第2話 陽菜を殺したかもしれない疑いのある者達

15年前の3月。

俺は2年生に進級する年に陽菜を失った。

交通事故だ。


俺はあまりの事に絶句し。

そのまま高校も不登校がちになり。

学校が暗くなってしまった。

その筈だったのだが。


「.....どうなっている.....」


30歳だった俺、鷺巣一太は何故か知らないが15歳にタイムスリップしており。

脳内は30のまま高校に通う事になる。

当然だが陽菜は生きている。


死んだ筈の陽菜が学生として生きている。

俺は.....好きだった相手が生きている事に.....本当に嬉しくて。

涙が止まらなかった。


「変なカズ。何で泣いているのか.....全くねぇ」

「ウルセェな。その事は放っておいてくれ」

「アハハ。でもそういう優しい所が好きだよ」

「.....お前な.....誤解されるぞ」


誤解?何が?、と陽菜は人差し指を唇に立ててから真っ赤になる。

俺はその姿に.....また涙を浮かべそうになる。

陽菜の癖である。

懐かしい景色に.....懐かしい匂い。

何故俺は.....タイムスリップしたのかは分からないが.....。


「カズ」

「.....何だ?」

「今日って覚えてる?」

「.....何を?」

「へ?!もう!忘れたの!?」


怒る陽菜。

わ、忘れたと言われても。

15年前にタイムスリップした様な人間が覚えている訳がない。

思いながら俺は慌てて思い出す。

だが何も分からなかった。


「ふーん。その程度なんだー。カズが覚えているのー」

「.....あの.....すいません。俺は何をしますの?今日」

「ボートに乗るって言ったよね。私」

「.....そうか.....成程」


今日は一緒に湖に新しく出来たボート乗り場からボートに乗るんだよ、とジト目になる陽菜。

俺は冷や汗を流しながら、そ、そうか、と反応してから。

そのまま考え込む。

そうか.....15年前はそんな事があったな、と思いながら。

すると大袈裟に体を屈めてから俺を見る陽菜。


「忘れるなんて珍しいね。私の約束」

「.....ああ.....そうだな」

「何かあったの?」

「何も。何もなかった」


陽菜の顔が近い。

俺は赤くなりながら横を見ていると。

目の前から、陽菜、と声がした。

顔を上げると黒の長髪の丸眼鏡の美少女が居る。

コイツは確か.....。


「あ。紹介するね。私の新しい友人の.....」

「亀山優菜(かめやまゆうな)だな」

「.....へ?.....へ?」


目をパチクリする2人。

亀山は、そうだけど.....え?会った事あるかな?、と俺に向いてくる。

そうだな。

忘れもしない。


俺は.....この女を.....。

何故かと言えば陽菜を殺した罪が掛かっている。

俺に余計な事を吹き込んだきっかけの。

そして陽菜に余計な事を吹き込んだ女子かもしれない。


「亀ちゃんは他クラスの転校生だよ?何で知っているの?.....あ!もしかして」

「もしかして何だ」

「.....浮気?」

「.....お前と付き合っても無いのに浮気か?」

「怪しいんだけど.....」


ジト目をする陽菜。

亀山は俺なんかに興味は無いさ。

何故なら.....コイツは。


俺が引き籠もりになった後に全て素通りで有名大学に行ったのだ。

だから興味は無い筈だ。

俺なんかに、だ。


「へえ?私の事を1日も経たずにそんなに知っているなんて。.....興味が湧くなぁ」

「.....そうだな。興味もお前の口癖の半分程だろ」

「何でそこまで知っているのかな?.....それは私の名言。.....ストーカーかな?」

「まあとにかく。お前友人なんだろ。陽菜を宜しくな。間違っても変な行動はするなよ」


そう言うと亀山はピクッと眉を反応させた。

それから、ますます興味が湧くな。.....そういう男子の反応は初めて、と言葉を発してくる。

俺は、?、を浮かべて亀山を見る。

おかしい。

何でこんなに興味を示している?


「ま、まあ。ね?とにかく亀ちゃんは良い人だから。仲良くしよう」

「俺は.....」

「私は構わないよ?この人に興味がある」


亀山は余計な言葉を発する。

俺はその言葉に目線をずらしながら空を見る。

そして考える。

確か.....敵はまだ居る。

陽菜を殺したかもしれない女も男も。


「カズ」

「.....?.....どうした?」

「何か今日は色々と全てが鋭いね。どうしたの?」

「.....別に。俺はいつも通りだ」


そうかなぁ?

何だか鋭敏な気がするけど、と陽菜は首を傾げる。

俺はその姿に亀山を見る。

亀山は、じゃあ学校行こうか。2人共、と切り出してくる。

その言葉に、そうだな、と警戒混じりで答えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

花びらを華に帰す為に アキノリ@pokkey11.1 @tanakasaburou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