第3話 何時ものこと

「もしもし。あの…、坂口さんのお宅ですか?」

「はい、坂口ですが」と、母親。

「あっ、私、田村と申しますが、公一君いますか?」

「あっ、田村さんと言うと。何時も公一がお世話になっている、あの田村さん?」

「はい、世話というか、何時も公一と一緒に山に行っているだけですが」

「そうですか。日頃大変お世話になり有り難うございます。田村さん、ちょっとお待ち頂けますか?」

「はい、結構ですが」

「公一はまだ寝ておりまして、今起して来ますのでお待ち下さいましね。何時もご迷惑ばかり、お掛けしているんじゃないかしら?こんな時間になっても寝ているなんて、田村さんから見たらだらしなくみえるでしょ。まったく、しょうがないんだから。ご免なさいね」

「いや、迷惑をかけるなんて。それは僕の方なんですけど。公一君はしっかりしていますよ。彼には何時も世話になっちゃって、感謝しているんです」

「そうですか、田村さんは謙遜なさっていらっしゃるみたいね。でも、そう言って頂けると。何だか嬉しいですわ」

「本当ですよ。彼には随分頼っていますからね。迷惑の掛けっぱなしじゃないかと思います」

「むしろ、公一が何時もご迷惑かけているんじゃないですか?」

「そんなことありませんよ」

「そうですか、それならいいんですけれど。それでは起こしてきますので、少々お待ち下さいね」

「は、はい…」

電話口で待つ。

「もしもし、田村か…」

寝ぼけ声で坂口が出た。

「おお、坂口か。寝ていたんか。通りで携帯電話に出ねえから、仕方なく自宅に電話したんだ。今のは、お袋さんか?」

「ああ、そうだ。ところで、何か用か?」

「いや、別に改まっての用事はないが、もし、暇こいてんだったら、会わねえかと思ってな。寝ていたんじゃ暇な証拠だ。他にやることねえんだろ。それだったら出て来いよ」

「ああ、別にいいけど。ところで、今何処にいるんだ?」

「俺か、何時ものところだ。他に行くところなんかありゃせん」

「メッカか?」

「そうだ」

「それじゃ、これから行くから」

「ああ、待っている」

「それじゃな」

「おお、そうだ。如何せ、富永も暇こいてんだろうから呼ぼう。何だかんだと、減らず口叩くかも知れんが、作り事で何もないと思うよ」

「そりゃそうだ。あいつのこった。彼女とデートの約束があり、駄目だとかなんとか抜かすに違いないが、単なる便法だからよ。山行計画の打ち合わせだと言えば出てくるよ」

「ああ、分かった。それじゃ、その調子で呼び出すから」

「了解!」

互いに電話を切った。

坂口や田村らは、何かにつけメッカへとやってくる。そこで何時間でも暇を潰す。富永とて同じだ。集まっては山の話に興じるのだ。勿論、それだけではない。他の話題もある。就職活動や授業の話などいろいろするが、結局は山の話へと収斂されるのだ。

三人が、喫茶店メッカに集まる。

「やあ、待たせたな」

坂口がやって来た。続いて富永が来る。着くなり唐突に富永が貶す。

「しかし、お前ら。暇こいてんな。こんなところで、若者が辛気臭く集まっているようじゃ、将来大成せんぞ」

「何、言ってやがる。そう言うお前だって、することなく退屈していたんだろ。電話した時、それらしきこと言ってたじゃねえか」

田村が反論すると、富永が何時ものように気取る。

「おいおい、待ってくれ。間違わないでくれよな。俺は暇じゃねえんだ。お前らと違って、俺みたいな美男子は女の子が放っておかない。本来、むさ苦しいお前らと会う時間はねえが、それを坂口が如何しても来てくれと泣きつくから、デートを断って来てやったんだ。そんな俺様に、大いに感謝しろ。なあ、彼女もいず暇こいている田村君よ」

