第17話 魔法
話を終えたじいちゃんは、少し重苦しくなった雰囲気を変える為なのか、大袈裟な反応をしていた。
「あぁーー!! そうじゃったーっ!! まず魔法を見せんとな! ワシったら、ドジっ子っ♪」
でっかい体で上下に揺れ、頭を抱えたり、舌を出したりしている。
これがもし僕を気遣ってのことなら、ありがたいけど、大柄で筋肉質の髭面じいちゃんが舌を出して「ワシったら、ドジっ子♪」と言われる孫の気持ちも考えてほしい。
さっきまで、抱いていたじいちゃんを尊敬する気持ちがどこかに行ってしまいそうだし、開いた口が塞がらない。
そんな僕の反応に焦ったのか「よ、よぉーし! ちょっとそこで見ておれ!」と言い木陰の前から駆け足で少し離れた。
そして、振り向き視線が合うと右の掌を前に出し上へと向ける。
「では、ゆくぞーっ!」
――その瞬間。
じいちゃんの右手から「ブォォォオッ!」と、いきなり炎が発現した。
赤く荒れ狂うような激しい炎の柱。
同時に周囲へ肌がヒリつくような熱風が広がる。
「凄い……」
熱いけど、魔法ってこんなに迫力満点なんだ。
やっぱり、かっこいい。
そういえば、スレイプニルは大丈夫かな。
動物って炎とか見ると怖がるって聞いたことがあるけど。
僕は木陰の方へと視線を向けた。
「スレイプニル大丈夫?」
そこで彼は涼しい顔でたてがみを揺らしていた。
目の前の魔法に見向きもしない。
まるで、この光景を何度も見て来たと言わんばかりの態度だ。
僕の声に短く返事をしたと思えば立ち上がり、目の前に広がる新鮮な草をムシャムシャと食べ始めた。
「ふふっ、大丈夫みたいだね」
なんていうか、じいちゃんと旅をしているだけあって、肝が座っているよね。
普通の馬なら突然出てきた炎柱にびっくりして走り出すのが当然の反応だろうけど。
ますます不思議な馬だ。
そんな事を考えている内に、勢いよく出た炎柱は徐々に小さくなっていく。
じいちゃんは、炎柱が掌に収まるくらいの大きさになるとこちらの方へ戻ってきた。
「ふふっ! びっくりしたか? これが魔法じゃ!」
「うん……びっくりした! キレイだね……」
今は熱くないし、触っても大丈夫そうな気もする。
色も赤色から、オレンジ色に変わってるし、熱いというよりは、暖かいって感じだ。
見れば見るほど、凄いという言葉しか出てこない。
じいちゃんの掌には、炎を保ち続けるような(燃える物)があるわけでもないのに消えない。
仕組みはわからないけど、じいちゃんの意志によって魔法を変化させているのだろう。
これは、僕にできるかな。
やっぱり、欠乏症があると難しいのかな。
「じいちゃん、これって僕にも出来る?」
「そうじゃなぁ……残念ながら、まだお主には早い」
「うーん……早いってどういうこと?」
「ああ、それはじゃな。先程見せた技術がこの魔法を発現するのに必要となってくるからじゃ」
「それじゃ、さっき見せてくれた二つの事が出来ないと、今じいちゃんがやったみたいな魔法は使えないってこと?」
「うむ。使えないというよりは、使わんほうがいいというのが正直なところじゃな。
特にお主の場合は、魔力欠乏症じゃから今やった魔法の発現よりも魔力を留めることの方が大切になってくるからのう。
それに、この二つが出来たからと言って魔法を発現出来るわけではない。魔法の発現にも順番がある」
じいちゃんの話を聞いたせいで混乱していた。
話し方からして僕に伝わるよう何とか言葉を噛み砕いてくれているのは感じるけど。
そのせいで周りに回って難しくなっているような気もする。
よし、いくら考えても、わからないものはわからない。
もう一回聞こう。
僕は散らかった頭の中を整理する為、もう一度じいちゃんへ聞くことにした。
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