第41話 フード姿の使い手

二人はよほど、その出来事が脳裏に焼き付いているようで、冒険譚を聞いた子供のように楽しそうな声色で話を続けていた。


夢中になり過ぎておそらくだけど、僕らの存在にすら気付いていない。


「そうだろ? でも、よくわからないもう一人も凄かったなー」


「あれか……。ありえない速さで空中を飛び回っていた人影だろ?」


「そうそう! 正直あっちの方が何が起きたかわかんなかったなー」


「間違いないな、速すぎだしな」


「イシシ、そうだよな! それによぉ、音が鳴ったと思ったら魔物が吹き飛んでいるんだから!」


「ああ、俺らが駆けつけた時にはもう事は済んでいたからな」


「イシッ、だよなー。ギルドにあんな秘蔵っ子いたのかよー。ってなったわ」


「それは俺もだ」


「しかも俺らにはなんもできなかったからなー」


「違いない。Aランク三人が駆けつけても見るだけとはなんとも歯痒い」


「だなー。しかも、あの後ランスの旦那に聞いたらギルド所属じゃないとか言ってたしなー」


「ああ、それを聞いて己の未熟さを痛感した」


「だよなー。あ、でもランスの旦那はなんか知ってるクサかったけどなー」


「そうだな……だが、それはこっちから聞くことでもないだろう。あの人のことだ。必要な時がくれば教えてくれる」


「イシシッ、それもそうだなー」


その会話によると彼ら二人はAランク冒険者なようで、ランスさんもその場にいたらしい。


さすがは、ランスさん。


他のクエストがあるから~とか言いながらも、しっかりと抑えるところは押さえる冒険者の鏡だ。


でも、この話によると彼らは活躍する機会がなかったらしい。


僕の横でライカさんとミザさんに抱えられているシュタイナー公爵ともう一人の使い手のおかげで。


だけど、その使い手はとても素早い上にフードを被ってようで、姿をはっきり見れた人はいなかったようだ。


少し気になることがあるとすれば、二人が口を揃えて言っていることかも。


空中を縦横無尽に駆け回り上空から拳を振り降ろすと魔物が吹き飛んでいたとか……。


オレンジ色の炎魔法を使用していたなど。


僕はこの特徴を持っている人を知っている。


じいちゃんだ。


とはいっても、スレイプニルの散歩をしているはずだし、じいちゃんより、凄い魔力操作だったし、いくらじいちゃんといっても数百を超えるシトリンゴートを相手にするのは厳しいと思う。


まぁ、自分の目で直接見たわけじゃないので、なんとも言えないけど、ランスさんたちが草原に居たということは、あの時の判断(ライカさんを信じたこと)も正しかったということが改めて証明された。


ただ、それが姿を変える理由にはならないような気もするんだよね。


なにもわからない中での予想でしかないので、なんの根拠もないんだけど。


僕の隣にいるライカさんはこの話に興味があるらしく黙って聞き耳を立てており、気絶している公爵を挟み、その隣にいるミザさんも絵に描いたように手を耳に当てて聞き耳を立てていた。


だけど、不思議に思っている僕とは違い二人とも事情を知っているのかライカさんは少し怒っている? ミザさんは楽しそうな? 顔をしている。


ライカさんの頭からは、徐々に角が出始めていた。


ミザさんはその姿を見て「ライカちゃん、ライカちゃん!」と名前を呼びながら注意をしているけど、この光景自体が面白いのか笑いを堪えている。


僕はそんなおかしな状況に突っ込みたくなっていた。


だけど、もう突っ込まないと決めたし、もし突っ込んでしまったら永遠ループしてしまいそうなので、再び冒険者たちの話に耳を傾けることにした。


「あ、でもこれって口外禁止だったっけ?」


「そうだが、ここには誰も来ないだろ」


「イシシ、そうだな。ここに来る人なんて滅多にいないわな」


「ああ」


「でも、俺らみたいなのが、お礼に伺っても大丈夫か? 正直なところ行きたくないだけどなー」


「いや、俺も行きたくはない。だが、ランスさんに頼まれてしまっては断れない」


「イシッ、違いないな。オイラ達三羽烏のリーダーだしなー。それに実際公爵には助けてもらったしなー」


「だろう?」


「だなー」


話を聞く限り彼らはギルトからの使いでしかも、ランスさんとパーティを組んでいる人たちのようだ。


でも、正体不明の使い手については口外禁止らしい。


確かに、この地方の領主であるシュタイナー公爵ならまだしも、正体不明の誰かが助けてくれたなど、噂になれば事態の収拾がつかなくだろう。


その上、Aランク冒険者が三人もいて見ているだけだったとなるとますます問題が大きくなるだろうし、きっと、その正体を特定する為にギルドへ押しかけてきたり、色々と噂が噂を呼んだりして、ギルドが機能していないなどの話になりかねない。


だから、口外禁止としたギルドの通達も理解できる。


ただ、今僕らの後ろで起きているように人の口に蓋をすることなんてほぼ不可能に近いので、逆恨みしている貴族へ知れ渡るのは時間の問題だろう。


もしかしたら、この事を話したことがライカさんの琴線に触れたのかも知れない。


短い期間で色々なことが起こったせいで、忘れてしまいそうなるけど、彼女はギルド職員だ。


すると、冒険者の二人は話の盛り上がりが落ち着いたようで、先を歩く僕らに気付いた。


「イシシシッ! おい、噂をすれば公爵がいるぞ」


「……本当だな」


「それに、他にも誰か居るぞ?」


「確かに……話を聞かれたか?」


「どうだろなー。けど、まぁあんだけべらべら喋ってたら誰だって聞き耳を立てるわなー。イシシシッ」


「喋っていたのは、俺だけじゃないだろう……」


「別に俺はお前だとは言ってないぞー。まぁ、たださっき誰もいないって言ってたのになーとは思うけどな」


「いや……あれはあくまでも可能性の話だ」


「イシシシッ、まぁ俺はどっちでいいけどなー」


そんな二人のやり取りを受けて僕らは振り返った。


すると、そこには冒険者の格好をした見覚えのある二人組が立っていた。


一人は斧を担いでいる恰幅のいいドワーフ族の男性。


もう一人は、身動きの取りやすそうな格好に鼻まで隠した姿が印象的な赤毛の男性だ。


二人とも、僕がこの町に訪れた時に声を掛けてくれたあの日以来会うことがなかった優しい人たちだ。


名前は確か……。


ドワーフの男性がドンテツさん。


赤毛の男性がクノウさんだったと思う。


彼らのその手には、それぞれ黒色の筒一つと手触りの良さそうな小包み一つあった。


屋敷に訪れた理由からして、感謝状とお礼の品だろうか?


そんなドンテツさんとクノウさんは、僕らの顔見るなり駆け寄ってきた。


近くに来た二人の顔は強張っている。


無理もない。


気絶しているとはいえ、三代公爵の一人シュタイナー公爵だ。


きっと緊張しているに違いない。


僕だって、あの一見(ライカさんとミザさんとのやり取り)を目の当たりにしていなかったら、ガチガチに緊張していたはずだ。


きっと……。


いやたぶん……。


おそらく……。


わからないけどそうだと思う。

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