「おやおや、妙なことを言うじゃねえか。俺に彼女がいないと、よく断言できるな。知りもしねえでよ。富永、勝手に決めつけるな!」

「ほうっ、強気なことを言いますね。その風体で、いるとは思えん。不細工な田村に、彼女が出来るわけがない。それが事実なら、天地がひっくり返るほどの驚きだぜ」

「言ったな。お前こそ、そんなこ汚ねえなりして、不細工な男に惚れる女がいたら、そりゃ目が悪いか、下手物好きの悪趣味と言うもんだ。なあ、坂口。そう思わねえか」

「ううん、まあな。そういうことも言える」

すると富永が、鼻をつんと上げ虚勢を張る。

「どちらさんも、いい加減にしておきな。あんたらの目は節穴か。この俺様を見て、その程度のことしか言えねえのは、女が一目惚れする男である容姿を、やっかんでいるからだ。何の曲った、妬み根性丸出しだな。今日だって、すがる彼女を振り払い、わざわざ来てやったんだぞ」

その言い草に、田村が呆れる。

「あれれ、また始まった。在りもしねえことを、願望が強すぎて夢と現実の境がなくなっちまって。家で、膝小僧抱いていたくせによ」

「何を言う。そんなことあるか。今後の山行計画で意見を是非とも聞きたいとの要請だろ。なあ、坂口。そうだよな」

苦し紛れに振った。

「まあな、確かに富永に集まるよう電話したが、田村もいるから来ないかと誘っただけじゃなかったか。それに、次回の山行打ち合わせもしたいとは言ったが…」

「ほれっ、その程度のことを言われただけで、勝手に付け加えやがって。むしろ、誘いの電話を渡りに船と馳せ参じたんだろ。見栄張るんじゃねえよ!」

田村が毒づき、更に続ける。

「何が美男子だ。冗談もたいがいにしろ。お前は己を映す鏡を持っていないのか。何だったら貸してやろうか。見れば、即座に絶望するからよ。それを俺らが救ってやっているようなもんだ。まったく減らず口ばかり叩きやがり、呆れてものも言えん」

散々富永を虚仮下ろした。が、それでも平然とほざく。

「田村、そういきり立つなよ。お前がもてねえからと、俺に八つ当たりしても如何にもならねえ。諦めろ。どだい俺のようには、逆立ちしたってなれねえんだからよ」

「ああ、富永と話をしていると、馬鹿らしくなって疲れるわ。さあ、早く話題を変えよう。ところで坂口、如何なんだ。お前の進み具合はよ?」

「えっ、進み具合ってなんの?」

「ああ、いけねえ。つい富永と話す口調になっちまったぜ。就活だ、それの進み具合だよ」

「おお、まだ序盤というところかな。ぼちぼちやっているが、これからだぜ。ところで、富永、お前の方は如何なんだ?」

坂口が応え、富永に振る。

「俺か、俺はな。最近、そろそろやらなきゃいけねえと考え始めたところだ。今まで山のことしか考えなかったからな。とにかくこれからだ。まあ、何とかなると思うよ。まだ九月だぜ。それに卒業は再来年の三月だ。今からそんなに、あくせくやってられねえ先のことだ。そういう時期がきたら始めるよ」

富永なりに時期尚早と、活動する気持ちは更々なかった。田村にしてもその辺は突っ張るが、気持ち的には大差ない。

「それにしても、お前ら暢気でいいよな」

二人を見て坂口が呆れた。

「そろそろ本格活動しなきゃならない時期じゃねえのか。最近、ちょいと気になっているんだ。俺ら今まで山のことオンリーだったんで、始めてねえもんな。他の奴らは、皆、遊びと併用して、せっせと就活しているらしいよ」

すると、田村が言い訳する。

「いや、別に暢気にしていたわけじゃねえ。それなりに考えているが、ただ、そっちの方に行動が伴っていないだけだ。つい、面倒臭いと言うか、あと一年以上あると思うと、山のことが優先してしまうんだ」

「俺だってそうだ。坂口が言うように、そろそろ卒業後のことを真剣に考えねばと思っているが、つい、思考が山の方へと反応し、後回しになってしまう。それがずっと続いているんだよな」

