第39話 緑の道
ロイドさんとギルツさんを見送ってから、僕、ライカさん、ミザさん、それに気を失い二人に支えられているシュタイナー公爵の四人は、町の端にある公爵の屋敷へと足を進めていた。
ギルトや宿屋があった大通りを真っ直ぐ進むこと二十分くらいだろうか?
周囲の景色はがらりと変わり、この町特有のとんがり帽子のような建物も見当たらなくなっていた。
それにシトリンゴートの串焼きの香ばしい香りではなく、まるで林の中や森の中にいるような花や木、様々な植物の香りが漂ってきている。
すると、公爵の右脇を支えているライカさんが足を止め口を開いた。
「えーっと、この芝生が生い茂っているところから公爵邸の敷地内となりますね♪」
左脇を支えているミザさんも彼女に続き足を止めた。
「うんうん、ライカちゃんの言っている通り、ここから先が公爵様のお庭なるねー!」
もちろん、気を失っている公爵は自分の私有地に来たというのに、首をがくんと下に下げたまま何も言葉を発しない。
公爵の身に起きていることって、あまりにも不憫過ぎる気もするけど、間にいる公爵をぶらぶらさせながら、楽しそうに二人の様子からして慣れたものなのだろう。
取りあえず、申し訳ないけど、気を失っている公爵のことは置いておいて。
歩みを止めた僕らの視線の先には、岩や石を敷き詰め舗装されていた大通りとは違い、高さを切り揃えられている芝生がびっしりと生えていた。
それに道の両端にも立派な木々が植えられている。
そして、どちらもしっかりと手入れが行き届いている印象だ。
二人が言うには、この緑まみれになっている道からが公爵の私有地とのこと。
通称【緑の道】と呼ばれているらしい。
らしいということは、公爵本人が付けたわけではなくて、この付近を通る人たちが勝手に付けた名前なようだ。
でも、なんでここから変えるといった手の込んだことしてるんだろうか?
いかにも貴族っぽい権力の誇示とか?
それとも観光地の名物として集客を行う為?
うーん……。
どちらも不器用というか鈍感というか不思議なシュタイナー公爵のイメージに合わない。
そんな回りくどい考えができる人であれば、先程あったようなこと(言ってはいけないことを殴られようとも、馬鹿のひと覚えのようにひたすら言おうとする)くらい難なく乗り越えれるはず……。
じゃあ、もしかしてただの趣味?
僕が色々なことを考えながら目の前の景色に夢中になっていると、ライカさんが声を掛けてくれた。
「うふふっ♪ リズ君、もしかして急に景色が変わったことが気になりますか?」
「えっ? なんでわかったんですか?!」
「わかりますよ! 顔に書いているんですから♪ なんでここだけなんだーって」
「あはは……書いてましたか」
「はい♪ では、早速その疑問についてお話しますね。それは――」
僕が抱いていた疑問に彼女が答えようとしたら、ミザさんが食い気味に割り込んできた。
「そ・れ・は~♪ 公爵さんの優しさからですね♪」
ミザさんは公爵の左脇を支えながら、ここぞとばかりに茶目っ気たっぷりなリアクションを見せていた。
僕とライカさんに向けて舌を出してウインクしている。
「あぁー! せっかく私から説明しようとしたのに!」
「ふふっ、ごめーん♪ 私もお喋りに参加したくてついつい」
「むぅ~!」
「怒らないでよ~! だってぇー! 二人だけでお話をすすめるんだもん! 私だって参加したーい」
二人が楽しそうに会話をする度に公爵の体が揺れている。
なんというか、もう居ることすら忘れている感じだ。
「うふふっ、じゃあ仕方ないなー!」
「ふふっ♪ ありがとー!」
その後、にこやかに喋る二人からシュタイナー公爵について教えてもらうことになった。
本当は、ライカさんとミザさんの間で気を失っている本人をどうにか起こして聞けばすぐ終わる話なのだけど――。
当然、そんな雰囲気でもなかったので、僕は黙って二人の話を聞いた。
その話によると公爵は無類の植物好きで、年中外交などを兼ねて各地を飛び回っているらしい。
もちろん、それだけではなくて自然との共存を行う為、植物を保護する活動をしているようだ。
そして、その活動の一環がこの目の前に広がる緑の道と人がよく行き交う大通りの舗装された道ということ。
自然との共存という観点から人が行き交う大通りは利便性を考慮して舗装し、対して公爵の私有地のようなあまり人がこないような場所は可能な限り自然を残す。
だから、同じ町の中でもこの道は違うようだ。
他にも身分の差で収入が偏り過ぎないように出稼ぎの人達を積極的に受け入れたり、地方の貴族と協力して山の一部を開発することで雇用を生み出したりなどその活動は多岐に渡るとのこと。
話を終えたミザさんはとても誇らしげな表情を浮かべている。
「なので、実はとても凄い方なのですよ~♪」
「うん! 抜けてるしダメダメだけど、やることはきちんとしてるね」
彼女に続いたライカさんもあれだけのことがあったというのに、何故か自分のことのように鼻高々って感じだ。
なんというか……。
人は見かけによらないよね。
楽しそうに語る二人、その間で白目を向いている公爵を見てそう思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます