第21話 三年後
――三年後、僕が九歳になった年。
僕は変わらず修行をしている。
修行の内容は、三年前から進み、自分の中にある魔力の塊(出処)を体全体へ広げる(魔力を纏う)修行をするまでになっていた。
今や座らなくても目を閉じなくても問題ない。
もちろん採取クエストも日々こなしている。
午前中にじいちゃんとの修行を終えてから、平均で一日ニ件から三件ほど。
時間が掛かり上に、そんなに稼げない採取クエストをここまでこなす人は珍しいようだ。
だけど、そのおかげで冒険者ランクはGからEランクへとランクアップした。
他にも、この三年間で変わったことがある。
それは、僕を取り囲む人たちの変化だ。
三年前、僕の傍にはじいちゃんとスレイプニルにしかいなかったけど。
今では、この町に住まうほとんどの人が顔見知りで、僕が街を歩いているだけで声を掛けてくれるようになった。
例えば、冒険者の皆と一緒にクエストをこなしたり、受付嬢をしているライカさんとポンジュのパイが名物の【ルージュ】へ行き、そこで知り合った人と友達になったりなど。
他にも、シトリンゴートの串焼き屋台の店主であるヤクモさんや、宿屋の女将であるハイカさんと他愛のない話もしている。
冒険を始めた時とは雲泥の差だと思う。
まだ、じいちゃんから討伐クエストの許可は出ていないけど……。
☆☆☆
――そんなある日。
アイモーゼン付近の心地よい風が吹き抜ける木陰の下。
ここで僕はいつも通りじいちゃんと修行していた。
「ふぅ……すぅー、よし!」
うん、手を見る感じではじいちゃんと比べても同じくらいの魔力を纏えている。
色は僕が宿している魔力が水属性なので青色だ。
その様子を正面から見ていたじいちゃんは、嬉しそうな表情をしていた。
「うむ、もう纏うのは問題なしじゃの!」
「うん、ここまでは大丈夫かな!」
実は留めるっていうのも、動かずに座って集中していればできるしね。
「じゃな、それに留めるのもある程度までできるじゃろう?」
心を読まれたようなタイミング。
というか、いつ見られたんだろう? 気付かれないように、採取クエストの合間とか修行をしていたのに。
「えっ?! なんで知ってるの?」
「ガハハハ、気付かんわけがないじゃろ! お主が一件の採取クエストを達成するのに、丸一日も掛かるわけがないのじゃから」
「バレてたんだ……」
「うむ、バレバレじゃな! それに町のみなもお主がどこ行ったすぐ言うからのう」
「あはは……」
そういうことか。
またじいちゃんの鋭いか鈍いのかわからない感が働いたのかと思ったけど、今回は町の人たちが原因のようだ。
――パンッ!
じいちゃんがその場を仕切り直すように手を鳴らした。
「――ということでじゃ、次はワシと組み手をしてもらう」
「えっ? 組手!?」
「そうじゃ、組手じゃ!」
じいちゃんは嬉しそうに拳を突き出している。
「僕とじいちゃんが?!」
「うむ、そうじゃ! ん? ワシ相手じゃと不満か?」
「ち、違うよ!」
「それなら、なんじゃ?」
「いくらなんでも体格が違いすぎて無理だよ!」
また変なことを言い始めた。
じいちゃんが冒険者をやっていたことは知っている。
だけど、嬉しそうな顔にあの図体×常識外れ……嫌な予感しかしない。
「ガハハハ、そんな顔をするでない!」
「いやだって、どう考えても無理だと思うし」
「まだ考えただけじゃろう? 何でもやってみんとな!」
「うーん、そうだけど……」
「ま、観念してさっさと準備をせい――あ、そうじゃ! これをお主に」
じいちゃんが差し出してきたのは、黒のブーツと同じ素材っぽい艶のある皮製の籠手。
サイズや形からして僕の為に用意されたように感じる。
「これは?」
「偶然、偶然なんじゃが。大通りで良い物を見つけての」
「ふーん、偶然なんだ? 本当に……」
絶対、偶然じゃない。
こっちを見てくれないし、耳は赤いし。
きっと僕の為に買ってきてくれたんだろう。
もしかしたら、武器屋で頼んだりしたのかもしれない。
僕の視線に耐え切れなくなってきたのか、じいちゃんは口を開いた。
と言っても、そっぽを向いたままだ。
「ま、まぁ……あれじゃな、頑張っておったしプレゼントみたいなもんかのう」
「ありがとう! じいちゃん」
「う、うむ」
やっぱり用意してくれていたんだ。
こんなを用意されてたら頑張るしかない。
よし、さっそく
「うん、ピッタリ!」
「いい感じじゃの」
「じいちゃんがプレゼントしてくれたからね!」
「う、うむ!」
「ふふっ、じゃあお願いします!」
「任せい!」
こうして、次の修行である組手を耳の赤いじいちゃんとすることになった。
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