第5幕 真実

第17話 彼女は *小鳥*

*小鳥*


「……うーん」


 もぞもぞ動いたって、


「寒っ」


 時計を確認すると午前4時。


 起きるには早い時間。


 まぁ、ここ最近は大抵この時間に起きるんだよね。


 寝室が寒すぎるんだもん。


 仕方ないんだけどねー。


「聖、おはよう」


 布団と寝袋から這い出して廊下に出れば適温。


「よしっ、ご飯食べますかあ」


 いつもは先に聖へ食事を持っていくけれど、今日はやらないといけないことがあるから後回し。


 食事をさっさと済ませ、寝室へと戻る。


「聖」


 言葉をかけても反応はない。


「聖」


 冷たすぎる彼女のカラダに触れた。


「もう1カ月経ったよ」


 寝室に私の声だけが響く。


「早いね。あっという間だよ」


 聖は児童養護施設に行った翌朝、眠るように亡くなっていた。


 いくらカラダを揺すっても声をかけても反応は返ってこない。


 カラダはまだ温かいのに。


 勝手に溢れ出す涙を拭っていたとき、聖に言われたことを思い出した。


「私が死んだら、部屋にあるノートを探して」


 悲しみに沈んでいる暇はない。


 急いで彼女の部屋の鍵を開け、入れば探し物はすぐに見つかった。


 机の上、表紙に『小鳥へ』と書かれた白いノートがあった。


 開けばエンバーミングの方法が1ページ目に書かれていた。


「聖ったら」


 何度も練習したから完璧だっていうのに。


 苦笑してしまう。


 私が気が動転して行動できない可能性を考えて、書き残してくれたのだろう。


 ノートを抱えて地下に降りた。


 チューブや薬品を段ボールに詰め、持って上がる。


 まずドライアイスを手配して、冷房をかける。


 作業に支障が出ない程度に部屋の温度を下げた。


 聖に教えてもらった通り、何度も実験体で練習した通り、彼女に処置を施す。


「できた……」


 ドライアイスが届くまで、冷房を最低温度まで下げておく。


 不要になった道具を燃やすために森へ行こうとしたら、足元に猫のシロが現れた。


「一緒に行ってくれるの?」


 シロは答えるように「ニャー」と一度鳴いた。


 私が作業を終え寝室に戻ると、シロはどこかへ去って行った。


「気まぐれな猫さん」


 日中に届いたドライアイスを寝室に運んだ後、寝袋と毛布を抱えて寝室に戻った。


 冷房とドライアイスのせいで滅茶苦茶寒い。


 でも、離れたくない。


 凍え死にそうな寒さでも、私は聖と一緒に寝たい。


「ねぇ聖」


 眠る前、彼女の頬を撫でる。


 彼女のことを元々神様みたいに神聖視していたけど、ベッドに横たわる彼女は、なんだか神聖さが増した気がする。


「わかってたんだね、自分がいつ死ぬか」


 だから珍しく自分から外出したいと言って、私たちが出逢った児童養護施設に行った。


「おやすみ。いい夢見てね」


 彼女の額にキスをして、私は寝袋に入った。


 翌日、死んだはずの彼女が庭にいて。


 ビックリしたし、幽霊なのはわかっていたけれど、傍にいてくれるのが嬉しかった。


 彼女へ運んでいた食事は、実は祠へのお供え物だった。


 綺麗になくなっていた理由はわからない。


 森の生物に食べられたのか、聖が食べたのか。


 わからない。わからない。


 ただ一つ言えることは、もうこれ以上聖を寝室に置いておけないこと。


 私は彼女を解体しなければならない。


**

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