第3話 死ぬと言われた日②

僕が魔力測定を受けた翌日。


屋敷の近く水辺で母に抱かれ元気よく泣いていた僕の様態が急変した。


この症状に見覚えがある両親は急いで体内の魔力量を測ることの出来る魔導具があるライン王国の首都フリーデへ向かった。


そこで、再度詳細な魔力測定が行われることになり、その結果。


と診断されたようだ。


診断結果を聞いた両親は僕の未来の為、赤子だった僕をじいちゃんに託したらしい。


僕の寿命があと七~八年ということ。


そして、結果を聞いた優秀な両親がじいちゃんに託すことしかできなかったこと。


それに加えこの話をするじいちゃんの表情からして、難しいことだということは、幼い僕でも理解できた。


でも、僕はまだその言葉もその意味も知らない。


知ることは怖い。


怖いけど、このままでは前に進むこともできないのだ。


だから今、勇気を出して聞くしかない。


「ーーじいちゃん、魔力欠乏症って、なに……?」


「すまん、そうじゃな。まずは、そこからじゃな……」


じいちゃんは頭を下げ目をまっすぐと見つめて説明をしてくれた。


説明によると魔力欠乏症というものは、何らかの原因で体内で作られる魔力が極端に少なくなり、自由に魔法を使えなくなってしまう病気のようだ。


その魔力量は普通の人と比べ三分の一にくらいになるとのこと。


だが、無理に魔法を使わなければ、そのほとんどが大事に至ることはない。


でも、僕の場合はそう簡単に済む話じゃなかった。


それは、僕の属性がだからだ。


この世界に存在するものには、少しずつ魔力が宿っている。


それは生物の根幹ともいえる水も例外ではなく魔力を含んでいるのだ。


また、水属性のみが自然に存在する魔力と共鳴し自分の意思とは関係なく、体内にある魔力が外へ漏れ出してしまうらしい。


これが厄介で、この症状で失われた魔力は漏れ出す魔力を止めない限り回復することはないようだ。


そして、僕の体内に宿る魔力が枯渇するのが持って七~八年ということ。

なので、このまま何もしなければ魔力が枯渇し命の危機となるという。

これが僕の寿命が七~八年だということの理由だ。


一番手っ取り早い解決案は、全く水のない場所に行くこと。


ただ、この自然豊かな世界にそんな場所はなくどうすることも出来ない。


現状は残酷だった。


生まれたばかりなのに、もう寿命が決まっていてそれを解決する手段がない。


このままでは、どうやってもただ自分の死を受け入れるしかない。


そう思おうと努力したが自然と本音がこぼれた。


「なんで、僕がこんな目に……」


じいちゃんはその声を聞き逃さなかった。


そんなどうしようもない事実に絶望していると肩を強く叩き声を掛けてきた。


「……よいか? リズよ! 理不尽な世界を変えたいなら、まず自分を変えるしかない! それしか何も変えることは出来ん!」


じいちゃんはいつにもまして真剣な表情をしている。


でも、いくらじいちゃんに断言されても、どうしたらいいかわからない。


「でも、どうしたらいいかわかんないよ……」


これが僕の答えだった。


ショックはショックだった。


死ぬかも知れないと言われたことや両親に手が負えないからじいちゃんに預けられたこと。


ただ、いきなりじいちゃんの口から死ぬかも知れないと言われても実感が湧くことなんて全くない。


現に今の僕は年相応の体力もあるし、なにか疲れやすいなどの症状を全く感じなかった。


でも、とても不安だった。


それはじいちゃんの真剣な眼差しが避けようのない事実ということを物語っていたからだ。


こうやって思い悩む様子が気になったのか、じいちゃんは大きな手で肩をしっかりと掴んできた。


「任せろ! お主には、このワシがついておる!


じゃが、変わるか否かはお主自身にかかっておる!


もしかしたら、このワシの手をとったことを後悔するやもしれん。


それでも、この理不尽を変えたいなら、ワシの手をとるがよい!」


僕を信じ手を差し伸べてくれているじいちゃん目には僕が映っていた。


まだ何も起きていないのに、弱気になり卑屈になって、手を差し伸べてくれるじいちゃんの手を握ることもできない弱い自分が。


そんな弱々しい姿を見て思った。


もし仮にじいちゃんの手を取らなくても、じいちゃんは責めることはないだろう。


きっと、何も変わることなく寿命を迎えるその日まで笑顔を向けてくれるに違いない。


だけど、それではそんな事を選らんでしまったら、今目の前で自分の事を信じ手を差し伸べてくれている大切な人を裏切ることになる。


じいちゃんは、僕を信じているからこそ、この理不尽な真実を明かしてくれたんだ。


じゃあ答えは決まっている。


それは、この目の前にある大きな手を信じ抜くことだ。


だから、じいちゃんの大きな手を握った。


「じいちゃん!!………僕、自分を変えたい!!」


「ガハハハッ! さすが我が孫じゃ! ではいくかのう!」


「うん!」


そして、僕は豪快に笑うじいちゃんとそんな僕らを見守るスレイプニル(馬)と自分を変える為に改めて旅をすることを誓った。


あの時、じいちゃんの目に映った弱気な自分を。


卑屈な自分を。 


今の自分の全てを変える為に。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る