第23話 初めての討伐クエストへ
――組手を始めてニ週間後。
僕は初めての討伐クエストに挑む為、じいちゃんとアイモーゼンの後ろ側に位置するシトリンゴートの生息地である山岳地帯に訪れていた。
ここに来るまでの道中でじいちゃんから聞いたことだけど、この山岳地帯のことを岩塩が発掘できる一帯ということでソルトラインと呼ぶようだ。
このソルトラインはリターニア東部と獣人の国アルフレザとの境界線の役目を担っており、山々を山頂から半分分けた東側がリターニア東部の領地、西部側がアルフレザの領地とのこと。
景色は、アイモーゼン周辺の特徴である草が生い茂る景色と打って変わり、足元はぼこぼことしており、周囲は茶色やピンク色が混じった岩肌に囲まれた山道が広がっている。
その先には、岩塩坑へ向かう道、右側には魔物が生息している道へ繋がる道があった。
岩塩坑へと続く道には、つなぎ姿をしている筋骨隆々の出稼ぎ衆おり、彼らはハンマーやタガネ、岩塩が入っているであろう麻袋を担いでいる。
――カーン、カーン。
離れた僕らにも採掘音が聞こえてくる。
作業されている人たちの種族は、人族より獣人族の方が多いようだ。
「じいちゃん、こんな所にシトリンゴートは居てるの?」
「うむ。もう少し登れば住処じゃ」
一体、どの辺に居ているんだろうか?
こんな木も生えていない岩だらけの場所だったら、すぐに見つけれそうなのに。
そんなことを思いながらも、ぼこぼこした山道を登っていく。
――しばらくして。
徐々に周囲の景色が変わり始めていた。
茶色やピンク色のぼこぼこした岩肌から、灰色の普通の岩肌へと。
ぼこぼこした岩以外、何もなかった地面には黄緑色の細い草が所々に生えている。
その草は独特な香りも放っているようで。
この辺は爽やかでもあり、少し酸っぱいような匂いが漂っていた。
「なんか不思議な匂いがするね」
「うむ、これがシトリンゴートの好物である薬草のシビレン草じゃな」
これがシビレン草なんだ。
初めてみた。
触った感じは回復草よりつるつるしているし、葉の形も細くて全く別の種類って感じだ。
「じゃあ、もうこの周辺に?」
「じゃな、もういつ出てきてもおかしくないの!」
待ちに待った討伐クエスト。
自然体で臨みたいけど、やっぱり緊張する。
「……どこから出てくるのかな」
「そう緊張せんでもよい。シトリンゴートの討伐ランクはFじゃし、今のお主ならそこまで苦労せんはずじゃ」
じいちゃんは、腰に手を当てている。
「ほ、本当に? 魔物と戦うなんて初めてだけど……」
「その何とも言えん不安は誰もが通る道じゃな! お主が憧れてる勇者も同じだったはずじゃ」
「そっか……勇者も僕と同じだったんだ」
「うむ、ただし、気を付けねばならんこともあるぞ」
気を付けないと、いけないこと……なんだろう。
当たり前のことだけど、準備を完璧にする。
魔物の特徴とか、どこが弱点とかを理解してクエストに挑むとかだろうか?
「事前に準備をしておくこと?」
「うむ、それも大事なことじゃが。それはここへ来るまでに終えておくことじゃな」
「じ、じゃあ……うーん」
「ふふっ、わからんか」
じいちゃんは得意げな顔している。
こんな反応をされると悔しいから答えたいけど。
残念なことに、じいちゃんが納得してくれそうなことが浮かばない。
「うーん……わかんない」
「正直なことは良いことじゃ! なに、そんな大した話ではない。ただ、少ない手数で素早く仕留める! それだけじゃ」
大きな手が僕の頭をわしゃわしゃと撫でてくる。
嬉しいけど、相変わらずの馬鹿力だ。
「じ、じいちゃん、ちょっと痛いよ!」
「すまん、すまん!」
魔物を早く倒すのは、当たり前のことだと思うけど、今さら何でこんなことを言ったのだろう。
「う、うん、いいけど。でも、素早くって……それくらいは僕でも知っているよ?」
「うむ……じゃな」
じいちゃんは髭を触り、何かを考えるような素振りをしている。
この何かを含むような顔……。
また僕に教えたいことがある感じだ。
「これも何かあるの?」
「さっ、どうじゃろうなー」
頭の後ろに手を回して、笑みを浮かべながら視線を合わせようとしない。
この仕草、悪巧み決定だ。
こういう時はその時が来るまで本心を言おうとしない。
「それよりも、ほれ! そこに生えているシビレン草のことも忘れんようにの」
やっぱり、言わないつもりのようだ。
「うん、忘れないようにする」
「うむ!」
悪巧みしているじいちゃんは気になるところだけど、このクエストをこなせたら周囲に生えているシビレン草も一緒に持って行くっていうのも一理ある。
とは言っても、肝心の魔物は影すら見えないんだけどね。
「うむ……気配もせんのう」
じいちゃんは周囲を見渡している。
「どうしたの、じいちゃん?」
「いや、本来であればじゃのう、この周辺にいてもおかしくはないんじゃが……もっと上に集まっておるようじゃ」
「そんなことまで、わかるの?! もしかして、それも魔法?」
「いや、これはじいちゃんの勘じゃな!」
「じいちゃんの勘?!」
「うむ! じいちゃんの勘じゃ」
ウケると思っていたのか、僕に向ける視線はいつもより刺さる感じだ。
それにやっていることが凄いので、まともにツッコむこともできない。
だけど、場所は選んでほしい。
今じゃない。
「へぇー、そっか! じいちゃんの勘かー」
「うむ。じゃから、もう少し上に行くぞ!」
じいちゃんはウケていないとすぐわかったようで、僕の顔を見ることなく、歩みを進め始めている。
「えっ!? もう、いくの」
「そ、そうじゃ、いくぞ!」
じいちゃんはウケなかったこと自体は恥ずかしかったらしい。
後ろから見てもわかるくらいに耳を赤くしている。
これで何も感じていなかったから、嫌味の一言でも言ってやろうと思ったけど。
もういっか。
「うん、わかった!」
シリトンゴートの姿が全く見えないので、もう少し上に行くことにした。
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