第48話 大騒動
周囲も様々な反応を見せていた。
まずは、僕らのイザコザなど関係ないと言わんばかりに、未だにスレイプニルの悪態について話し続けるじいちゃん。
そして、それを止めようか止めまいかで悩んでいる素振りを見せている執事のライトンさん、メイドのテルーさんに、ミーニャさんのガラスの向こう側の一行。
正確には声を掛けてはいるけど、じいちゃんのバカデカい声にかき消されているというのが正しい表現だと思う。
僕が三人の様子を見ていると、ライトンさんは綺麗にセットした白髪交じりの髪を乱す勢いで、じいちゃんが持っている大きなハサミに手を掛けた。
ガラスの向こう側で、とんでもないことが起きているんだけど、無音だから誰にも伝わっていない。
なんとういうか……。
あっちもあっちで大変そうだ。
だけど、それにすらじいちゃんは気づいていない様子だ。
さすが、じいちゃん。
自分の話が聞こえていると思っているのか他のことには見向きもしない。
僕らがじいちゃんとライトンさんの動きに気を取られていると、その後ろいるメイドの二人がガーデニングが終わったであろう、四角形に整えられた僕の頭の高さほどある木の後ろへと身を隠した。
ガラス越しから見ても、獣人特有の耳が木の上から四つ見えているのでわかる。
というか、本当に今更だけど、ここの屋敷に仕えているあの三人は執事のライトンさんが人族の男性で、テルーさんとミーニャさんは双子の獣人族らしい。
テルーさんたちの容姿は小麦色の毛並み、瞳も小麦色に近い色をしており、頬には髭が左右に三本ずつ生えている小柄の姉妹だ。
とにかく、その三人はガラスの向こう側で必死に自分たちの役目をこなそうと奮闘している。
たぶん、じいちゃんから庭仕事用の大きなハサミを取り返す為に。
こちらからでは声が聞こえてこないので、よくわからないけど、ライトンさんが指示を出してテルーさんとミーニャさんが、その指示を実行するといった感じだろうか。
だけど、この判断は正しいと思う。
じいちゃん相手に油断をするのは本当によくない。
どうあっても最悪のケースを想像しておくべきだ。
そんな対じいちゃんについては、ガラス越しの三人に任せるとして。
問題はこっちだ。
僕の周辺は、ピリついた雰囲気が漂っていた。
公爵は「うーん……」と頭に手を置いて悩んでいるし、夫人は呆れて物が言えないって感じだし、公爵の隣にいるハツさんも夫人の顔色をうかがってだんまりを決め込んでいるし。
あれ? そういえばライカさんは?
周囲を見渡す。
だけど、ライカさんの姿が見当たらない。
じいちゃんが現れてから、笑い声が聞こえなくなったと思ったら、この場所にいないようだ。
一体、どこにいったのだろう?
僕が姿を消したライカさんの事が気になって周囲を見渡していると、未だに思い悩んでいる公爵に夫人が促す。
「だが……なんですか?」
「なぜ、そこまで怒っているかわからなくてだな……」
良かった。
突然、姿を消したライカさんのことは気になるけど。
天然全開の公爵も夫人が怒っていることには気づいていたようだ。
これでやっと、やっと! ここでのよくわからないイザコザは鎮火する。
うん………あれ? 良かったのかな?
なにも解決していない気もする……。
ま、でも、いっか!
思いが通じたようだし、あんまり考え過ぎるのもよくない。
これは僕の悪い癖だ。
考えるのも放棄した僕と同じように夫人も諦めていた。
「……わかりました。ちゃんと説明致しますね」
「ああ、すまないな……」
「ふぅ……ふふっ、大丈夫ですよ」
夫人は、申し訳無さそうに頭を下げるシュタイナー公爵に溜め息をついていた。
でも、呆れたとは少し違う感じだ。
その様子を見てなにやら微笑んでいる。
すると、夫人はこの場を仕切り直すように咳払いをした。
「コホン! まず、その前に……ハツお願いがあります」
「は、はい! お母様、なんでしょうか?」
「未だにこちらの状況に気付かず、とても大きな声でずぅーと話し続けている御人をこちらへ案内してあげて下さい。あのままではライトン達が可哀想です」
さすがは夫人。
じいちゃんやシュタイナー公爵とは違いこんなよくわからない状況の中でも、周りを見ていたようだ。
「も、もちろんです! では行って参ります」
「はい、宜しくお願い致しますね。その周辺にライカも居ると思いますので」
「はーい! そちらもお任せ下さーい」
そして、ハツさんはガラスの向こう側にいる一行と理由はよくわからないけど、外へ向かったライカさんを連れ戻しに行った。
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