第26話 異常発生

――翌日早朝。



アイモーゼンの大通り。



この時間帯には、商品の納品に来た行商人、お店の開店作業を勤しむ店員やソルトラインに向かう、つなぎ姿の獣人族、人族の人たちがぞろぞろと街中を歩いていく。


そんな中、僕は一人で冒険者ギルドへと歩みを進めていた。


なんでこうなったのかを纏めて話すと、前日じいちゃんに背負われた僕は討伐クエストをこなした疲労でいつの間にか夢の中へ。


そして、起きたら翌朝となっており、じいちゃんの姿はなかったのだ。


宿屋の女将さんであるハイカさんに伝言だけを残して。


伝言の内容は、主に二つ。


今日の修行は休みということ。

じいちゃんは、スレイプニルと朝の散歩に行ってくるということだ。


修行を休みにした理由は、何となく想像がつく。


たぶん、疲れて寝ていた僕を気遣ってくれたんだと思う。


敢えて自分の口から言わないっていうのもじいちゃんらしい。


ただ、もう一つが意外だった。


まさか、空いた時間にスレイプニルと散歩へ行くなんて思いもしなかった。


そもそも、二人で散歩って……。


草原で地団駄を踏むじいちゃんと、鼻息を鳴らすスレイプニルしか想像できない。


たぶん、手綱を引こうとも動かなかったり、じいちゃんの言葉に耳を傾けなかったりとか?


あとは、道草を食べるのに必死とかって感じだろうか。


それにイライラしたじいちゃんが声を荒げる。

でも、スレイプニルはそっぽを向いて言うこと聞かない。


その繰り返しって感じだよね。


どうしよう。


僕の想像通りになっていたら、意思の疎通すら取れていないような……。


なんか心配になってきた。


散歩しているじいちゃん達に合流すべきかな?


それが終わってから、クエストを受注するっていう流れでも問題ないし……。


うーん、でも今は自分のことだよね。


二人とも、僕が居ない時は一緒に旅をしていたんだろうし。


じいちゃんも好きに過ごせるようにと気遣ってくれたわけだし。


そんなことを考えながら、歩いているとギルドの前に着いた。




☆☆☆




冒険者ギルド内。



あれ? なんだ? いつもより人が多い。


ギルド内は、何故だかわからないけど、かなり賑わっている感じだ。


色々な種族の冒険者がクエストを受注しようとクエストボードの前に列を成している。


しかも、その列は今僕がいる入口付近まで続いていた。


これじゃ当分は進めそうにない。


どうしようかな……。

一度宿屋に戻ろうかな?

いや、心配なじいちゃんとスレイプニルの元へ行くっていうのもありだと思うけど。



――色々と考えた結果。



この状況に仕方なく僕も列に並ぶことにした。


さすがに、昼過ぎには受けることくらいはできるだろうしね。


それにしても、この先で一体に何が起きているのだろう。


クエストボードに何か特殊なクエストでも張り出されているとか?


もしくは冒険者同士で喧嘩とかしていたりして……。


でも、それならここまで人がごった返すことはない気もする。


というか、喧嘩や騒動が起きた時点で、ギルド自体が入場規制などをするはず。


あくまで僕の考えではだけど。


こんな僕の考えでなくて、誰かに本当の事を教えてもらいたいんだけど。


こういう時、頼りになるじいちゃんは、スレイプニルと散歩中。


えーっと他に知っている冒険者の人は……。


周囲を見渡す。


どうやら近くに見知った顔の冒険者もいない。


もしかしたら、皆もうクエストを受注しているのかも。

ありえなくもないよね。

これだけ大騒ぎになっているんだから。


すると、目の前で並んでいる皮の装備で統一した軽装備の冒険者二人組が会話をし始めた。


「それにしても町の近辺で異常発生とはなー」


「ああ、よくわからないが、俺もその話を耳にして駆けつけたぜ! シトリンなんちゃらって魔物だろ?」


「はははっ、なんちゃらじゃないって! シトリンゴートだって! シトリンゴート!」


この会話からすると、このアイモーゼンの町付近でシトリンゴートが異常発生しているらしい。


どうりで、見慣れない冒険者ばかりなわけだ。


たぶん、彼らは行商人づてとかで噂を仕入れたりして、この町へ訪れたのだろう。


それを裏付けるように他の冒険者達からも「せっかく町に来たんだから〜」とか「今が稼ぎ時」などの言葉が飛び交っていた。


どうしよう、この流れでクエストだけでも受けるべきかな?


だけど、異常発生か……。


いくら経験を積むにしても、僕の実力を遥かに上回るものだよね。


お金を稼ぐって意味合いだけなら、いい収入にはなるけど。


となると、やっぱり受けた方がいいような気もしないでもないような。


いや、でもやっぱり受けることは止めよう。


一週間前に学んだはずだ。


奪う覚悟と命を掛ける覚悟が必要だと。


正直、まだ今の僕じゃ何十頭も相手にそんな気持ちを保てる自信がないし。


そんなことを思いながら列に並んでいると、向かいから見慣れた人影が近づいてきた。

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