富永がほざくと、「あれ、さっき言っていたことと違うんじゃねえのか?」

坂口が訝った。すると神妙は顔で返す。

「いいや、違わねえ。心の中じゃ、そう思っているんだ。ただ表面的にはあのように言ったが、お前らに合わせないと、話しの流れに乗れねえからよ。そんなことで、やべえと思っているが、まあ、何とかなると後回しにしてな」

富永が毒づいた。田村にしても、目先のことは山への興味が優先し、それに伴って行動もそちらの方へと傾いている。言い訳がましいが富永も同様だ。

促す坂口とて、現実はさして変わりない。

「それにしても、これから冬に向かうんだ。そのためには、今から体力作りの基礎訓練が待っているものな。これを疎かにして冬山には入れねえ」続けて、「だからと言って、就活も盛りだしな。他の奴らを見ていると、必死こいて会社訪問なんかしている。それに比べ、俺らときたらろくすっぽ考えず、就活の就も始めてねえんだからよ」と零し嘆いた。 

田村が同調する。

「そりゃ、周りから見れば山ばかり行って、あいつら何やっているんだと、変な目で見られる」

状況を告げると、坂口が同調する。

「確かに、そう見られても仕方ねえ。この前なんか、田中に言われたもんな。『お前らはいいよな。何の悩みもなく、山登りに現を抜かしていられんるんだからよ』ってな。それに、『そうやって、まったく就活もせず、暢気に山歩きしていられて羨ましいぜ』っと、嫌みたっぷりにからかわれちまったよ」

すると、富永が自棄気味にほざく。

「いいじゃねえかな。山に行くことを、そんな嫌みっぽく言わなくってもよ。俺らだってもう三学年だ、別に今年度に卒業するわけでもあるまい。そんなあくせく就活しなくても、まだ時間的にひっ迫しているわけじゃないぜ。勿論、卒業して就職しないと言うわけじゃない」

「そりゃそうだ。山へ行くからと、就活が阻害されるわけでもあるまい。ただ、今まで少しばかり疎かにしていただけだ。これからでも、充分間に合うというもんだ」

坂口が自棄気味に言い訳すると、田村が、「そうだ、それをなんだ。自分らがあくせくと、己の好きなことを我慢してというか、犠牲にして就活しているから、そんな嫌味を言うんだろて。なあ、坂口!」憤慨し振った。

すると強気で喋り出す。

「そりゃそうだ。俺らだって、今三学年だ。再来年の三月まで、まだ時間がある。生意気な言い方だが、社会に出れば学生のように自由な活動が出来なくなる。それに、むしろ今だから出来ることを、今やらなくて如何する。後々後悔するぞ。それこそ、その時になって、学生の頃もっと楽しんでおけばよかったと悔やんでも、後戻りは出来ねえんだ。だったら、今やっておくことが如何に大切か分かるだろう。俺はそう考える」

坂口が凛と告げた。すると、田村が続く。

「大学を卒業し社会人になり、後悔したって後の祭りだ。二度と戻っちゃこねえ。だから俺らは、出来ることを今のうちにやっておきたいのさ」

富永が応じる。

「田村、よく言った。それだよ、それ!」

「俺は、それが言いたかったんだ。今年の二月に行った八ヶ岳縦走の時もそうだった。赤岳鉱泉小屋にいただろ、社会人のパーティーがよ。彼らには、余裕がまったくないように窺えたぜ」

「そうだよな、俺も感じた。その点、俺らは充分堪能できた山行だったじゃないか。ほれ、この前も、今度の冬季登山計画でよ。正月に行くかって話していただろ。でもよ、社会人に譲ろうということになったじゃねえか」

同調する田村に、坂口が応える。

「そうだった、思い出したぜ。俺らのように、社会人らは二月に三日も四日も会社休んで山になんか入れねえ。となれば、如何したって正月休みに行くことになる。窮屈と言うもんだぜ。ただ山に入って時間に追われ、絶景もろくに見ず下山する。今の俺らにとって、耐えがたき冬山山行だぞ。結局、社会人になると、そうならざろう得ないんだよな」

