第10話 冒険者ギルドへ

登録条件を明かされプレートを受け取った後――。



結局、僕とじいちゃんはギルドへ行くべき行かなくていいの押し問答を繰り返しながら町へと戻ってきていた。


「本当に行くんじゃな?」


「だって、クエストとかどうするの?」


いや、本当にどうするつもりなんだろう。


登録まで終わっていたとしても、肝心のクエストを受けるには、本人である僕が行かないとダメだって誰でもわかることだというのに。


もっとな意見を聞いたことで、じいちゃんは歩みを止めてその場で考え込み始めた。


「うむ、確かに……そうじゃな……」


じいちゃんは俯向いたり、髭を触ったりしている。


「でしょ?」


「うむ……」


それでも煮え切らない態度を取るので、僕は核心をつくことにした。


「なんで、そんなに冒険者ギルドに行きたくないの?」


「いや、それはあれじゃ……会いたくないヤツがおるんじゃ」


「でも、僕の手続きをしてくれた人もいるのでしょ?」


「うむ……」


「じゃあ、行ってその人にお礼くらい言わないとダメじゃないの?」


「むぅ……では、行くだけいく! その後はその時考えるわい」


僕の言葉に少し思うことがあったのか、じいちゃんはそっぽを向きながらも再び歩き始めた。


とはいえ、その態度に出ているように納得しているわけではなく。


正しいこと言われて反論出来なかったからだ。


いつもは馬鹿でかい声で喋り笑うのに、今回はすぐ後ろ歩く僕に微かに聞こえるくらいの大きさで独り言を呟いていた。


「……ワシだって……てるもん」


背中は丸めるてるし、指もつんつんしてるし、全部聞こえなくても、大体何を言ってるのかわかる。


じいちゃんは、ただいじけているだけだ。


なんというか、これじゃどっちが子供なのかわからない……。


こうなると聞く耳を持たないし、落ち込みやすくなるので、放置するのが一番だ。


僕はこの状態のままとんがり帽子のような屋根した赤煉瓦の建物が建ち並ぶ街中を進んでいく。


「じいちゃん、いくよ」


「う、うむ……」


横に居たじいちゃんは後ろへと移動し、僕が先を歩く。


街中から、大通りへと。


更に屋台がひしめき合う大通りを通り過ぎていく。


すると、ようやく踏ん切りがついたのか、じいちゃんが足を止めた。


「決めた! やはり、ワシはギルドの前までにしておく」


「それでいいの? お礼は?」


「うむ、大丈夫じゃ! また日を改めてと考えておる」


「ふーん、わかった」


考えた結果、別の日に訪れるんだ。


気になる知り合いのこともそうだけど、よっぽど僕と一緒ギルドに入ること嫌らしい。


理由はわからないけど……。


この返事に疑問を抱いていると、その様子が気になったのか、じいちゃんが声を掛けてきた。


「大丈夫じゃ、そう緊張せずともよい! 手前まではワシも一緒に行くんじゃからな」


「えっ?!」


「なんじゃ? そんな驚いた顔をして、ワシはリズ。お主が緊張しているに違いないと思って行くことを決めたんじゃぞ」


じいちゃんは腕を組んで首を傾げている。


どうやら、じいちゃんには常識が通用しないらしい。わかっていたけど、ここまでとは。


飽きてものも言えない。


「それに手続きしてくれた相手には、手紙送ればいいしのう! まぁ、縁があればまた会うことあるじゃろう! ガハハハ」


真面目に考えていた僕の気持ちも察してほしい。


気を使って余計なことを言わないようにしてたのに。


「じいちゃんなんて、もう知らない!」


「お、おい、待つんじゃ!」


ころころと表情を変えるじいちゃんにムカムカしながらも、僕は冒険者ギルドへと向かった――。




☆☆☆




屋台があった大通りから、十分ほど歩いた場所に冒険者ギルドはあった。


「ここじゃな」


「おお、凄いすごい! 見たことない建物だ!」


ギルドの外観は他の建物と一線を画すような形をしていた。


まるで丸いお城って感じだろうか……? 


