第30話 Cランク冒険者パーティ銀の牙狼

ヤクモさんから、串焼きを手渡してもらった僕とライカさんは食べながら、冒険者ギルドのある大通りを歩いていた。


お昼という時間帯もあり、屋台通りに向かう人が多い。


もちろん、ここまで多さは目にしたことはないから、魔物の異常発生も影響しているんだと思う。


もう少し遅くギルドを出ていたら、この人波に揉まれながら、進まないといけなかったかも知れない。


そうなると、ライカさんの休憩時間中に食べることは出来なかったかも……。


タイミングが重ならなくて良かったよね。


なんて思いながらも、僕はライカさんと会話を楽しんでいた。


すると、町の入口の方から冒険者らしい格好をした二人組が血相を変えて僕らの元へ走ってきた。


僕は目を凝らす。


一人は真っ黒の髪に短髪姿が特徴のCランク冒険者、ロイドさんだ。


ロイドさんは僕とライカさんの行きつけである、ポンジュパイが名物のルージュ店主、ミザさんの旦那さんで、性格は正義感が強く、幼い僕が冒険者になったことを気にかけてくれている優しい人だけど、どこかぶっ飛んでいる天然な人。


その左隣にいるのは、ロイドさんとツーマンセルパーティ”銀の牙狼”を組んでいるギルツさん。


ギルツさんは茶色の長髪に赤いバンダナを巻いているCランク冒険者で、性格は言葉遣いこそ悪いけど、困った人がいれば率先して助けに行く熱血漢でお人好しな人物。


実際、暇してるからという理由+ロイドさんの天然発言のせいで一緒に薬草採取を手伝ってくれたこともあった――。




☆☆☆




――あれは冒険者になって、僕が二ヶ月ほど経ったある日の午後。


この日はライカさんの仕事が立て込んでいたので、クエストの受注を終えた僕は一人で屋台通りに訪れていた。


ちなみにだけど、銀の牙狼というパーティ名は二人が腰に携えている武器が由来だったりする。


その武器はシルバーファングというCランクの魔物の牙を加工した腕の長さ程の剣だ。


ここで、いつものようにシトリンゴートの串焼きを食べていると銀の牙狼の二人と出会った。


『あ、ロイドさんこんにちは!』


僕が先に挨拶をする。


それにロイドさんは手を挙げて応じてきた。


『よう、リズ! お前が一人で居るなんて珍しいな。今日はライカさんと一緒じゃないのか?』


ロイドさんは、物珍しそうに見つめてくる。


だけど、その通りで僕が一人で屋台通りにいることは珍しい。


特にこのお昼の時間帯ともなると、九割方ライカさんが隣にいるからだ。


ロイドさんと会話していたら、ギルツさんが串焼き片手に歩いてきた。


『おいおい! コイツだって小さくても男だぜ? そんな毎回毎回女とベッタリしてらんねぇっての!』


ギルツさんは、串焼きを頬張りながら文句とは少し違うけど、棘のある言葉を投げかける。


ロイドさんは、それを呆れた顔で受け取り、ため息まじりで返した。


『はぁ……お前はそういうことを言うから、見てくれが良くても未だに結婚できないんだぞ?』


『へいへーい、結婚されてる方の一言はやっぱ重さが違いますねー。ま、俺は独身で十分幸せですけどー』


『ギルツお前なぁ……俺はお前の事を心配してだな……』


『ってるよ! てかお前は俺の親かよ! 毎回毎回、結婚とか言いやがって!』


『親……か。そう言われるとそんな気もするな』


『いや、冗談だから! マジになんなっての!』


『そうなのか? わかりにくい冗談は止めてくれ』


『ふぅ……わかりにくいことじゃねぇだろ……どこの時代に自分の相棒を親だって本気で言うやつがいんだよ!』


『いや、いるだろ。ここに』


『っはぁー、そういう意味じゃねぇよ! ちょっとイライラしてきたわ!』


『ギルツ……そうやって何でも苛つくからだめなんだ……』


『あーもう! うっせぇ! わかったわかった! 俺が悪かった』


『いや、だめだ! そういう態度が良くないんだ』


大体、二人一緒に居るとまるで親のようにロイドさんがギルツさんの私生活について注意し、ロイドさんの言葉を受けたギルツさんは、面倒くさそうな表情をして頭を抱えていた。


自分から撒いた種なんだけど、毎回結婚に結びつけるロイドさんもなかなかだよね。


そして、こうなると僕が自主的に会話へ参加できる隙もないのだ。


『はぁ……じゃあどうしろっての……おい、リズ。お前からもなんか言ってやってくれ!』


『あはは、そうですね……」


僕は、困り果てているギルツさんに背中を押される形で、ロイドさんの前に立った。


『じ、じゃあ――』


『んっ? 俺に何か言いたいことがあるのか?』


ロイドさんは、指摘されるようなところに心当たりがないようで、いつも通り不思議そうな表情を浮かべている。


どうやったら伝わるのかな?

