第16話 傍にいて *小鳥*

*小鳥*


「聖っ、聖っ、どこにいるの!」


 外は土砂降り。


 いつも自室か庭にいる聖の姿が視えない。


「どこ、どこに行ったのっ」


 寂しい。


 私を置いていってしまったのだろうか。


 嫌だ。


 そんなのは嫌だ。


「まさか、森?」


 こんな天気の中。


 有り得なくもない。


 最近の彼女の行動は読めないから。


「行くしかない」


 玄関に向かったそのとき。


「聖!」


 玄関に突っ立っている彼女の姿があった。


「どこに行ってたの!?」


 自然と涙が溢れてくる。


「寂しかったんだから」


「ごめんなさいね、泣かせてしまったわ」


 彼女は優しく微笑んだ。


 頬を伝う涙を拭う私に、


「刑事、死んだよ」


 聖は坦々と告げた。


「え?」


 思わず手が止まる。


「どういうこと」


「カーブでスリップして、ガードレールを突き破って落ちた」


「ホントに!?」


「本当よ」


「聖がしてくれたの?」


「……」


 無言で彼女は微笑んだまま。


 ちょっと妖艶で美しい。


 きっと、じゃなくて絶対。


 聖がやってくれたんだ。


 私……いや、私たちのために。


「ありがとう!」

 

 嬉しくってたまらない。


「死体、拾いに行っていい?」

 

 首をコテンと傾ける。


 彼女は私のこの仕草が好きだと知っている。


「ダメ」


「えー、なんでよ」


 頬を膨らませて抗議する。


「事故死で片付けさせなきゃ。死体がなくなってたら、別の刑事が私たちに話を聞きに来るでしょ」


「そっかぁ」


 そりゃそうだよね。


 私一人だったら即回収しに行ってた。


 よかった。聖がいてくれて。


「あっ」


「どうしたの」


「これから外に出るときは言ってよ」


 先ほどの、半泣きの私を思い出したのだろう。


 聖は眉をハの字にして、


「そうよね。うん、ごめんね」


 謝ってくれたのだった。


**

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