第18話 視える *小鳥*

*小鳥*


 聖のカラダを抱え、浴槽に横たえる。


「この1カ月視えていたのは、幻だったのかな。幽霊だったのかな」


 今日は一度も姿を現していない聖。


「約束したのに、殺してあげられなくてごめんね」


 頭をそっと撫で、再び地下へ。


 ホルマリンの瓶、解体道具、特別大きな木製のパズルの秘密箱を取って来る。


 心臓はホルマリン液が入った瓶に。


 肉は骨から丁寧に切り離していく。


 気づけば泣いていたけれど、手は止めない。


 私がやらなくちゃいけないことだもん。


「聖」


 彼女の頭蓋骨を手に取る。


 まだ聖は現れてくれない。


 もしかしたら、もう二度と現れてくれないのかもしれない。


 そしたら私が生きている意味、なくなっちゃうな。


 聖がいない世界なんてつまらないもん。


 数時間かけて解体を終えた。


 秘密箱に頭蓋骨と他の骨を全て入れ、爪や歯を入れた。


 それらとお供え物の心臓と血を台車に乗せ、祠に向かう。


「聖」


 手を合わせてから祠の扉を開く。


 心臓と脳みそを別々のをホルマリン液が入った瓶、秘密箱を入れ、ゆっくりと扉を閉じた。


 最後にお供え物を置く。


「聖」


 泣き止んだと思っていたのに。


 涙がまた流れ出す。


「聖……聖……聖」


 何度名前を呼んでも姿を見せてくれない。


 彼女を供養してしまったから?


 お願いだよ、聖。


 私は貴女がいなきゃ生きていけないんだよ。


 手を合わせ膝をついて泣いていると、


「泣き虫さん」


 世界で一番大好きな声が聞こえた。


「聖っ」


 振り返ると、そこには聖が苦笑いして立っていた。


「聖!」


 抱きしめたい。


 彼女の温もりを感じたい。


 でも、彼女は死んでしまっている。


 触れられるだろうか。


「手を」


 そっと手を差し出す。


 すると、彼女は私の手を握った。


「えっ」


「ふふふ、触れられるみたいね」


 幽霊なのに。


 なんで。


 温もりを感じるの。


 とかそんな疑問はどうでもいい。


 彼女が亡くなってから触れられなかった。


 やっと触れられるようになったんだ。


 それだけで十分だ。


「聖」


「なに」


 首を傾けて笑う。


 私の真似だ。


「幻じゃないよね」


 彼女は私の手をギュッと握り、


「幻じゃないわよ」


 優しい声音でそう言った。


**

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