「第十九話」王からの褒美

 沢山の兵士がこちらを睨み、取り囲む中、シエルはその小さな拳を握りしめていた。国の惨状に目を背け続けている国王が、目の前にいるのだから仕方ない。ましてやシエルは責任感が強い人間だ。湧き上がってくる怒りの中には、自分自身に対するものもあるだろう。


「……お父様」

「余はお前を娘とは思っていない。──頭を垂れよ。余の血を簒奪した、忌まわしき平民よ」


 私はいつでも、王とそれを取り囲む兵士を血祭りにあげる準備ができていた。しかしシエルは、私の櫛を握った手を優しく静止した。怒りに任せず、冷静な判断を下す彼女には本当に敬意を払わねばなるまい……私は軽く頭を下げてから、睨み返すようにすぐに頭を上げて報いた。


「不敬な魔女め、まぁ良い。……余が直々にここに来たのは他でもない。シエル、我が国唯一の汚点であるお前を消し去るためだ」

「おっとぉおじいちゃん? それ以上喋ったら入れ歯が外れちゃうぞぅ?」


 私が睨みを効かせると、屈強な兵士たちはたじろぐ。中には剣を抜き放つものもいたが、それはシャルル王が静止する。王の犬である兵士たちは、従順に剣を鞘に収めた。


「今ここで貴様を殺してしまう方が、余としても助かる。──だが、恩を仇で返すほど、余の器は矮小ではない。魔女を利用することでこの国を病魔から救った功績を、余はしっかりと覚えている」


 上から目線にも程がある。自分はただ玉座に座っていただけなのに、一生懸命国を想っていたシエルにこの態度? 挙句の果てには始末? シエルの静止がなければ、今頃八つ裂きにしている頃だ。


「それで? ご褒美でもくれるんですかねー?」

「無論与えるとも。そなたらには、選択肢を与える」


 王は馬の上から見下すような態度を崩さず、そのまま告げる。


「選ぶがいい、簒奪者よ。その魔女を殺して王族として生きるか、王族としての自らを殺し……平民としてその魔女と生きるか」

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