第19話 代償 1/2 *小鳥*

*小鳥*


「どうして触れるのか、聞かないのね」


 微笑む彼女はまさに女神。


 生前よりも美しい。


「だって聖に触れられるだけで十分だもん。もう一生会えないと思ってたもん」


「泣いていたものね」


 言わないでほしい。


 ちょっと恥ずかしい。


「少し昔話をしましょうか」


 そう言って聖は私の隣に座った。


「服汚れるよ」


 綺麗な真っ白なワンピースが。


「大丈夫、人間じゃないから」


「そっか」


 納得しちゃう私はちょろいかな。


 別にいいよね。


 これが私だもん。


「あのね私、実は左目がの」


「え、嘘」


「本当よ」


 マジで?


 左目がない?


 見えないじゃなくて?


 疑問が次々とわいてくる。


「だからいつも髪の毛で隠してたわ」


「あっ、たしかに」


 そういえば。


 くるぶしまであるスーパーロングヘアの聖は、いつだって髪の毛を左に流していた。


「気にしたことなかった」


「貴女らしいわ」


 またまた苦笑されてしまった。


 他の人に笑われたらキレて殺しているね。


 聖だからなにを言われたって構わない。


 そう思うほど、私は彼女に溺れて依存している。


「私の養父母はね、この世のものではない存在……つまりは霊が視える体質だったの。代々そうだったらしいわ」


 聖は話を戻し、続けた。


「私は視えないから羨ましくってね。大好きな養父母と同じように視えるようになりたい。そう思って」


 彼女は祠を指差した。


「左目を祠にお供えしたの。カラダの一部を差し出せば視えると思っていた」


「うぇっ、痛かったでしょ」


「そうね、痛かった。けれど、代償が必要でしょう? 痛みと左目を引き換えに、私は」


 聖は私の目をじっと見つめて、


「翌日から霊が視えるようになった」


「マジか」


「えぇ、本当よ。養父母は、『貴女は神様に愛されているのよ』と言ってくれたわ」


「左目のことはなにも言われなかったの」


 聖を児童養護施設から引き取った養父母は、とっても優しかったと聞いてる。


 そんな二人がなにも言わないわけない。


「言われなかったわ」


 言われませんでした。


 ある意味狂ってる。


「捧げものをしたからと言って、誰もが視えるようになるわけじゃないからね」


 坦々と言う聖はちょっと怖い。


「怖がらせちゃったかしら」


 私の心を見透かしたかのように聖は言い、ずっと左目を隠していた髪をかきあげた。


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