しかし、お城と違って余計な装飾などない。


大きさも、せいぜい普通の民家二軒分くらいだ。


あとは、正面扉の上に大きな翼を広げた魔物の看板がデカデカと飾られている。


凄い迫力だ。


僕がギルドの前で止まりまじまじと見つめていると、その様子を見ていたじいちゃんが話し掛けてきた。


「ふふっ、なんじゃ? やはり緊張しておるのか?」


じいちゃんはどことなく嬉しそうだ。


それに、ちょっと小馬鹿にされているような気もする。


少し腹立たしい。


でも、じいちゃんの言う通り僕は少し緊張していた。


というか不安だった。


こんな子供が冒険者な上に一人でクエストを受注しに来たなんて「受けるだけ無駄だ」とか「帰った方がいい」など、良くてもいい笑い者にされるに違いないと。


「緊張はしていないけど……その――。僕でも大丈夫かな? と思って……」


「ガハハハッ! 何を言っておるんじゃ! らしくもない!」


「らしくもないって……言われても……」


「まぁ、なんじゃ! 悩むより行動しろじゃ!」


「いや、でも……」


「いやもヘチマもありはせん! ほれ! さっさといってこい!」


大きな扉の前で思い悩む僕を前にじいちゃんは豪快に笑いながら、背中を押してきた。


「お、うぉっと!」


思わずびっくりして声を漏らしてしまった。


押したじいちゃんへ何か一言でも文句を言おうと振り返るがタッチの差で扉が閉じる。


「ちょ、ちょっと! じいちゃ――」


「ふふっ、あとでの――」


あとで、絶対に文句の一つでも言ってやろうと思う。


「何も押さなくてもいいんじゃない」とか。


「押すくらいなら一緒に来てほしかった」とか。


でも、これでは文句というか駄々をこねているようにしか聞こえないので、また別の言い方を考えておくとしよう。


そんな気持ち抱えながらも、僕は扉を開けたその先に目をやる。


すると、そこには色んな武器や防具を持った冒険者で溢れていた。


右側には素材を買い取る受付。


左側にはクエスト用紙を張り出す為の巨大なコルクボードが壁に掛けられており、正面にはクエストを受注する為の受付があった。


そんなギルド内は凄く活気に溢れている。


冒険者が自分達の持ち込んだ素材の買い取りやギルド内に張り出されているクエストの話、冒険の話でもちきりだ。


彼等は僕のような子供が入ってきても「よっ、ボウズ! 初クエストか!」とか「イシシシッ! 頑張れよ!」など一切馬鹿にすることなく、平等に接してくれた。


普通なら、眼帯を付けた奇妙な子供として扱うところだろう。


もしくは、コネを使ってきたことを疑うとか。


だけど、冒険者の皆は、そんな態度や素振りなどは一切、見せなかった。


何だったら、他にも「怪我に気をつけろよ……」と頭を撫でてくれる人も居たくらいだ。


こんなふうに、優しく接してくれた冒険者達のおかげで、抱いていた不安な気持ちは消え、僕はそのまま歩みを進める。


すると、巨大なコルクボードが目に入った。


どうやら見る限り、右側と左側でクエストの種類が分けられているようだ。


今回受注しようとしているのは、いつもこなしていた、ただの薬草(回復草)じゃなくて、しびれ草の採取クエストだ。


それはギルドに来るまでの道のりでもらったじいちゃんの助言もあってのこと。


討伐クエストなどは、それ相応の実力を身につけてからの方がいいと言う話になり、当分の間は様々な薬草を採取するクエストをこなすことになったのだ。


だから、コルクボード右側に張り出されてあった薬草の採取クエストに手を伸ばし、そのまま手に取ると薬草のクエストを受注する為、受付の方へと振り向く。


すると、その視線の先には、褐色の肌が印象的な眼鏡を付けたギルド職員の女性が座っていた。


職員の女性は、僕と視線が合うとニコッと微笑む。


なんというか……クエスト用紙を持ったせい?


それとも……職員の女性と目が合ったことで、緊張の度合いが増したのだろうか、両手両足が一緒に動いている気がする。


なので、僕は下を向いて自分の足の動きを確認してみた。


まず右手を出してみる。


うん、しっかり右足がついてくる。


一応、反対側も確認しておこうと思う。


意味はないような気もするけど念の為だ。


左手を出してみる。


うん、やっぱり確認するまでもなかったけど、左足が連動して動いている。


間違いなく一緒に両手両足同時に出ているようだ。


は、恥ずかしい。


きっと他人の目から見たら僕の顔は真っ赤になっていると思う。


顔を緊張して汗がいっぱい出ている手で触っても、熱くなっているのがわかるからだ。


僕がそんな事をしていると周囲から視線を感じた。


たぶん、受付に行くだけなのに時間を掛け自分の足の動きを確認している様子が面白いのだろう。


僕だって好きでしているわけじゃない。


早く直したい、でも直せない。


そんなことを考えていると、尚更元の歩き方がわからなくなってくる。


あれ? でも、いつもってどうやって歩いていたんだっけ?


ほんの少しだけど何だか笑い声も聞こえてきた。


それでも、僕は歩みを進める。


クエストを受注する為に――。

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