えることができた。ただ、教官が強すぎるだけだ。アキラ」
「うん、今日のテレメトリを解析したよ。速度、高度ともに悪くない数字だと思う」
ミシェルに促されたアキラが出したのは、秒単位での位置変化を記録し、射撃方向や破砕状況を図示したもの―――シフに習った手法。
「さっき低軌道軍のシミュレーションモデルを入れてみたけど、二機分隊は三手で詰んだね。四機小隊じゃダメだったけど」
低軌道軍は人類圏で最高の暴力を所持する組織だ。
たとえシミュレーションと言えど、一般の学生に落とせる相手ではない。
単機、二機、四機と増えるにつれ行動パターンは複雑化し、一人の教官を倒すための戦術では対応できなくなる。
それでも、力量を調べる指針としては使えると、シフは言っていた。
「次の作戦はどうする、ヴァンセット?」
「今回の作戦で、デブリが使えるとわかった。中距離から包囲して、引き撃ちに持ち込もう。デブリ帯に引きずりこんで、三角錐型の陣形でカバーしつつ常に射撃を続ける」
この作戦は教官のレンジャーが機体性能上はデブリの急回避に向かないこと、レーダー処理能力に限界があること、背面のセンサー能力がやや劣ることを織り込んだものだ。
問題があるとすれば、自分たちが背中からデブリ帯に突入するということ。特にアキラのレンジャーはセンサー能力が低いため、破損の恐れがある。さらに、こういった弱点を洗い出して建てた作戦が、ことごとく教官自身の能力で打ち砕かれているということ。
「間違いなくアキラを先に潰しに来るだろう。だから、俺とミシェルで迫撃して注意を逸らす。デイルが狙撃して動きを留める。デブリを散らして背後に回り込み、ケツからばっさり行く。当然防がれるので、皆で寄ってたかって刻み、教官が近接の間合いに入れば距離を取って引き撃ち。あとは高度な柔軟性で」
機体の限界を超える操縦を長い時間続けることはできない。教官自身の疲労を狙った作戦だ。
「問題は、教官の底が果てしなく深いというところだね。まぁいい、今度こそボクたちが勝つ。あとあの蹴りは絶対に避ける」
「そうだな。次こそは結果を出す。蹴りも避ける」
「うん、ここで勝てれば先輩へのエールになるね」
アカデミックシリーズの二冠目、エプソム・トーナメントはすでに来月に迫っていた。
シフもパウラも、そしてナガサキで勝利を逃した者たちも。二年次の生徒たちは出場者発表を前に殺気立っている。
来年の出場を当然と捉える彼ら四人は、小隊の連携と同時に個人の戦技も高めている。
高い精度で撃ち込まれるレーザー、狙撃銃を銃剣として扱い、測距用レーザーをオーバーロードさせて攻撃転用し、手も足も翼も格闘に使う。
それでも教官には勝てないのだが。
「それじゃ、今日のところはご飯にしようよ。お腹が減ったし」
「機体の荷重計の数字がプラスにもマイナスにも振り切れている。それだけ、今日は過酷に振り回したわけだ」
「そんなボクたちの機動に追い付ける機体を用意してくれるメカニックには感謝だね」
「満足させてくれないキッチンには感謝できないがな」
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