第49話 華麗なティータイム

しばらくして。


ハツさんに連れてこられた面々は、それぞれに自己紹介を始めていた。


「先程はお見苦しいところを失礼致しました。そして、ようこそシュタイナー公爵邸へ、わたくしはライトンと申します。このシュタイナー公爵に仕えて数十年。執事という立場ですが、ここに仕えている者の取りまとめを任されております」


「私はテルーと申します。こちらで妹と共に公爵様、そしてご家族であるクオレ夫人、ハツ様のお世話させて頂いております」


「にゃにゃにゃ! ワタシはミーニャと申しますにゃ! お姉様と一緒にここにいる皆さんのお世話をしているにゃ!」


彼らは自己紹介を終えると、来客をもてなす為に用意されたであろう、ティーセットをワゴンと呼ばれる車輪のついた台で運んできた。


ワゴンを押すのはテルーさんとミーニャさんの姉妹だ。


その後ろをライトンさんが、二人の様子を伺うように付いてくる。


やっぱり公爵ということだけあって、一般のお店で見るような素材がむき出しで軽そうなワゴンではなく、綺麗な白色の布で覆われた人がもたれても倒れそうにないほどしっかりとした作りをしている感じだ。


材質もここにある家具と同様の物だと思う。


なにせ色や艶がそっくりだし、植物に対してこだわりが強い公爵のことだ。


大体の物はこの材質で揃えられている可能性が高い。


その上に置かれたティーセットはどれも若草色をしており、白色の花柄が描かれている。


そこにあるのは、大きなポットが一つ、それより少し小さなポット一つ。


丸みを帯びた拳ほどの大きさの容器が1つ。


あとは、人数分のティーカップに茶葉が入っているであろう蓋についた筒状の容れ物。


容れ物の横には、若草色で花柄が特徴の平皿。


これも人数分用意されていた。


そして、一番端には焼き立てのクッキーの入れられたバスケット。


それを取り分ける為の金属製のトングが置かれており。


ワゴンを押す二人の足元付近(布で隠されていて見えないけど、おそらく二段目)には、なぜか金属製のジョウロが白色の布の隙間から見え隠れしていた。


僕がどうして用意されたクッキーが焼き立てなのかわかるのかだけど、それは言うまでもなく植物の香りが漂う中、甘く香ばしい匂いが窓から流れ込む風に乗って僕らの元へ押し寄せてきたからだ。


ジョウロについては……。


ジョウロ……。


なぜ……用意されているのか、よくわからない。


僕が場違いでしかない、ジョウロを目で追っていると公爵が突然話し始めた。


「ふふっ、凄いだろう? このティーセットはだな。とある伝説級に珍しい植物をモチーフにした物なんだ。世界の魔力の根幹と呼ばれている神の木。別名テオブロマ カカオ リンネという植物を模した柄と色あいの物になる――」


まただ。


公爵特有の好きなことを話すときだけ別人のように流暢な語り口になる能力が発動した。


僕が受け答えをせずとも、公爵はひとりでに語り続けている。


「この話を聞いて疑問に思ったことだと思う。一体どこが伝説級に珍しいのかをだ。それを今から説明しようと思う。聞いてくれ――」


そこからしばらく本日ニ度目となる。


饒舌に天然を掛けわせた公爵の独擅場が続いた。


ただ、その話はとても面白くて僕が知らないこともたくさん散りばめられていた。


その植物はこの世界の魔力を循環させている存在らしい。


大きさは幹だけで、この公爵邸を有に超える幅をしており、花は白く実はオレンジ色から茶色などの色。


香りは甘く爽やかな匂いをしているらしい。


また大きな木以外にも、同じような役割をしている小さな木も生えているようだ。


だけど、この情報もあらゆる資料や一緒に研究をおこなっている仲間から仕入れた紙ベースのお話らしい。


あとは、エルフの国ドレイン王国にしか生息していないとのこと。


「――ということだ。凄いだろう?」


「あはは……はい。とても勉強になりました」


例の如く苦笑いを浮かべるしかできない僕に対して、公爵の後ろに居てる夫人は肩を震わせていた。


今度は僕ら二人のやり取りのどこかが夫人の何かに刺さったのだろう。


「うふっ……あなたってば! またリズ君を困らせて」


「ん? 勉強になったと喜んでいるだろう?」


天然を常時発動している公爵は置いておいて。


夫人の横に居ているハツさんも、彼女らしい反応を見せていた。目を輝かせて尊敬の眼差しを送っている。


「さすが、お父様。博識でいらっしゃる」


などと言い、艶のある黒髪を揺らしながら頷いているくらいだ。


こうやって公爵と夫人、ハツさんと話をしている間に、ライトンさんたちは淡々と準備を進めていた。


ワゴンの上にあるティーセットをテルーさん、ミーニャさんの二人でここにいる人数と合っているのかを指差しと口頭で確認し、ティーカップを切り株の机へ並べていく。


「一、ニ、三……六っと。はい! 大丈夫です」


「うにゃにゃ! 並べますにゃ!」


「ふむふむ……ちゃんと均一に乾燥できていますね」


この間に執事のライトンさんが、茶葉を取り出しカップと同じ柄をした若草色の小さなポットへと分量を確認しながら入れる。


次に同じ柄色をした大きなポットに入っている熱湯を注いでいく。


「ここからはもっと美しくスピーディーにいきますよー!」


「はい! ライトンさん」


「うにゃにゃ! 小ボス任せたにゃ」


メイドの二人の配膳が終わると、ライトンさんは流れるような動きでテルーさんとミーニャさんと入れ替わり、その手に持っていた大きなポットでお湯をそれぞれのティーカップへと注いでいき。


その間にメイドのテルーさんが手早く若草色のお皿を並べる。


わたくしも早く美しくスピーディーに!」


そんな彼女を追うように、メイドのミーニャさんが、バスケットに入っているクッキーを、トングを用いて並べられたお皿へ取り分けていく。


「うにゃにゃー! お姉様に負けていられないにゃ!」


執事のライトンさんは、それを確認すると目にもとまらぬスピードでワゴンを操作しお湯をジョウロの中へ回収してまわった。


ジョウロの説明はなかったけど、たぶんあのお湯を植物にあげる気なのだろう。


もうわざわざ聞く必要もない。


僕がジョウロに気を取られている間にも、ライトンさんは動きを止めない。


「ほほほ! では、もう一段階ギアをあげますよ!」


今度は、小さめのポットで蒸らしていたお茶を注いでいく。


周囲にクッキーの香ばしい匂いと紅茶の爽やかなでも芳醇な香りが漂う。


温められたティーカップが冷める暇もなく、机へと用意されていた全ての物に注ぎ入れ終わっていた。


「フィニュッシュです!」


「さすがです、ライトンさん」


「にゃにゃ! さすが小ボス!」


ライトンさんは背筋を正し決め顔をしていた。


それを拍手で迎えるテルーさんとミーニャさん。


そして、彼らは何事もなかったかのように咳払いをし、僕らを席へと案内してくれた。


「ささっ、皆様どうぞ!」


無駄動きなんて一切ない。一糸乱れぬ感動するほどの連携だった。


だったと思う。


かなり個性的ではあるけど……。


だけど、またそんな事よりも気になるというかおかしな光景を目の当たりした。

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