すると、田村が応える。

「それだったら、我らに与えられている優位点は、そんなあくせくした山行でなく、時間をかけ冬山のよさを見逃さず、身体の芯まで染み込ませるぐらい堪能できる登山を望みたいね」

「そうだ、それが出来るのは、今しかない。だから学生の特権を最大限活用して、オールシーズンの絶景を心に刻むべく、入山しよういうわけだ」

富永が理屈を付け自答した。

「まったくだ、富永。お前、いいこと言うじゃねえか。たまには感心すること言うんだ。今やらずして後で悔やんでも、過ぎた時間は取り戻せない。後悔先に立たずだ。そんなことはしたくない。お前らだってそうだろ!」

田村が反応すると、富永が受ける。

「ああ、まったく同感だ。人生で学生時代なんか、たったの四年間だぞ。そんな短い期間しか特権を活用できない。おおいに利用してこそ、満足の行く学生生活が送れるというもんだぜ!」

「まあな、社会に出たら相当制約されるだろうからよ。その時になって、ああしておけばよかったとか、もっと存分に山へ入ればよかった、。なんて、嘆いても始まらねえからよ」

坂口が応えると、富永が目を剥く。

「そりゃそうだ。だいいち学生の時は、学生じゃなければ出来ない山行というものがある。それを社会人になり、やろうとしても無理なんだ。例えば、今の我らには時間が余るほどある。だから山行でも、長期間入山することが可能だ。ところが、社会人ではそうはいかない。やはり、仕事が優先するからな。正月休みぐらいじゃねえか、一緒に長く休めるのはよ」

尤もらしく講釈した。すると田村が、それを受け引き合いを出す。

「そう言えば、そんなことを先輩から聞いたことがある」

坂口が、昔をしのぶ。

「ああ、俺も聞いた。昨年卒業した吉村さんなんか、営業に携わっていて日曜日も仕事で、ろくすっぽ休めねえってな。勿論、他の日も残業残業で、毎日深夜帰りだと嘆いていた。まったく家には寝に帰るだけで、疲れが溜まって頭が如何にかなりそうだってよ。それがずっと続いていて、学生時代が懐かしいと溢していた。こんなことだったら、もっと好きなこと存分にやっておけばよかったと後悔しているらしい」さらに、「しかし、社会に出たら、そんな風になっちまうのかよ。嫌だな、だって来年四年生だ。たっぷりと山に入れるのも、あと一年とちょっとしかねえんだ。考えただけで憂鬱になるぜ」

すると、坂口が同調する

「まったくだ。あっという間の学生生活だ。就活も大切だけど、今の時間をもっと大切にしないといかんな。しっかり山行計画を立て入らえとよ」

「まあ、その山行の合い間に、どこか就職先を探がせばいい。俺なんぞ、さして特技があるわけじゃなし、技術系の会社は無理だ。かといって、一日中机に向かっているのも性に合わねえ。となると、吉村先輩のように営業関係の仕事に就くことになる。そうなりゃ、山登りも相当制限されちまうぞ」

田村が嘆くと、富永も相槌を打つ。

「俺だって、お前らと似たり寄ったりだ。でもよ、休日もろくすっぽ取れず、毎日残業だなんてたまらんな。山へ行けなくなったら最悪だぞ。どこでもいいから土、日曜日が休めるところを探すか。それに残業もないところがいいや」

「富永君、考えが甘いな。そんな楽して給料貰えるところなんかねえぞ。ところで、坂口。お前はどんなところへ就活しているんだい?」

「俺か、俺は、そうだな。教職課程も取っているし、教師にでもなろうと考えているんだ」

「何、お前が先生になる。まあ、いいかも知れんな。坂口の性格からいえば適職かもしれんぞ」

田村が賛同すると、富永がいちゃもんをつける。

「坂口が先生か、大丈夫かな。瘦せっぽの坂口の風体からすれば、たとえなれても、まともな先生にはみえんぞ。どこかのエロ教師と間違えられるんじゃねえか。その辺を考え、素行には気をつけろ」