でも、ロイドさんには悪気はないし。


ただ、ギルツさんを思ってのことなんだよね。

難しい……。


『あ、いやギルツさんも色々とわかってるみたいなので、もう少し……』


『もう少し?』


『あ、はい。もう少し優しくしてもいいんじゃないかなーと思いました……』


僕がロイドさんにそれとなくアドバイスをすると、それを聞いていたギルツさんが手招きしてきた。


『ぉい……ちょいちょい』


近付いた僕にギルツさんは小声で話し掛ける。


『ぇっ……はい、なんですか?』


同じように小声で応じる。


これは、未だにアドバイスを受けて考え込むロイドさんに聞こえないようにする為だ。


まぁ、腕を組みながら目を閉じて悩んでいる姿を見る限り、普通に喋っても気付かなそうだけど。


『あれじゃ、通じてねぇぞ』


『わかっています……言いながら、僕も思いました。でも、他に何か言えますか?』


僕が未だに思い悩んでいる様子のロイドさんへと視線を向ける。


『優しく……優しくか……うーん』


それに呼応してギルツさんも向けた。


『い、いや……言えねぇな』


ギルツさんは頭を抱える。


それは当然のことだと思う。


謝ったら、その態度は違うと言われ、子供(自分で言うのも何だけど)に優しくした方がいいと言われてもピンとこないのだから。


『ですよね』


『……おう、なんか。アイツ相手に悩んでんのが馬鹿らしくなってきたわ……』


『そうですね……ロイドさんには悪気はありませんしね』


『ああ、そうだな……もう止めておくわ』


すると、ロイドさんが突然大声を上げた。


『優しくか……わかったぞ!』


『うわっ!?』


僕は突然聞こえた大声にびっくりしてしまい尻餅をつく。


『お、おい! 急に大声出すのは、やめろっての! リズなんて転んじまってんじゃねぇか!』


『お、おう、すまんな! 大丈夫か?』


ロイドさんは、申し訳無さそうな表情を浮かべながら、僕へと手を差し出す。


『あ、いえちょっとびっくりしただけなので……』


僕がその手を取り立ち上がると、それを待っていたように、ギルツさんがロイドさんへ話し掛けた。


『んで? 何がわかったんだ?』


『あ、それは優しくするということをだ』


『いやいや、話が見えねぇな……』


『リズが言ったじゃないか、お前にもっと優しくすればお前が結婚出来るって』


『はぁ……どんな拡大解釈をすればそうなんだよっ! 一周回って才能に思えてきたぜ……』


『ん? そう言ってただろう?』


『わかったわかった! それでいいから、早くお前の考えを言ってくれ!』


ギルツさんは目頭を抑えて呆れている。


最初こそロイドさんの意見を否定しちゃんと自分の意見を伝えていたけど。


結局、ロイドさんの熱意と天然発言に根負けして言うことを聞く流れになろうとしていた。


いつものように。


『それはだな……リズの手伝いをすることだ』


『もう突っ込まないぞ! 取りあえず手伝いをすりゃいいんだろ……いいぜ』


『ふふっ、わかっているじゃないか!』


『いや、わかってるもくそもねぇだろ……』


『ん? 何か言ったか?』


『なんもねぇよ!』


『ふふっ、そうか! リズもそれでいいか?』


『えっ!? あ、はい』


そして、その後。


いつもの流れであるロイドさんの言う事を聞くことになり、銀の牙狼が僕のクエストを手伝ってくれることになった。


ただ、その後のロイドさん言い分では、ギルツさんがいつも討伐クエストばかりで疲れていると思ったらしい。


だから、息抜きと人助け込みで僕の採取クエストを手伝うことを思いついたようだ。


それに疲れていなければ、結婚のことも前向きに考えてくれるだろうという考えにも至ったのこと。


結局、結婚に結びついてしまう、ロイドさんの天然発言は置いておいて……。


一緒にこなしてくれたギルツさんは『どうせ暇だしな』と口を尖らさながらも、誰よりも必死になって薬草を探してくれた。

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