第6幕 出会い

第20話 導かれた先に

「いい天気ね」


 夏が過ぎ、秋になった。


 庭には森から風に乗って飛んできた葉っぱが散らばっている。


「後で小鳥に片付けるように言わないと」


 別に放っておいてもいい。


 誰も見やしないし。


「視界に入ると気になっちゃうのよねぇ」


 独り言を呟いていると、足元に猫のシロがやって来た。


「どうしたの」


「ニャー」


 抱き上げようとする前にシロは歩き出してしまった。


「ん?」


 数歩歩いてはこちらを振り返っている。


「ついて来いってことかしら」


「ニャー」


「当たりね」


 椅子から立ち上がりシロについて行く。


 死んでからというもの、病気になる前と同じように元気に歩けるようになった。


「杖がなしで歩けるなんて最高ね」


 歩くこと数十分。


 シロが導いた先は峠道。


「なんでこんなところ――」


 視界の端に二人の少女が映った。


 顔を向ければ、傷まみれで立ち上がろうとしている最中。


 服のあちこちが破けて血が出ている。


 でも、質のよさそうな服を着ているわね。


 やせ細っているのが気になるところ。


 確実に栄養が足りていないわね。


「こんなところでなにをしているの」


 いつの間にかシロはいなくなっていた。


 もう、どうして帰っちゃうのよ。


 あの子たちに私が視えなかったら、来た意味ないじゃない。


「「えっ」」


「あら」


 お互いにびっくり。


「貴女たち、私が見えるの?」


「見えます。こんなに穏やかに話しかけられたのは初めてですけど」


 ボブヘアの中学生ぐらいの少女が答えた。


 三つ編みおさげの幼稚園児ぐらいの子は静かに頷いている。


 彼女たちには私が視えているらしい。


 好都合ね。


「姉妹?」


「はい」


 姉が答える。


 彼女と会話していく感じね。


「どこから来たの」


「東京です」


 素直に答えすぎよ。


 そんなんじゃ悪い人にさらわれてしまうわよ。


 じゃなくて。


「妹さん、歩けなさそうね」


 人命救助を優先しましょう。


 姉の肩を借りて立っている妹さんを見る。


 姉の方も長時間森を歩けるとは思えない。


 ガサゴソ。


 草木をかき分ける音がした。


 振り返ると、


「ニャー」


 シロとともに


「あっ、聖! だから勝手にいなくならないでよ……って」


 小鳥は目をまん丸にして、姉の方を見ていている。


「どうしたの」


「いや、この子」


 私と姉の顔を見比べながら、


「昔見せてもらった聖の幼少期にそっくりなんだけど」


「……たしかに」


 怪我に注意がいって、顔をちゃんと見ていなかった。


 うん、似ているわね。


 そっくりどころか、そのまま。


 生き写しレベル。


 興味深いわね。


「んじゃあ、ここで長話するのもなんだし」


 小鳥が私を視る。


「そうね、屋敷で治療しましょう。詳しい話はそこで。それでいいかしら?」


 姉妹は同じタイミングで頷いたのだった。


 やっぱり素直すぎるのは考えものね。


 私たちが貴女たちに危害を加える存在だったらどうするのよ。


 あっ、一つ聞いておきましょう。


「二人とも、私が怖くないの?」


「「怖くないです」」


 純粋無垢ってこういう子たちのことを言うのかしら。

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