「何を言いやがる。富永じゃあるまいし、そんな風になるか!」

「それにしても、考えてみれば早いもんだ。学生生活もあっという間に終っちまうぞ。とにかく悔いが残らぬよう、これからのシーズンと、来年一年間の山行計画だけは充実したものにしようぜ」

「ああ、そうだな。行きたいところは、まだ沢山ある。出来る限り入りてえもんな」

田村の思惑に、坂口が応じた。

「でもよ、社会人になっても、山行を止めるわけじゃないだろ」

「勿論だ。止めるもんか。何とか、仕事を掻い潜ってでも行く。夏休みだとか、正月休みは、絶対山に入るぞ!」

富永が強い意志を示した。すると坂口が欲を示す。

「俺だって、その心算でいるよ。社会人になったからって、行けなくなっちまうわけでもねえからな。ただ、今みたいに自由気ままさがなくなるだけで、土・日や正月休みはしっかりと計画を立てれば可能だ。だから、俺らはこまめに連絡を取り合い、調整しながら山行を楽しもうじゃないか」

「おお、合点だ。そうしようぜ!」

三人とも、目を輝かせ了解した。

「そう言えば、話しは変わるが。この前就職案内の掲示板をみたんだけど、なかなかいいところとがねえ。就職先を探すのも大変だな。掲示板に載っている案内だけじゃ、概略は分かっても詳しいことは分からねえ。迷ってしまうよな。それに加え、最近流行のインターネットで、企業のホームページからでも探すとするか」

「それに俺自身どんな職業に就くか、まだ明確になっていねえんだ。どこにするか、決めることより以前の問題だよな。ただ、何処かの会社に勤めればいいと言うもんでもないしな」

「今まで山のことしか考えてこなかったから、いざ就活となると、いまいちぴんとこないし、真剣になれねえんだよな」

田村が悩み呟いた。すると、富永が虚仮下ろす。

「田村、お前の風体を見たら、雇ってくれるところなんかねえんじゃねえか。社員というのは会社を代表するもんだ。お前みたいな不細工な男を、どこの会社だって雇ってくれるわけねえよ」

「それに、お前は坂口のように教職課程を取っていないんだろ。いや、教師なんて柄じゃねえか。そうなると一般社会じゃ、どこも必要とするところはないことになる。それならいっそのこと、山小屋にでも勤めたら如何だ?うん、この考えいいねえ。不細工でも雇ってくれるかもしれん」

追い討ちをかけ、己自身で応えた。すると、田村が怒鳴る。

「何を言う。俺のことをとやかく講釈する前に、富永、お前自身を鏡に映してみろ。言った言葉を、そっくり熨斗つけて返してやら。まったく、どの面下げてそんなことが言える!」

「あれ、田村君。おかんむりか?この程度のこと言われて、かりかりしているようじゃ、卒業してもまともな社会人にはなれんな。社会人というのは、打たれ強くなきゃ勤まらねえんだ。まだ修行が足りねえな」

富永が挑発した。すると呆れる。

「しかし、お前も懲りねえな。知ったかぶりしやがって、お前みたいな自己中で、他人のことを考えねえ奴が、よく言うよ。お前こそ、今はそれでも通るが、社会に出たらそんな訳にはいかんぞ。

他人のこと言う前に、そのひねり曲がった性格を直した方がいい。それでないと、何時か痛い目に合うからな。まあ俺も、今まで一緒に山に入ってきたよしみで、こうして助言してんだ。有り難く思えよ!」

「はいはい、分かりましたよ。田村さん、これからも宜しくご指導下さいな。是非とも頼みますよ」

「また、これだ。お前って奴は、何時になっても懲りねえんだからよ」

富永の馬耳東風のような態度に呆れた。すると、坂口がせっつく。

「そんなことより、早いところ大筋の年間計画でも作ろうや」

「そうだ、こんな馬鹿っ話していたら、何時になっても終わらねえ。早いとこやろうぜ」と、田村が返した。

三人は結局、メッカで三時間程引け込んでいた。勿論、就活の話から始まり諸々と続き、結局は山の談義へと進む。山行話になると切りがなく、営々と続き、それがメッカに長居する原因となっていた。



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