第2話 死ぬと言われた日①
じいちゃんの話によると、両親は各分野で才気あふれた人達だったようだ。
母は魔法や戦闘に長けており、元々冒険者であったじいちゃんと引けを取らないほどの実力を持っていたらしい。
じいちゃんが言うには「魔法なしであってもその辺の冒険者には負けん」とのこと。
一体、それがどの辺のことを言って、どれくらいの強さの冒険者を指しているのかわからないが、余計なことを言わず話を聞くことにした。
でないと昔話が好きなじいちゃんことだ。
聞いてもいないのにひとりでに語り始め、話が本筋を逸れていってしまう。
「うん、母さんのことはわかったよ! 凄く強かったんだね!」
「ああっ! 凄く強かったのう! まぁ今も強いじゃろうがな!」
母を強いと褒めたことが嬉しかったのか、じいちゃんは懐かしむような笑顔を浮かべていた。
じいちゃんと母の過去……特別な何かを感じた。
でも、父はどんな人だったのだろうか?
母が強かったなら父も強かったのだろうか?
それとももっと凄い人だったのだろうか?
「じ、じゃあ! 父さんは?! どんな人だったの?」
「ふふっ、そうじゃな。では次はお主の父について教えるとしようかのう」
「うん! お願い!」
「では、お待ちかねのお主の父ついてじゃが――」
話の続きを催促する僕の様子が面白いのか、じいちゃんは微笑みながら話を続けた。
☆☆☆
じいちゃんによると魔法や戦闘に長けている母に対して、父には魔法や戦闘の才能は全くなかったようだ。
ただ、それでも僕のように冒険者に憧れていて努力を続けることによって、何とか冒険者になることはできたらしい。
でも、その後自分の才能なさと限界を感じて冒険者を引退したとのこと。
だけど、父は自分に冒険者の才がないとわかると、そこで腐ることなく魔石や魔力の研究を始め、今では王命を受けて首都フリーデで魔石の新しい可能性を研究を任されるまでになったようだ。
「そんなに凄い人だったんだね!」
「ああっ! あやつらはほんと色々と凄かったからのう……」
両親の話をするじいちゃんはとても誇らしげな表情を浮かべていた。
僕自身もそんな凄い人達の元へ生まれたことがとても嬉しかった。
たとえ顔や名前も知らなくてもだ。
すると、俯く僕が気になったのかじいちゃんは雰囲気を変えるように「ゴホン!」と大きな咳払いし大きな手を頭に置くと話の続きを語り始めた。
「それからじゃが――」
僕が生まれた翌日。
魔力鑑定士と医師が屋敷を訪れていたようだ。
理由は、子供は未来の宝というライン王国の指針により義務付けられている簡単な魔力属性の鑑定と健康状態の確認、身体測定の為。
その魔力鑑定によると、僕の魔力属性はありふれた水属性とのこと。
「うむ、ここまではよいか?」
全く良くないし、普通にショックだ。
それは色んな分野に才覚を発揮している両親の話を聞いたことで他人とは違う、もしかしたら”勇者の行方”で語られるような(勇者と魔王の戦いを描いた物語)特殊な魔法が使えるかもと期待しながらじいちゃんの話を聞いていたからだ。
「うん……わかったけどさ――」
「ふふっ、よくはないな――」
じいちゃんは不満げな表情を浮かべる僕を見て微笑むと頭へ「ぽんぽん」と手を置き話を続けた。
☆☆☆
その後、同じく当日行われた身体測定、健康状態の確認など、どの結果も異常な箇所は見当たらず”平凡”と診断されたらしい。
これもショックだ。
わざわざじいちゃんと両親の間で六歳になってから生まれた日の話をするという約束をしたくらいだ。
本来であれば、何か特殊な事情があってもいいはず……。
例えば幼い頃から世界各地を”剣聖ジラット”と旅に出た勇者のように。
「……平凡なんてわざわざ言わなくても……期待してたのに……」
「まぁ、そんな落ち込むでない」
頭を下げ落ちこんでいると大きな手が頭を優しく撫でた。
じいちゃんはこうやって事あるごとに頭を撫でてくれる。
「ゲコゲコ」と鳴く魔物を捕まえるのに手こずったり、薬草採取の時に転んで怪我をした時など――。
どうして頭を撫でるのかは、わからないけど、確かなことはこの大きな手に撫でられると何だかいつも胸の辺りが暖かくなり、不思議と気持ちが落ち着く。
じいちゃんは頭を撫で終わると再び話を続けた。
「皆、お主の将来に期待をしてじゃな――」
その話によると僕が平凡と診断されても治めている領地の人達や家族は事実をしっかりと受け止めくれたようだ。
他にもじいちゃんの知り合いや色々な人達がお祝いに駆けつけてくれたらしい。
大きくなってからの楽しみが増えたという人。
きっと大器晩成する子だという人。
無限の可能性を持っているという人。
そんなふうに駆けつけてくれた人達は、測定結果で差別などすることなく、無事に生まれてきてくれたことを心から喜んでくれたようだ。
この話を聞けて本当に良かった。
たとえ才能がなくても努力し続ければ自分にあった物を見つけられることがわかったからだ。
父がそうであるように。
だけど、じいちゃんはこの話を終えると黙り込み俯いた。
その視線は積もった雪から少し顔を出している植物を見つめている。
先程まで、楽しそうに懐かしむように話していたというのにどうしてこんなにも急に雰囲気を変えたのだろうか?
何か落ち込むところでもあったのだろうか?
困難を乗り越えた父の話を聞いて落ち込むどころか励まされたくらいだ。
でも、普段ならこうやって僕が考え込んでいたら、真っ先に声を掛けてくれるというのに目も合わせてくれない。
このお話は、僕が考えているより、深刻な問題なのだろうか?
恐る恐る声を掛けた。
「……じいちゃん、どうしたの? なにかあったの?」
「……うむ、ワシは大丈夫じゃ……それより心してきくんじゃぞ――」
じいちゃんは深く息を吸い込むと言いかけた言葉を続けた。
「……リズ、お主の寿命は持ってあと七~八年じゃ……」
じいちゃんの表情はひどく暗く、口をつむぎ口唇を噛みしめている。
きっとじいちゃんもこの残酷な事実を僕に伝えたくなかったに違いない。
だから、少し前から様子がおかしかったのだろう。
でも、僕自身も突然告げられた事実を理解する事が出来なかった。
いや、理解とか以前に自分の耳を疑った。
それはついさっき平凡で目立った才能がなくても、僕が家族だけでなく、色んな人達に祝福されて生まれてきたことを知ったからだ。
だから、今の今まで自分のことを何も知らなくても、僕の将来を信じてくれている人達の期待に応えたい。
そして、父のように頑張ろうと思っていた。
でも、じいちゃんの言葉を聞いたことで抱いていた気持ちや考えが吹き飛んで反射的に聞き返していた。
「えっ? 七~八……年……」
「そうじゃな……」
じいちゃんは、僕に衝撃の事実を打ち明けた後、頭に手を置いて次の日の出来事も少し
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