第50話 見つめ合う二人
この一室の入り口付近でお互いを見つめ合って言葉を交わす気配すらしていない二人。
じいちゃんとライカさんだ
この一室に来てからお互い見つめて微動だにせず、少し近寄りがたい雰囲気を醸し出していたので。
ギルド長として何か重要なお話があると思っていたのだけれど……。
どうやら違う。
ライカさんは、言葉を掛けようとしているけど、掛けることができないって感じだ。
なんとういうか、ライカさんらしくない。
ついさっきまで、秘密を守らなければ公爵であれ鉄拳制裁をお見舞いし、クノウさんのドンテツさんの二人にも変わらず拳で解決してきたというのに……。
一体、どうしたんだろう。
よく見ると顔を赤くし、頭から角も生えているし、歯もギザギザに尖っている。
でも、本人は全く気付いていない。目の前にいるじいちゃんしか見えていない感じだ。
その様子は照れている。といった表現が正しいのかも知れない。
僕の頭にあることが思い浮かぶ。
うん?
ちょっと待ってほしい……。
そういえばこの屋敷に入る前にミザさんと話をしていた。
会いたい人がいると。
いやいや……。
そんなまさか、ライカさんの会いたかった人ってじいちゃんってこと?!
え――っ! じゃ、じゃあライカさんの好きになった人って……じいちゃん?
「え――っ!? もしかして――!」
点と点が頭の中で結びついた時には、思わず声が漏らしていた。
それは当たり前のこと。
一体、どこの世界に自分のじいちゃんと姉のように慕ってした人が知り合いで。
ましてや好きな人かも知れない。
なんてことがあるのだろうか?
聞いたこともないし、普通じゃ考えられない。
というか、あんまり考えたくもない。
でも、今思えばおかしなことがたくさんあったような気もする。
例えば、この三年の間、一緒に冒険者ギルドに行ったことがないことだ。
なにかと理由をつけて、一緒に訪れることはなかった。
それにそうだ。
冒険者申請の時もそうだった。
あの時、じいちゃんは「知り合いに頼んできたから、大丈夫じゃ」なんてことも言っていた。
その知り合いがライカさんってことだったのか。
僕は、戸惑いや不満を抱きながらも、三年の間に思い当たる矛盾を思い出していく。
とはいえ、この状況を見ている皆は驚いているに違いない。
そう思った僕は周囲を見渡す。
だけど、僕以外の皆は事情を知っているのか、そのほとんどが暖かい目で見守っている。
唯一、不思議な反応を見せているのは言うまでもなく、天然のシュタイナー公爵のみだ。
「どうしたんだ? ゴードンとライカは知り合いだろう? なぜ見つめ合って話さないんだ? それに……このままではせっかく入れてもらった紅茶が冷めてしまうぞ」
全く空気の読めない言動に苦笑いを浮かべる一同。
一室の隅で控えている公爵に仕えている人たちも個性的な反応を見せていた。
執事のライトンさんは、ハンカチで額から出る汗を拭い。
その横に居るメイドのテルーさんは、笑わないように息を漏らしながらも根性で耐え。
耐えている彼女の隣に居るミーニャさんは、我慢することなく笑い転げていた。
それでも、公爵は暖かい紅茶が冷めてしまうことが気になるのか、なかなか言葉を交わそうとしない二人に声を掛けた。
「ん? 何がおかしいんだ? それより、二人ともそろそろ――」
すると、それを思わぬ人物が制止した。
公爵の隣に座るハツさんだ。
彼女は言葉を発そうとしたシュタイナー公爵の口を両手で塞ぎ、頭を横に振った。
そして、席に着いている公爵、夫人、僕に聞こえる声で呟いた。
「お父様、人の恋路を邪魔してはいけません……ここは終わるまで見守りましょう。それに普段から面倒なことを後回しにする師にはいい薬にもなります」
「ふぐ、ふぐっ」
シュタイナー公爵は、ハツさんの案に頷く。
うん? 今聞き捨てならないことを口にしたような気がする。
いや、この一室に来てから察しはついていたけど……。
やっぱり、ハツさんの師匠ってじいちゃんだよね。
うん。
ここに来てから明らかになることが多すぎる。
反応を取ることすら遅れるほどにだ。
ハツさんは、口を塞ぎ「ふごっ、ふごっ」と言っている公爵にお礼を言った。
「ありがとうございます。お父様!」
すると、その様子を微笑みながら見ていた夫人が口を開いた。
「うーん、ではどう致しましょうか? さすがにずっとあの二人を待つというわけにはいきませんしね」
「でしたら、お母様。リズに改めて自己紹介して宜しいでしょうか!?」
「うふふ、いいですよ。で・す・けどっ! 言葉遣い! リズ君を呼び捨てにしないこと。ちゃんと君をつけて下さいね」
「はい……わかりました」
自分の提案が受け入れた瞬間は、弾けるような笑顔を見せていたのに、ハツさんは夫人の指摘を受けて、しょんぼりとしている。
「ふふっ、何もそんなに落ち込まなくてもいいではありませんか」
「いえ、失礼な物言いをずっとしていたことに気づいていなかったことが申し訳なくて……」
「確かに、あなたが初対面の方に敬称をつけないなんて珍しいですね」
「は、はい! その……弟弟子だから、言葉遣いを気にすることはないと師に言われたので――」
「……ふふふ、そうですか。ゴードンさんがそう仰ったのですね。わかりました……」
夫人は、じいちゃんが言ったということ聞いた瞬間――。
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